コンテンプト・オブ・コート 4-18
アンカレッジ。
ローリーの自宅。
夜。
ローリーは玄関のドアを開け、室内に入った。
鞄をテーブルに置く。
コートを脱ぎ、椅子の背に掛けた。
部屋は静かだった。
ローリーは台所で水を一杯飲み、リビングへ戻った。
テーブルの上には、市長殺害事件の資料が置かれている。
凶器。
血液。
指紋。
靴跡。
証人の供述。
そして、マイク・ハンター。
ローリーは椅子に座り、資料を開いた。
証拠映像の写真が目に入る。
カーター刑事は犯行時刻、証人の店にいた。
それを裏付ける映像も見つかった。
それでも、マイクは何も驚いていなかった。
まるで、最初からこうなることを知っていたかのようだった。
ローリーは写真を机に戻した。
「……あなた、何者なの?」
マイクは自分の過去をほとんど話さない。
ニューヨークで何をしていたのか。
なぜアンカレッジに戻ってきたのか。
どうして市長殺害事件に執着しているのか。
聞いても、まともに答えようとしない。
ローリーは携帯電話を手に取った。
連絡先を開く。
ニューヨーク州の弁護士協会で働く友人、ケイトの名前が表示された。
ローリーはしばらく画面を見つめた。
時刻を確認する。
もう遅い。
だが、今聞かなければ、気になって眠れそうになかった。
発信ボタンを押す。
呼び出し音が続く。
四回目で電話がつながった。
『ローリー?』
聞き慣れた声だった。
「ケイト、遅くにごめんね」
『どうしたの? 何かあった?』
「ううん。ちょっと調べてほしい人がいるの」
『誰?』
ローリーは机の上の資料を見た。
「マイク・ハンターっていう弁護士」
電話の向こうで、少し間が空いた。
『マイク・ハンター?』
「そう。ニューヨークで活動していたらしいんだけど、詳しい経歴が分からなくて」
『弁護士なのよね?』
「ええ。本人はそう言ってる」
『本人は、って何?』
ローリーは小さく息を吐いた。
「実際に資格を持っているのは確認できた。でも、どんな事件を担当していたのか、どんな経歴なのか、ほとんど分からないの」
『普通は弁護士登録の記録くらい、すぐに確認できるでしょう?』
「登録だけじゃないの。過去にどんな事件を扱ったのか、誰と仕事をしていたのか。そういうことも知りたい」
『ずいぶん気になる相手なのね』
「仕事上の問題よ」
『本当に?』
「ケイト」
ローリーは少し強い口調で言った。
電話の向こうで笑い声がした。
『分かった、分かった。冗談よ』
ローリーは椅子の背にもたれた。
「お願いできる?」
『できる範囲でね。公的な登録記録や、公開されている裁判記録なら確認できると思う』
「ありがとう」
『それで、いつまでに必要?』
「できれば早めに」
『明日の朝から調べてみるわ』
「助かる」
ローリーは一度、言葉を止めた。
それから、声を落とした。
「もう一つ、お願いがあるの」
『何?』
「もし彼について、普通じゃない経歴が見つかったら、すぐに教えてほしい」
『普通じゃない経歴?』
「大きな事件に関わっていたとか、警察や政府関係者とつながりがあるとか。何でもいい」
『分かった。でも、まだ何も分かっていないんでしょう?』
「そうよ」
『なら、決めつけないことね』
ローリーは黙った。
ケイトの言うとおりだった。
マイクは何かを隠しているように見える。
だが、それだけで犯罪者だと決めつけることはできない。
「分かってる」
『調べたら連絡する』
「お願いね」
ローリーは携帯電話を切り、テーブルに置いた。
弁護士資格は確認できた。だが、それ以外のことはほとんどは分からない。
本人に聞いても、まともな答えは返ってこない。
「……明日には少し分かるかしら」
ローリーは資料を閉じた。
ケイトからの連絡を待つしかない。
ローリーはリビングの明かりを消した。
