コンテンプト・オブ・コート 1-42
パトカーは走り続けていた。
アンカレッジの市街地を抜けると、道路沿いの建物が少なくなった。雪の残る路肩を街灯が照らし、その明かりがフロントガラスを一定の間隔で横切っていく。
マイクは後部座席に座っていた。
隣には、先ほどから黙ったままの女性がいる。
女性は窓の外を見ていた。
マイクも窓の外を見た。
母親に何が起きたのかも、なぜ自分がこの車に乗せられたのかも、頭の中で整理できない。
ただ、母親を助けなければならない。
そのことだけが頭に残っていた。
「お母さん……」
マイクが呟いた。
女性が一度だけ顔を向けた。
マイクは続けた。
「死んじゃった……」
女性は何も言わなかった。
やがて、また窓の外へ顔を向けた。
運転席の警官も何も話さなかった。
無線にも応答しない。
両手でハンドルを握り、前方だけを見ている。
しばらくして、携帯電話が鳴った。
警官は片手をハンドルから離し、電話を取った。
「はい」
電話の向こうから、コールの声がした。
「腹の中のものを取り出したら、女と一緒に埋めろ」
「……分かりました」
警官は電話を切った。
携帯電話をポケットに入れる。
それ以上、何もなかった。
女性も何も言わない。
マイクには、電話の会話までは聞こえなかった。
車内にはエンジン音だけが響いている。
パトカーは市街地を離れ、幹線道路から脇道へ入った。
街灯が減った。
対向車もなくなった。
道路の両側には森が広がっている。
「どこへ行くの?」
マイクが聞いた。
警官は答えなかった。
「警察署じゃないの?」
返事はない。
マイクは運転席を見た。
警官は前を向いたままだった。
女性も何も言わなかった。
マイクは再び窓の外へ視線を戻した。
暗い。
見えるのは道路と木々だけだった。
パトカーの速度が少し上がった。
マイクは座席に身体を預けた。
母親の姿が頭に浮かぶ。
撃たれた母親。
血。
倒れた身体。
そこから先は、うまく思い出せない。
マイクは目を閉じた。
隣の女性が小さく身体を動かした。
シートがわずかに軋んだ。
マイクが横を見る。
女性は前を見ていた。
何も言わない。
マイクも何も言わなかった。
車はさらに暗い道路へ入っていく。
やがて街灯がなくなった。
ヘッドライトが照らす範囲だけが白く浮かび、その先は暗闇に消えている。
警官は速度を落とさない。
マイクは運転席の後ろを見た。
警官の左腕がハンドルの上で動いた。
袖口から腕が見えている。
マイクは一瞬だけそこへ目を向けた。
そして、また窓の外を見る。
女性も黙っている。
パトカーは森の中の道路を進んでいった。
車内に会話はなかった。
エンジン音だけが響いていた。
