コンテンプト・オブ・コート 1-14
アンカレッジ市内に入ってから、二十分ほど走った。
道路脇に残った雪は黒く汚れていた。除雪された道路には融雪剤が撒かれ、タイヤがそれを細かく跳ね上げている。空は低く、雲が市街地の上に垂れ込めていた。
ジムはハンドルを握ったまま、交差点を左に曲がった。
「この先だ」
助手席のマイクは、手元の地図から目を上げた。
「古い建物なんだろ?」
「築五十年以上。四階建て。オーナーは建て替える気がないらしい」
「それなら安いな」
「安い。だから候補にした」
ジムが前方を見た。
「ただし、問題が一つある」
「何だ?」
「四階を使っている男がいる」
マイクはジムを見る。
「誰だ?」
「金貸しだ。名前はエイダン・フォックス」
「どこの金貸しだ?」
「それは知らない。少なくとも、普通の銀行じゃない」
「銀行を名乗ってないだろ」
「それもそうだ」
ジムは短く笑った。
車はさらに進んだ。
古い商業地区に入ると、建物の高さが落ちた。新しいビルの間に、半世紀前から残っているような建物が混じっている。
その一角に、それはあった。
灰色の外壁。
四階建て。
正面のガラスは曇り、入口の金属製の枠には錆が浮いている。壁面には古い看板を外した跡が残っていた。
ジムが路肩に車を止めた。
「ここだ」
マイクは何も答えなかった。
建物を見ていた。
初めて見る建物ではなかった。
正面玄関の位置。
二階へ続く窓。
四階の端にある、少しだけ大きな窓。
全部、覚えている。
二十年前。
この建物には、母親のリサがいた。
マイクは車内から目を離さなかった。
記憶の中にある建物と、目の前の建物が重なった。
外壁は塗り替えられている。
入口も変わっている。
それでも分かった。
ここだ。
リサが弁護士事務所を構えていた場所。
マイクはゆっくり息を吐いた。
「どうした?」
ジムが聞いた。
「何でもない」
「知ってる建物か?」
マイクは一瞬だけジムを見る。
「古い建物だなと思っただけだ」
ジムはそれ以上聞かなかった。
マイクは車のドアを開けた。
外に出る。
冷たい風が顔に当たった。
マイクは建物を見上げた。
四階。
窓の向こうに、かつて母親が使っていた部屋がある。
だが、そこに何があったのか。
マイクは口にしなかった。
ジムが車をロックする。
「行こう」
「ああ」
二人は歩道を渡り、古い建物の入口へ向かった。
マイクが先に扉を開ける。
錆びた蝶番が低い音を立てた。
薄暗い階段と、古い照明が目に入る。
マイクは一度だけ立ち止まった。
それから何も言わず、中へ入った。
ジムも後に続いた。
扉が閉まる。
外の道路から聞こえていた車の音が、わずかに遠くなった。
