コンテンプト・オブ・コート 1-23
アンカレッジ連邦地方裁判所。
午前。
法廷へ続く階段を、マリベル・ヴァレンタイン判事が上っていた。
黒い法服ではない。
公判前だった。
濃紺のスーツに白いシャツ。
手には事件記録のファイルを一冊だけ持っている。
階段には人が少なかった。
警備員が一人、踊り場に立っている。
マリベルは足を止めなかった。
今日の事件は、夫を殺害した女の公判だった。
被告人は長期間にわたって夫から暴力を受けていた。
殴打。
脅迫。
監禁。
暴力は一度や二度ではなかった。
最後に女は夫を殺した。
検察側は殺人事件として起訴している。
弁護側は、長期間の家庭内暴力によって追い詰められた末の行為だと主張していた。
マリベルは階段を上りながら、手にしたファイルを見る。
事件番号。
被告人の名前。
検察側の主張。
弁護側の主張。
必要な情報だけが並んでいる。
マリベルはファイルを閉じた。
踊り場を曲がる。
上階から法廷へ向かう人間の足音が聞こえてくる。
マリベルは時計を見た。
時間は予定どおりだった。
彼女は再び階段を上った。
法廷の扉が見えてくる。
その前に警備員が立っていた。
マリベルが近づくと、警備員が姿勢を正した。
「おはようございます、判事」
「おはよう」
マリベルは短く答えた。
扉の前で一度立ち止まる。
その向こうには、検察側と弁護側の双方が待っている。
今日の事件は、二つの主張が正面からぶつかる。
一人の男が死んだ。
一人の女がその命を奪った。
そして、その女がなぜそこまで追い詰められたのか。
マリベルは扉に手を掛けた。
静かに開く。
法廷へ入る。
公判が始まろうとしていた。
