コンテンプト・オブ・コート 1-21
四階の部屋。
しばらく誰も動かなかった。
マイクは床に座り、壁にもたれていた。
エイダンも向かい側の壁に背を預けている。
二人とも顔は腫れ、服は破れていた。
エイダンの部下たちは、少し離れた場所で黙っている。
最初に立ち上がったのはエイダンだった。
壁に手をつき、ゆっくり体を起こす。
「……最悪だな」
エイダンが部屋を見回した。
倒れた椅子。
ずれた机。
拳の跡が残った壁。
割れた照明のカバー。
「掃除しろ」
部下の一人が頷く。
マイクも壁に手をついて立ち上がった。
足元が少しふらつく。
「座ってろ」
エイダンが言った。
「大丈夫だ」
「顔を見れば分かる」
マイクは無視して立った。
そして、破れたシャツの襟を直した。
エイダンがマイクを見る。
「それで?」
「何が?」
「ここまでやって、まだ何かあるんだろ」
マイクは部屋の中央にある机を起こした。
その上に手を置く。
「ある」
「言ってみろ」
「この四階を事務所にする」
エイダンが眉を上げた。
「事務所?」
「弁護士事務所だ」
エイダンは数秒、マイクを見た。
そして笑った。
「お前、本当に弁護士なのか?」
「資格はある」
「いきなり殴りかかってくる弁護士なんて見たことない」
マイクは何も言わなかった。
エイダンは笑いながら頭を振った。
「なるほどな」
「何が?」
「いや。面白い男だと思っただけだ」
エイダンは近くの椅子を起こした。
腰を下ろす。
まだ顔が痛むのか、少しだけ顔をしかめた。
「弁護士事務所を開いて、何をする?」
「仕事をする」
「普通だな」
「普通でいい」
エイダンはマイクを見た。
「弁護士が一人で事務所をやるのか?」
「最初はな」
「金はあるのか?」
「何とかする」
「この建物、安くないぞ」
「知ってる」
エイダンはそれ以上聞かなかった。
なぜアンカレッジで事務所を開くのか。
なぜこの古い建物にこだわるのか。
マイクが何を探しているのか。
聞こうと思えば聞けた。
だが、聞かなかった。
エイダンは立ち上がった。
「酒を持ってこい」
部下の一人が振り返る。
「何本です?」
「あるだけ」
「分かりました」
部下が階段へ向かう。
マイクはエイダンを見た。
「仕事中だろ」
「お前と三十分殴り合った後に仕事をする気か?」
「俺はする」
「勝手にしろ」
エイダンは椅子に座り直した。
マイクも机の前の椅子を引いた。
二人の間に机がある。
さっきまで殴り合っていたとは思えないほど、静かだった。
「事務所の名前は?」
「まだ決めてない」
「考えてないのか」
「これから決める」
「計画性がないな」
「弁護士に必要なのは計画性だけじゃない」
「何が必要だ?」
マイクはエイダンを見る。
「度胸だ」
エイダンは一瞬黙った。
それから笑った。
「それなら、お前には十分ある」
階段から足音が聞こえてきた。
部下が酒瓶を数本抱えて戻ってくる。
机の上に並べた。
グラスも置く。
エイダンが一本を取った。
栓を抜く。
「飲め」
マイクは瓶を受け取った。
「乾杯するのか?」
「何に?」
「さあな」
エイダンは酒を注いだ。
「弁護士事務所の開設にでも」
マイクもグラスを取った。
二人はグラスを軽く合わせた。
「乾杯」
酒が喉を通る。
マイクは顔をしかめた。
頬の傷が痛んだ。
エイダンはそれを見て笑った。
「まだ痛いか?」
「お前ほどじゃない」
「そうか」
エイダンは酒を飲んだ。
マイクも飲んだ。
四階の部屋には、まだ殴り合いの跡が残っている。
その真ん中で、二人は酒を飲んでいた。
弁護士事務所の話は、それ以上続かなかった。
