コンテンプト・オブ・コート 3-21
アンカレッジ刑務所。
財務担当者は医務室のベッドに座っていた。
頬に腫れが残っている。
唇の端には血がにじんでいた。
マイクが椅子を引き、向かいに座る。
「大丈夫か?」
「……なんとか」
財務担当者は顔を上げた。
「奴らはあんたを消したいらしい」
財務担当者の目が細くなる。
「お前、いったい何なんだ?」
「弁護士だ」
「普通の弁護士じゃないだろ」
マイクは答えなかった。
財務担当者はしばらくマイクを見る。
「どうして、俺が狙われる?」
マイクは机の上に手を置いた。
「市長の在任中、テラ・インフラテックは急成長した」
「……」
「売上高は十倍」
財務担当者の表情が変わる。
「アンカレッジ市の主要な公共事業を、ほとんど全部請け負ったからだ」
財務担当者は視線を落とした。
「知ってたんだな」
「何を?」
「テラ・インフラテックが市の金をどれだけ動かしていたか」
財務担当者は答えなかった。
マイクは続けた。
「市長が予算を決める」
「……」
「市が発注する」
「……」
「テラ・インフラテックが受注する」
財務担当者は顔を上げた。
マイクは淡々と言った。
「金が動く」
「それだけじゃない」
初めて、財務担当者が口を開いた。
「何?」
「市長は、あの会社と別の計画も進めていた」
マイクは黙って聞く。
財務担当者は周囲を確認した。
医務室には看護師が一人いるだけだった。
それでも声を落とした。
「ノース・ホライズン・シティを知ってるか?」
「知らない」
「アンカレッジ史上最大の再開発プロジェクトだ」
財務担当者は続けた。
「市の北側を大規模に作り替える計画だ。住宅、商業施設、道路、港湾。新しい都市を一つ作るような計画だった」
「テラ・インフラテックが関わっているのか?」
「中心にいる」
マイクは黙った。
「でも、二十年前に一度止まった」
「なぜ?」
財務担当者は首を振った。
「詳しくは知らない」
「市が止めたのか?」
「……そうらしい」
マイクの目が変わる。
「それが、最近また動き始めた」
「誰が再開した?」
「市だ」
「市長は?」
財務担当者は答えなかった。
マイクが見る。
「市長が殺されたのは、その計画が再始動した直後か?」
財務担当者は答えなかった。
その沈黙が答えだった。
マイクは考えた。
市長。
テラ・インフラテック。
ノース・ホライズン・シティ。
三つの名前が頭の中でつながっていく。
「聞きたいことは二つだ」
財務担当者がマイクを見る。
「一つ目。コールCEOは、なぜ市長を殺害した?」
「……」
「二つ目。カーター刑事は、なぜ濡れ衣を着せられた?」
財務担当者はしばらく黙っていた。
「刑事が犯人かどうかは、俺には分からない」
「それで?」
「だが、最初の理由なら分かる」
マイクは身を乗り出した。
財務担当者は低い声で言った。
「ノース・ホライズン・シティだ」
「再開発計画が目的だった?」
「それだけじゃない」
「何がある?」
しばらくして、財務担当者が口を開く。
「この計画が再開すれば、アンカレッジの金の流れが全部変わる」
「どういう意味だ?」
「市の予算だけじゃない。土地、公共事業、企業、金融機関……」
財務担当者はマイクを見る。
「莫大な金が動く」
「そして、その中心にテラ・インフラテックがいる」
「ああ」
マイクは立ち上がった。
「二十年前に止まった計画が、なぜ今になって再開した?」
財務担当者は答えなかった。
ただ、マイクを見つめている。
「その答えを知ってる奴は?」
「上の人間だ」
「誰だ?」
財務担当者は視線を落とした。
「……市長の周りにいた人間だ」
マイクはそれ以上聞かなかった。
財務担当者が顔を上げる。
「お前、本当に弁護士か?」
マイクは振り返った。
「ああ」
そう答えて、医務室を出ていった。
