コンテンプト・オブ・コート 4-16
アンカレッジ市内。
市街地から離れた場所に、使われなくなった倉庫があった。
窓ガラスは割れ、壁には落書きが残っている。周囲に人影はなかった。
黒いセダンが建物の前に止まった。
運転席から秘書が降り、後部座席のドアを開ける。
「こちらです」
コールが車を降りた。
「中か?」
「はい」
秘書が先に歩き、倉庫の扉を開けた。
先に到着していたジョニーが続く。
内部は薄暗かった。床には木片や金属くずが散らばり、奥の壁際に古い机と椅子が置かれている。
その前に、一人の男が立っていた。
男はコールを見ると、落ち着かない様子で頭を下げた。
コールは男の前まで歩いた。
「初めまして。なぜ私に連絡したのですか?」
男は周囲を確認してから答えた。
「困ったことがあったら、CEOに連絡しろと言われました」
「誰に?」
「知人です」
コールは男を見つめた。
「そうですか。では、あなたが何を見たか教えてください」
男は唾を飲み込んだ。
「市長が殺された夜、現場の近くにいました」
「何を見ましたか?」
「男が一人、倉庫から出てくるのを見ました」
コールの表情がわずかに変わった。
「それはカーター刑事ではなかった?」
「はい」
男はうなずいた。
「カーター刑事より背が高く、若かったです」
「顔は?」
「はっきりとは見ていません。ただ、カーター刑事ではありませんでした」
コールは黙っていた。
市長殺害事件はカーターの有罪で片付くはずだった。
だが、この男が法廷で証言すれば、話が変わる。
コールは男に近づいた。
「警察に話しましたか?」
「いいえ」
「なぜ?」
「警察に話しても、信じてもらえないと思いました」
男はコールの顔をうかがった。
「それに、俺にも生活があります」
コールは男を見た。
「……見返りがほしいんですね?」
男は小さくうなずいた。
「ほんの少しで大丈夫です」
「いくらですか?」
「金額は、そちらに任せます」
コールはしばらく男を見つめていた。
そして、隣に立つジョニーへ目配せした。
ジョニーが動いた。
男の背後に回り、両腕を押さえる。
「何だ? おい、何をする!」
男が振り返ろうとする。
ジョニーは男を羽交い絞めにした。
「CEO! 話が違う!」
コールは答えなかった。
男が暴れる。
「俺は見たことを話しただけだ!」
ジョニーは男の右腕をひねり上げ、引きずるようにして、倉庫の奥へ連れていった。
そこには、上階へ続く鉄製の階段があった。
上階には手すりの壊れた通路がある。高さは二十メートルほど。下は打ちっぱなしのコンクリートだった。
「やめろ! 金ならいらない!」
男が叫んだ。
コールは動かなかった。
ジョニーが男を通路の端まで押しやる。
「頼む! 誰にも話さない!」
「もう遅い」
ジョニーはそう言うと、男を蹴り飛ばした。
男の叫び声が倉庫に響き、鈍い音がした。
男は二十メートルほど下の床に叩きつけられ、動かなくなった。
コールは下を見た。
「あいつの家に行け」
「はい?」
「家だよ。証拠が残っていないか探せ」
ジョニーはうなずいた。
「遺体は遠くに捨てておけ」
「分かりました」
コールは倉庫の出口へ向かった。
秘書が後に続く。
外へ出ると、冷たい風が吹いていた。
コールは車の前で足を止めた。
市長殺害の目撃者は消えた。
だが、マイク・ハンターがどこまで調べているのかは分からない。
コールは車に乗り込んだ。
「俺たちは選挙に集中する。邪魔をする奴が現れたら消せ」
秘書が運転席に座る。
「承知しました」
エンジンがかかった。
黒いセダンが走り出す。
ジョニーは男の遺体を別の車に乗せ、倉庫を後にした。
