コンテンプト・オブ・コート 1-15
建物の中は外から見た以上に古かった。
入口を入ると、正面に狭い階段があった。壁には古いテナント案内が掛かっている。何枚かのプレートは外され、残った文字も半分ほど消えていた。
ジムが階段を見上げた。
「エレベーターは?」
「ない」
「五十年以上前の建物だからな」
ジムは先に階段を上がった。
マイクも続く。
一階から二階へ。
二階から三階へ。
階段の踊り場には、長年の汚れが黒く残っていた。手すりは何度も塗り直された跡がある。
三階に着いたところで、ジムが足を止めた。
「四階だ」
マイクが上を見る。
「上に誰かいるのか?」
「いる」
「誰だ?」
ジムは一段上がった。
「エイダン・フォックス」
「さっき言ってた金貸しか」
「そうだ」
「どんな男だ?」
「会えば分かる」
ジムはそれ以上説明しなかった。
マイクは階段を上りながら聞いた。
「そいつが四階を全部使っているのか?」
「全部じゃない。大半だ」
「部下もいる?」
「何人かいる」
「武装してるか?」
ジムが振り返った。
「たぶんな」
マイクは眉を動かした。
「事務所探しに来ただけなんだけどな」
「俺に言われても困る」
二人は四階に上がった。
廊下は狭かった。
奥に一枚の扉がある。
扉の前には男が二人立っていた。
一人は壁にもたれ、もう一人は腕を組んでいる。
二人ともジムを見ると、何も言わずに道を空けた。
ジムがマイクを見る。
「ここだ」
マイクは扉を見た。
古い木製の扉だった。
塗装はところどころ剥がれている。
その向こうから、人の話し声が聞こえた。
低い声だった。
マイクは一歩前に出る。
ジムが扉を開けた。
部屋の中には数人の男がいた。
古い机。
ソファ。
壁際に積まれた段ボール。
奥には大きな窓があり、アンカレッジの街が見えた。
その部屋の中央に、一人の男が座っていた。
エイダン・フォックス。
男は顔を上げた。
ジムを見る。
それからマイクを見る。
数秒、誰も口を開かなかった。
エイダンが椅子から立ち上がった。
「誰だ?」
ジムが答える。
「この男が新しいテナントだ」
エイダンはマイクを見た。
「新しいテナント?」
「そうだ」
エイダンはマイクの全身を一度見た。
スーツ。
コート。
革靴。
そして、腰のあたり。
「弁護士か?」
マイクは答えなかった。
エイダンが笑った。
「ずいぶん物騒な顔をした弁護士だな」
マイクは部屋の中を見回した。
四階。
この部屋。
古い壁。
古い床。
そして、二十年前から残っているものがあることを、まだ知らなかった。
「ここを借りたい」
マイクが言った。
エイダンの笑みが消えた。
「ここを?」
「ああ」
部屋の空気が変わった。
エイダンの部下たちがマイクを見る。
ジムは何も言わなかった。
マイクも動かなかった。
エイダンがゆっくり椅子に座った。
「話を聞こうか」
マイクはエイダンを見た。
「ここで弁護士事務所を始める」
エイダンは数秒黙った。
そして、鼻で笑った。
