妊娠・出産後も続く職場の壁、米国で進む法整備と現場の課題
米国では法整備が進んでいるものの、制度を知り、雇用主に必要な配慮を求めること自体が負担になる場合もある。
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妊娠や出産を経験した女性が、職場で必要な配慮を受けられないケースが依然として存在する。米国では法整備が進んでいるものの、制度を知り、雇用主に必要な配慮を求めること自体が負担になる場合もある。
象徴的な事例が救急医療技師のヘイディ・フェルナンデス(Heidi Fernandes)氏だ。出産から3カ月後に職場へ復帰した際、勤務先には母乳を搾るための個室がなかった。フェルナンデス氏は同僚が食事をしていない時間を選び、搾乳していたところ、責任者が突然訪れ、顔を合わせることになった。本人は「この出来事が今後の昇進や仕事に影響するのではないか」と不安を感じたという。
米国では2023年に「妊娠中の労働者の公平法(Pregnant Workers Fairness Act)」が施行された。従業員15人以上の雇用主に対し、妊娠中や出産後の従業員が仕事を続けられるよう、合理的な配慮を提供することを求めている。対象となる配慮には、重い物を持つ作業の軽減、妊婦健診などに合わせた勤務時間の変更、有害な化学物質への接触を減らす措置などが含まれる。
この法律は、妊娠そのものだけでなく、出産に関連する健康状態にも適用される。さらに、体外受精を受けている労働者や、重いつわりなど妊娠に伴う症状を抱える労働者も保護の対象となる場合がある。一方、一部の宗教系雇用主については、連邦裁判所の判断によって生殖医療への配慮義務に例外が設けられている。
妊娠をいつ職場に伝えるかも、働く女性にとって難しい問題となっている。法律上の保護を受けるためには、雇用主が妊娠や出産などに関連した配慮の必要性を認識している必要があるが、上司や同僚全員に知らせなければならないわけではなく、人事部門などに直接相談できる場合もある。専門家は、配慮を求める際にはやり取りを記録し、必要に応じて書面で残すことを勧めている。
就職活動でも妊娠は難しい問題になる。妊娠を理由に採用や昇進の機会を失わせることは差別に当たるが、実際には妊娠を知られたことで不利になるのではないかと考え、妊娠を隠そうとする女性もいる。エイミー・グリーン(Amy Green)氏は、妊娠中に仕事を探す際、妊娠していることが分からないよう服装を工夫していた。
出産後も問題は終わらない。授乳中の女性には、搾乳のための休憩と、トイレ以外のプライベートな場所が保障されている。2022年に施行された授乳中の母親の緊急保護法も、こうした権利を支えている。
フェルナンデス氏は勤務先に搾乳場所がなかったため、患者を搬送する際に使う院内の部屋を利用していた。しかし、その後、上司から搾乳の休憩によって患者対応に支障が出るとして勤務シフトの変更を求められた。本人が支援団体に相談した結果、授乳を理由に勤務時間を変更することは報復行為に当たる可能性があると分かり、最終的に従来の勤務時間を維持できたという。
妊娠・出産と仕事の両立をめぐっては、法律による保護だけでなく、職場側が制度を理解し、実際の勤務環境に反映させることが重要になる。妊婦健診、職務内容の変更、産後の休暇、授乳や搾乳など、必要な配慮は出産前後で変化する。制度が存在していても、利用する側が不利益を恐れて申請できなければ、その権利は十分に機能しない。米国では、法的保護と職場の運用をどう結び付けるかが引き続き課題となっている。
