コンテンプト・オブ・コート 1-20
四階の部屋。
時計の針が動いていた。
最初の一撃から、すでに三十分が過ぎている。
床には椅子が倒れ、机が壁際まで押し込まれていた。
窓ガラスにはひびが入っている。
壁紙は何カ所も剥がれ、床には血が落ちていた。
部屋の隅では、エイダンの部下たちが黙って二人を見ている。
誰も止めなかった。
止められる状態ではなかった。
マイクが拳を握る。
右頬は腫れていた。
唇から血が流れている。
シャツの襟は破れ、左肩は上がりにくくなっていた。
エイダンも同じだった。
鼻から血を流し、眉の上が切れている。
右目の周囲は赤く腫れていた。
それでも立っている。
「来い」
エイダンが言った。
マイクは答えない。
一歩踏み込んだ。
エイダンも動いた。
二人の拳が同時に出る。
マイクの拳がエイダンの頬を打つ。
ほぼ同時に、エイダンの拳がマイクの腹に入った。
鈍い音がした。
マイクの体が一瞬止まる。
それでも倒れない。
エイダンがもう一度拳を振る。
マイクは腕で受けた。
骨と骨がぶつかる。
痛みが走る。
マイクは距離を詰めた。
頭突き。
エイダンの顔が跳ねる。
そのままマイクの右拳が腹に入る。
エイダンが後ろへ下がる。
一歩。
二歩。
壁に背中が当たった。
部下の一人が息を呑んだ。
エイダンは壁から離れた。
「まだだ」
マイクは拳を上げた。
エイダンが突っ込んでくる。
二人は再び組み合った。
殴る。
掴む。
投げる。
倒れる。
起き上がる。
また殴る。
どちらも引かなかった。
マイクがエイダンの腕を取る。
エイダンが振りほどく。
マイクの肩に拳が入る。
マイクが膝を打ち込む。
エイダンが腹を抱える。
次の瞬間には、エイダンの拳がマイクの顎を捉えた。
マイクの体が浮いた。
床に倒れる。
「マイク!」
ジムが思わず声を上げた。
マイクは動かなかった。
エイダンも息を荒くしながら立っていた。
数秒。
マイクの指が動いた。
床を掴む。
ゆっくりと体を起こす。
「……まだやるのか」
エイダンが聞いた。
マイクは立ち上がった。
「お前がいるならな」
エイダンが笑った。
歯の間から血が流れた。
「気に入らねえな」
「俺もだ」
二人が同時に踏み込んだ。
拳が交差する。
マイクの拳がエイダンの顎に入る。
エイダンの拳がマイクの頬に入る。
二人の体が同時に揺れた。
それでも拳を止めない。
もう何回殴ったのか、誰にも分からなかった。
時計だけが時間を刻んでいる。
三十分。
最初に倒れたのは、どちらでもなかった。
二人とも、ほとんど同時だった。
マイクの膝が折れる。
エイダンの体も傾く。
二人は同時に床へ倒れた。
鈍い音が二つ重なった。
静かになった。
誰も口を開かなかった。
ジムが一歩近づく。
だが、マイクの手が上がった。
「……来るな」
「大丈夫か?」
「分からない」
マイクは仰向けになったまま天井を見た。
呼吸するだけで腹が痛む。
右腕も痛い。
左肩も痛い。
顔はもっと痛かった。
エイダンは数メートル離れた場所で倒れている。
こちらも起き上がらない。
部下の一人がエイダンのところへ向かおうとした。
「触るな」
エイダンが言った。
声は低かった。
部下は止まった。
エイダンは目だけを開ける。
天井を見る。
そして、横に倒れているマイクを見た。
「……お前」
マイクが顔を動かす。
「何だ」
「疲れた」
エイダンが一瞬黙った。
それから、小さく笑った。
「お前誰だよ……」
エイダンはゆっくり息を吐いた。
「こんなにボロボロになったのはアフガン以来だ」
マイクも笑った。
ただし、顔を動かしただけで頬に痛みが走った。
「俺もだ」
「嘘つけ」
「本当だ」
「お前、軍人じゃないだろ」
「違う」
「じゃあ何者だ」
マイクは答えなかった。
天井を見たまま、目を閉じる。
エイダンもそれ以上は聞かなかった。
四階の部屋には、二人の荒い呼吸だけが残った。
床には血と汗が落ちている。
壁には拳の跡が残っていた。
ジムは部屋を見回した。
「……これ、修理代がかなりかかるな」
マイクが目を閉じたまま言った。
「エイダンに払わせろ」
エイダンが即座に返した。
「お前が壊したんだろ」
「半分はお前だ」
「証拠は?」
「壁が知ってる」
エイダンが笑った。
そして、また目を閉じた。
誰も二人を起こそうとはしなかった。
