コンテンプト・オブ・コート 1-43
パトカーは暗い道路を走っていた。
マイクは後部座席に座っていた。
隣の女性は黙っている。
運転席の警官も何も言わない。
車内にはエンジン音だけが響いていた。
マイクは前を見た。
警官の左腕がハンドルを握っている。
その腕を見ているうちに、マイクは考えた。
このままでは母親のところへ戻れない。
「どこへ行くの?」
マイクが聞いた。
警官は答えなかった。
マイクは身体を前へ乗り出した。
「ねえ」
警官がルームミラーを見る。
その目とマイクの目が合った。
次の瞬間、マイクは運転席へ手を伸ばした。
警官の左腕をつかむ。
そして、その腕に噛みついた。
「ぐっ!」
警官が叫んだ。
ハンドルが大きく動いた。
パトカーが右へ流れる。
警官は右手でマイクを振りほどこうとした。
「離せ!」
マイクは離さなかった。
歯を腕に食い込ませる。
車体がさらに右へ寄った。
ガードレールが迫る。
警官がハンドルを戻した。
間に合わなかった。
車体の右側がガードレールに接触した。
金属音が響く。
パトカーが大きく傾いた。
窓ガラスが割れる。
車体はそのまま横倒しになり、さらに傾いて上下逆さまになった。
屋根が路面に接触する。
車体が少し滑り、止まった。
マイクは後部座席の床に身体をぶつけた。
頭を打った。
一瞬、何も考えられなかった。
やがて目を開ける。
車内が逆さまになっている。
座席も、窓も、すべてがいつもと違う位置にあった。
割れた窓から外が見える。
マイクはそこへ向かった。
手を伸ばし、窓の縁をつかむ。
身体を引きずる。
一度、手が滑った。
それでももう一度、窓枠をつかんだ。
身体を外へ出す。
道路に転がった。
冷たい路面だった。
マイクは起き上がろうとした。
その瞬間、足首をつかまれた。
「待て!」
警官だった。
上下逆さまになった車内から、警官が手を伸ばしている。
マイクの足をつかみ、車内へ引き戻そうとしていた。
「離して!」
マイクは両手を路面につき、身体を引いた。
警官の手は離れない。
そのとき、車内から女性が出てきた。
女性は割れた窓から身体を外へ出した。
そして、マイクの足をつかんでいる警官を見る。
迷うことなく、警官の身体へ覆いかぶさった。
「早く!」
女性が叫んだ。
警官が女性を振りほどこうとする。
女性は離れなかった。
マイクは動きを止めた。
女性が顔を上げる。
「逃げて!」
マイクは女性を見た。
「早く逃げて、振り返らないで」
マイクは立ち上がった。
一歩、後ろへ下がる。
女性は警官に覆いかぶさったまま動かなかった。
マイクは道路脇へ走った。
森の中へ入る。
枝が顔に当たった。
足が雪に取られる。
それでも走った。
後ろから声が聞こえた。
マイクは振り返らなかった。
女性に言われた通り、前だけを見て走った。
