コンテンプト・オブ・コート 4-19
アンカレッジ。
マリベル裁判官の邸宅。
応接室には大きな金庫が置かれていた。
扉は開いている。
内部には札束が積まれていた。
その前にコールが立っていた。手には黒い鞄を持っている。
マリベルはソファに座り、コールを見ていた。
「それで全部?」
「はい。今回の分はすべて揃っています」
コールは鞄を開いた。
中には、紙幣の束が整然と並んでいた。
一つずつ取り出し、金庫へ納めていく。
マリベルは黙って見ていた。
最後の束を入れ終えると、コールは金庫の扉を閉めた。
「私が市長になったら、都市開発計画を成功させます」
コールはマリベルに向き直った。
「この金庫百台分、いや、千台分の現金をあなたに納めます」
マリベルは答えなかった。
コールはその場に膝をついた。
そして、床に頭をつけた。
「裁判官。あなたは、どん底にいた俺を引き上げてくれた」
額を床につけたまま、コールは続けた。
「俺には何もなかった。金も、権力も、後ろ盾もなかった。あなたが俺に機会を与えてくれた」
マリベルはソファから立ち上がった。
コールの前まで歩く。
「だから?」
コールは頭を上げなかった。
「あなたの奴隷として、アンカレッジを治めると誓います」
マリベルはコールの頭に足を置いた。
「忘れないことね」
コールは動かなかった。
「あなたが市長になれるのは、あなた自身の力ではない」
「はい」
「私がそうなるように仕向けたからよ」
マリベルは足に力を込めた。
「自分の立場を勘違いしないこと」
「決して忘れません」
「結果を出して」
マリベルは足をどけた。
「ここからはあなたの仕事よ。しっかりやりなさい」
コールは立ち上がり、膝についた埃を払った。
「必ず」
マリベルはソファへ戻った。
コールは一礼してから、口を開いた。
「今度、市長選の決起集会を開きます。裁判官も、ぜひご参加ください」
マリベルは何も言わなかった。
コールは返事を待ったが、マリベルは窓の外へ目を向けたままだった。
「……ご都合がよろしければ、ということで」
コールは言い直した。
それでも、マリベルは答えなかった。
短い沈黙が流れた。
コールは話題を変えた。
「もう一つ、確認したいことがあります」
マリベルが視線を戻す。
「何?」
「市長殺害事件の裁判です。弁護側が提出した証拠映像についてですが……」
コールは言葉を選んだ。
「映像が認められ、カーターの無実が証明されたら、大変なことになります」
マリベルの表情が変わった。
「それがどうしたの?」
「念のため、今後の見通しを伺いたいのです」
「……あなたには関係ない」
コールは口を閉じた。
マリベルは立ち上がった。
「私に指図するつもり?」
「いえ。滅相もありません」
「裁判のことは私が決める」
マリベルはコールの前で足を止めた。
「私の裁判には誰も干渉させない。検察も、弁護人も、あなたもよ」
「……申し訳ありません。裁判官」
マリベルは背を向けた。
「帰りなさい」
コールは深く頭を下げた。
「失礼します」
応接室を出る。
廊下を歩き、玄関へ向かった。
扉を開けると、冷たい夜風が吹き込んできた。
コールは外へ出た。
玄関の扉が閉まる。
庭先に止めてあった車のそばで、秘書が待っていた。
「お疲れさまでした」
コールは車に乗り込んだ。
秘書が運転席へ回る。
エンジンがかかり、車が走り出した。
コールは窓の外を見ていた。
市長選。
ノース・ホライズン・シティ。
カーターの裁判。
問題は山積みだった。
しかし、今のコールにできることは一つしかない。
マリベルの命令に従い、市長になること。
そして、彼女が望む結果を出すことだった。
