糖尿病:日本人のための新常識、知っておくべきこと
今後の糖尿病医療を表す重要な言葉が「個別化」である。同じHbA1cの患者であっても、年齢、腎機能、心血管疾患、体重、低血糖リスク、生活環境などが異なれば、適切な治療方法も異なる。
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現状(2026年8月時点)
「糖尿病」はもはや「一部の人だけがかかる生活習慣病」とはいえない。厚生労働省の令和6年国民健康・栄養調査によれば、糖尿病が強く疑われる者は約1,100万人と推計されており、12年間の推移では継続して増加している。一方、「糖尿病の可能性を否定できない者」は約700万人と推計され、こちらは減少傾向にある。
ここで重要なのは、糖尿病を単純に「甘いものを食べすぎた結果」と捉えないことだ。糖尿病は、遺伝的背景、加齢、内臓脂肪、食事、身体活動、睡眠など複数の要因が重なって発症する代謝疾患であり、特に2型糖尿病では、インスリンを分泌する膵β細胞の能力と、インスリンが効きにくくなるインスリン抵抗性との双方を考える必要がある。
日本で特に注意すべきなのは、「糖尿病患者が増えている」という数字だけでは、日本人の糖尿病の特徴を十分に説明できないことである。欧米型の糖尿病像では、肥満や強いインスリン抵抗性が前面に出るケースが多いのに対し、日本人を含む東アジア人では、比較的BMIが高くない段階でも2型糖尿病を発症する例が少なくなく、その背景にはインスリン分泌能力の問題があると考えられている。
この違いを理解しないまま「体重が標準だから大丈夫」「肥満にならなければ糖尿病にはならない」と判断すると、発症リスクを見逃す可能性がある。逆にいえば、日本人に必要な糖尿病対策は、単に体重を減らすことだけではなく、自分の血糖状態を把握し、食事や身体活動を含めた代謝全体を長期的に管理するという発想へ移行する必要がある。
日本人特有の体質と「古い常識」の限界
糖尿病をめぐる「古い常識」の代表が、「太っている人ほど糖尿病になりやすく、痩せている人はなりにくい」という考え方である。もちろん肥満は2型糖尿病の重要な危険因子であり、特に内臓脂肪の蓄積はインスリン抵抗性と関係するため、体重管理が重要であることに変わりはない。しかし、それだけでは日本人の糖尿病を説明できない。
近年の研究では、東アジア人は欧米人と比較して、同程度のBMIであっても糖尿病を発症しやすい傾向が示されている。東アジア人では、欧米人ほど大きな体重増加を伴わなくても糖代謝異常が進行する場合があり、特に膵β細胞の機能低下、すなわち必要な量のインスリンを十分に分泌できなくなることが重要な病態として研究されている。
ただし、「日本人はインスリン抵抗性が起こらない」という意味ではない。日本人でも肥満、内臓脂肪、運動不足、過剰なエネルギー摂取などによってインスリン抵抗性は生じるため、「日本人は痩せ型糖尿病だけを心配すればよい」という理解も誤りである。
つまり、日本人の糖尿病を考える際には、「肥満かどうか」という一つの物差しから、「インスリンを十分に出せるか」「インスリンがきちんと効いているか」「血糖値がどの程度上昇しているか」という複数の物差しへ視点を広げる必要がある。これが、従来の糖尿病予防論から現在の糖尿病医学へ移行するうえでの重要なポイントである。
さらに興味深いのは、日本人の糖代謝が遺伝的要因だけで決まるわけではないことである。日本人を対象とした研究では、同じ国内でも地域によってインスリン反応に差がみられ、食事内容などの環境・生活習慣がインスリン分泌や感受性と関連する可能性が示されている。つまり、「日本人だからこうなる」と固定的に考えるのではなく、遺伝的素因と生活環境が相互に作用していると考える必要がある。
この点は、糖尿病予防を考えるうえで極めて重要である。生まれつきの体質を完全に変えることはできなくても、食事、身体活動、体重、睡眠などの環境要因は一定程度変えることができるからである。
インスリン分泌能力の低さ
インスリンとは、血液中のブドウ糖を筋肉などの細胞へ取り込ませ、血糖値を調節する重要なホルモンである。食事によって血糖値が上昇すると膵β細胞からインスリンが分泌され、血糖値を適切な範囲へ戻す方向に働く。
ところが、インスリンの量が必要十分に分泌されなければ、血糖値を処理しきれなくなる。インスリン抵抗性が強くない人であっても、膵β細胞の分泌能力が低下すれば、食後血糖を中心として血糖値が上昇し、やがて糖尿病へ進行する可能性がある。
日本人を含む東アジア人の糖尿病については、この「インスリンを十分に出せない」という側面が欧米人との重要な違いとして研究されてきた。2025年に発表された日本・東アジア人の2型糖尿病病態に関するレビューでも、日本では非肥満者に2型糖尿病が発症する例が多く、その臨床的特徴として、著明なインスリン抵抗性よりも不十分なインスリン分泌が前面に出る場合があると整理されている。
過去の研究では、正常耐糖能の日本人における経口ブドウ糖負荷後のインスリン分泌が米国人より少ないことが報告されており、日本人の糖尿病発症を考える際に「分泌能力」の重要性が早くから指摘されてきた。近年の研究でも、日本人では欧米人と比較してインスリン分泌が低い一方、インスリン感受性が比較的高いという特徴が確認されている。
ただし、ここから「インスリンが少ない人は必ず糖尿病になる」と結論づけることはできない。糖尿病の発症はインスリン分泌だけで決まるものではなく、インスリン感受性、体脂肪分布、食事、運動、年齢、遺伝的要因などが複雑に関係するためである。
重要なのは、「太らなければ糖尿病を防げる」という単純な発想から一歩進み、「自分の体が血糖値を処理する能力を維持できているか」という視点を持つことである。これは自覚症状だけでは判断できないため、健康診断や医療機関での血糖検査が重要になる。
「太っていなければ安心」の誤解
日本人にとって最も危険な糖尿病の思い込みの一つが、「自分は太っていないから大丈夫」という判断である。確かに、BMI25以上は日本の基準で肥満と判定され、肥満を伴う糖尿病では減量による代謝改善が重要となるため、肥満対策は糖尿病予防・治療の基本である。
しかし、BMIはあくまで体格を評価する指標であり、糖尿病そのものを判定する指標ではない。日本糖尿病学会も、BMIはスクリーニングに適した簡便な指標である一方、筋肉量や体水分などの影響を受け、体脂肪の状態を完全に反映するものではないと説明している。
したがって、「標準体重だから血糖値も正常」とは限らない。見た目には痩せていても、加齢による筋肉量の減少、内臓脂肪の蓄積、身体活動量の低下、遺伝的なインスリン分泌能力などによって、糖代謝が悪化する可能性はある。
ここで重要なのが「見た目」と「代謝」を分けて考えることである。鏡に映った体型だけでは血糖値もHbA1cも分からず、糖尿病の初期段階では本人が異常を自覚しないことも少なくないため、健康状態を外見だけで自己判定することには限界がある。
一方で、「痩せている日本人はみな糖尿病リスクが高い」と過度に不安になる必要もない。糖尿病は多因子疾患であり、個人のリスクを評価するには、体重だけでなく年齢、家族歴、血圧、脂質、腹囲、生活習慣、血糖値、HbA1cなどを総合的に見ることが合理的である。
このように考えると、日本人にとっての「新常識」は単純である。「太っていなければ安心」でもなければ、「太っているから必ず糖尿病になる」でもない。重要なのは、体型だけでは見えない糖代謝の状態を定期的に確認し、リスクが高い場合には早い段階から生活習慣を修正することである。
2026年8月時点では、日本糖尿病学会から「糖尿病治療の手びき2026」が刊行され、専門医向けにも2026年版の資料が整備されている。糖尿病診療は、単に血糖値を下げることだけを目的とするのではなく、合併症を防ぎ、長期的な健康状態を維持する方向へ発展しており、一般の人にとっても「病気になってから対処する」のではなく、「発症リスクを早く見つけて管理する」という考え方がますます重要になっている。
医療・生活習慣における「新常識」
糖尿病対策について、かつては「食べる量を減らす」「甘いものを我慢する」「運動して痩せる」という説明が中心になりがちだった。しかし現在は、単純な我慢や短期間の減量ではなく、血糖、体重、血圧、脂質、身体活動などを長期的に改善し、その状態を維持することが重視されている。
日本糖尿病学会の「糖尿病診療ガイドライン2024」では、食事療法を糖尿病の血糖コントロールのために推奨しており、食事習慣への介入だけでなく、複数の生活習慣を組み合わせた介入についてもエビデンスが検討されている。つまり、「糖尿病だから特殊な食事を一生続ける」というより、本人の状態に合わせて健康的な食生活を構築するという方向へ考え方が変化している。
この変化を象徴するのが、「何を禁止するか」から「どうすれば続けられるか」への発想転換である。極端な糖質制限や過度なカロリー制限を短期間行うよりも、摂取エネルギーを適正化しながら、食品の質、食事の組み合わせ、食べる時間、身体活動を総合的に見直すほうが、長期的な生活習慣として成立しやすい。
もちろん、すでに糖尿病と診断されている人については、自己判断だけで食事量や薬を大きく変更してはいけない。腎症などの合併症がある場合には、たんぱく質や食塩などについて個別の調整が必要になる場合があり、医師や管理栄養士による評価が重要になる。
① 体重管理の新基準:「まず、いまの体重から5%減らす」
糖尿病対策を考えるうえで体重管理は重要だが、「理想体重まで一気に減らす」という発想は必ずしも現実的ではない。特に肥満を伴う人では、最初から大幅な減量を目標にするより、現在の体重から数%程度減らすことを最初の目標にするほうが、実行可能性と継続性を考えやすい。
ここで注意したいのは、「5%減量」がすべての人に適用される絶対的な医学基準ではないという点である。厚生労働省の肥満症・メタボリックシンドローム向けの運動プログラムでは、食事療法と運動療法によって現体重の3~5%程度を減量し、それを維持することが重要とされている。
例えば体重80kgの人なら5%は4kgであり、76kgが一つの目安になる。100kgなら5kg、60kgなら3kgであり、「5%」という考え方には、身長や現在の体重が異なる人でも、自分の状態に合わせて現実的な目標を設定できる利点がある。
ここで重要なのは、体重計の数字だけを追いかけないことである。体重減少によって血糖、血圧、脂質、腹囲などが改善しているかを確認しながら、その状態を維持できる生活を作ることが本当の目的になる。
特に日本人の場合、「痩せれば痩せるほど健康」という考え方にも注意が必要である。厚生労働省が示す2025年版の食事摂取基準では、目標BMIの範囲は年齢によって異なり、65歳以上では21.5~24.9とされているため、単純に体重を落とし続ければよいわけではない。
高齢者では、過度な減量によって筋肉量まで減少すれば、身体機能の低下につながる可能性がある。したがって「体重を減らす」という言葉を、「脂肪を適正化しながら筋肉や身体機能を維持する」という意味に置き換えることが重要になる。
体重管理で本当に見るべきもの
体重管理を始めると、多くの人は毎日の体重の増減に一喜一憂する。しかし体重は水分、食事量、排便、塩分摂取などによって日々変動するため、1日単位の数字だけで成功・失敗を判断する必要はない。
むしろ数週間から数か月単位で傾向を見ることが重要である。体重だけでなく、腹囲、血圧、HbA1c、空腹時血糖、血中脂質、運動量などを組み合わせれば、「体重はあまり変わらないが代謝状態は改善している」といった変化も捉えられる。
また、体重管理の目的は「見た目を細くすること」ではない。糖尿病においては、過剰な脂肪蓄積を抑え、インスリンが働きやすい身体環境を作り、血糖コントロールや心血管リスクの改善につなげることが本質である。
日本糖尿病学会も、2型糖尿病の治療の基本として、食事療法と運動療法によって適正に体重をコントロールし、インスリンの効きを改善することを挙げている。したがって、体重管理は単なる美容目的ではなく、糖代謝そのものを改善するための医学的な手段と位置づけるべきである。
② 食事の常識:「極端なカロリー制限」から「質と食べ方」へ
糖尿病の食事について最も大きな誤解の一つは、「糖尿病になったら、とにかく食べる量を極端に減らせばよい」という考え方である。確かに過剰なエネルギー摂取は体重増加や血糖管理悪化につながるが、極端に食事量を減らせば、それだけで健康的な食生活になるわけではない。
厚生労働省は糖尿病の食事について、適正なエネルギー量を確保しながら、主食・主菜・副菜を組み合わせるバランスのよい「健康食」を基本としている。さらに食物繊維の多い食品を積極的に摂り、脂質や食塩を控え、規則正しく食べ、ゆっくり食べることも勧めている。
つまり、重要なのは「カロリーをゼロに近づけること」ではなく、必要なエネルギーを確保しながら、食事全体の質を改善することである。糖質だけを敵視するのではなく、炭水化物、たんぱく質、脂質、食物繊維、ビタミン、ミネラルなどを総合的に考える必要がある。
特に日本の食生活では、ご飯、パン、麺類などの主食が日常的に食卓へ登場するため、「炭水化物を完全に排除する」という方法は現実的ではない。厚生労働省も、炭水化物に含まれる糖質は血糖値を上げる主な要因である一方、食物繊維には血糖値の急激な上昇を抑える働きがあるとしており、玄米、大麦、野菜、豆類、きのこ、海藻などを挙げている。
このため、「白米を食べたら悪い」という単純な判断ではなく、何を、どれくらい、何と組み合わせて食べるかを見る必要がある。例えば主食だけで食事を済ませるより、野菜などの副菜や主菜を組み合わせるほうが、栄養バランスを整えやすくなる。
「食べる順番」だけを過大評価しない
糖尿病対策をめぐっては、「野菜を最初に食べれば糖尿病にならない」といった単純な情報も広がっている。しかし、食べる順番だけで糖尿病のリスクを解決できるわけではなく、食事全体のエネルギー量や栄養バランス、食物繊維、身体活動などを総合的に考える必要がある。
一方、食事をゆっくり摂ることや、まとめ食いを避けることには実践的な意味がある。厚生労働省も、1日3食を基本として規則正しく食べ、欠食や遅い時間の夕食、間食の過多、まとめ食いなどを見直すことを勧めている。
ここから導かれる新しい考え方は、「食事制限」ではなく「食事設計」である。何を禁止するかを考えるのではなく、自分の日常の食事を分析し、問題の大きい部分から少しずつ修正していく。
例えば、毎日飲んでいる砂糖入り飲料を水や無糖飲料に変更する、主食だけで済ませていた昼食にたんぱく質と野菜を加える、夜遅くの大量の食事を減らす、といった変更は、極端なダイエットより継続しやすい。こうした小さな変更を積み重ねることが、結果的に長期間の血糖管理につながる可能性がある。
「何を食べないか」より「何を置き換えるか」
食生活を改善するときに有効なのは、単純な禁止ではなく置き換えで考えることである。例えば砂糖入り飲料を頻繁に飲む人なら、「甘いものを一切禁止する」のではなく、まず飲料を無糖に置き換えるだけでも摂取する糖質・エネルギーを減らせる。
同様に、麺類だけで済ませていた食事なら、野菜やたんぱく質を追加することで食事全体の構成を変えられる。重要なのは、毎日の食生活の中で「最も改善余地が大きく、しかも無理なく変更できる部分」を見つけることである。
これは糖尿病の予防を「根性論」から「行動科学」へ移行させる考え方でもある。最初から100点の食事を目指すのではなく、現在の食生活を60点から70点へ、70点から75点へと改善していくほうが、長期的には実行可能性が高い。
また、すでに糖尿病の治療を受けている場合は、自己流の極端な食事制限には注意が必要である。薬物療法やインスリン療法を受けている人では、食事量の急激な変化が低血糖などにつながる可能性もあるため、治療内容と食生活をセットで考える必要がある。
食事療法の「新常識」は、普通の健康食に近づいている
現在の糖尿病食は、かつてイメージされたような「病人専用の特殊な食事」とは異なる。厚生労働省も、糖尿病の食事は特別な食事が必要なのではなく、適量でバランスのよい「健康的な食事」が基本だとしている。
これは重要な変化である。糖尿病対策を「病気になった人だけの特殊なルール」と考えるのではなく、一般的な健康づくりそのものとして捉えられるからだ。
ただし、「健康食なら何をどれだけ食べてもよい」という意味ではない。必要なエネルギー量は年齢、体格、身体活動量などによって異なるため、個人に適した摂取量を考える必要がある。
結局のところ、2026年時点の糖尿病予防・管理における食事の基本は、極端に減らすことではなく、適量を守り、食事の質を高め、規則正しく食べ、それを長く続けることにある。これは一見すると地味な方法だが、糖尿病という長期間にわたって管理する病気に対しては、むしろ合理的な方法である。
③ 運動の常識:「いつでも・こまめに」で十分
糖尿病対策というと、「毎日30分以上走らなければならない」「ジムに通わなければ意味がない」と考える人が少なくない。しかし現在の考え方では、運動を特別な時間だけに限定する必要はなく、日常生活の中で身体を動かす機会を増やすこと自体が重要になる。
厚生労働省の「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」では、成人について、歩行またはそれと同等以上の身体活動を1日60分以上、週60分以上の息が弾み汗をかく程度の運動を行うことを推奨している。また、座りっぱなしの時間が長くなりすぎないよう、できるだけ頻繁に身体を動かすことも重要とされている。
ここでいう身体活動は、スポーツだけを意味しない。通勤や買い物で歩く、階段を使う、掃除をする、仕事中に歩く、立って作業するなど、日常生活に伴う活動も身体活動に含まれる。
この考え方には大きな意味がある。これまで運動習慣がなかった人にとって、「毎日1時間の運動を始める」という目標は心理的なハードルが高いが、「一駅分歩く」「エレベーターではなく階段を使う」「長時間座ったら一度立つ」といった行動なら生活の中に組み込みやすいからである。
「こまめに動く」が重要な理由
食後は血糖値が上昇する。食後に座り続けるのではなく、軽く歩くなどして筋肉を動かすことは、食後血糖の管理という観点からも合理的である。
筋肉は人体における主要なブドウ糖利用組織の一つであり、身体活動によって筋肉が収縮すると、インスリンの作用とは別の経路も含めてブドウ糖の取り込みが促進される。そのため、運動は「カロリーを消費して痩せるため」だけのものではなく、「血糖を処理する能力を助けるため」の活動でもある。
特に現代社会では、長時間のデスクワークやスマートフォン利用などによって座位時間が長くなりやすい。そこで「運動する時間」を確保するだけでなく、「座り続ける時間を減らす」という考え方を組み合わせることが重要になる。
これは糖尿病対策を考えるうえで非常に実践的な発想である。1日1回だけ運動して、その前後はほとんど動かないという生活よりも、日中に何度も身体を動かす機会を作るほうが、生活全体の身体活動量を高めやすい。
ただし、「こまめに動けば激しい運動は一切不要」という意味ではない。健康状態が許す範囲で、有酸素運動に加えて筋力トレーニングなどを組み合わせることで、体力や筋肉量を維持しやすくなる。
筋肉を守ることも糖尿病対策になる
日本では高齢化が進んでおり、糖尿病対策を「体重を減らすこと」だけで考えるのは適切ではない。特に中高年以降では、脂肪を減らす一方で筋肉量を維持することが重要になる。
筋肉は身体を動かすためだけの組織ではない。日常的に筋肉を使うことはエネルギー代謝や身体機能の維持にも関係するため、食事制限だけで体重を落とすのではなく、適切な身体活動を組み合わせることが望ましい。
したがって、「体重が減ったから成功」と判断するだけでは不十分である。脂肪が減ったのか、筋肉まで減ってしまったのか、身体機能が維持されているのかという視点も必要になる。
これは第2回で扱った「5%減量」という考え方ともつながっている。目標は単純な減量競争ではなく、代謝状態を改善しながら、将来的にも自立した生活を維持できる身体を作ることにある。
運動は「完璧」ではなく「継続」が重要
運動についても、最初から理想的な量を達成しようとする必要はない。現在ほとんど身体を動かしていない人であれば、まず座位時間を減らし、短時間の歩行を増やすだけでも生活習慣を変える第一歩になる。
厚生労働省の身体活動・運動ガイドも、個人の健康状態や体力などを考慮し、可能なものから取り組むことを基本としている。つまり、運動量の数字は「達成できなければ失格」という試験問題ではなく、自分の生活を改善するための目安として利用するのが適切である。
知っておくべき「隠れリスク」と検査の重要性
糖尿病について本当に恐ろしいのは、血糖値が高くなっても本人がすぐには気づけないことである。高血糖がかなり進行すると、口渇、多飲、多尿、体重減少、疲れやすさなどが現れることがあるが、初期段階では自覚症状がない場合も多い。
そのため、「体調がいいから大丈夫」という自己判断には限界がある。特に日本人では、明らかな肥満がなくても2型糖尿病を発症する可能性があるため、外見や体感だけでリスクを判断しないことが重要になる。
糖尿病のリスクを考えるうえでは、家族歴も重要である。親や兄弟姉妹などに糖尿病がある場合、遺伝的素因だけでなく、食事や身体活動などの家庭環境も含めて発症リスクが高くなる可能性がある。
さらに年齢、肥満、高血圧、脂質異常症、喫煙、身体活動不足なども関連する。したがって、「自分は甘いものをあまり食べない」という一つの情報だけで糖尿病リスクが低いと判断することはできない。
健康診断の「空腹時血糖」の罠
健康診断で糖尿病を調べる場合、多くの人が「血糖値」を見る。しかし、血糖値には測定する時間帯や食事の影響があり、1回の測定値だけですべての糖代謝状態を判断できるわけではない。
そこで重要になるのがHbA1cである。HbA1cは、過去1~2か月程度の血糖状態を反映する指標として利用され、健康診断や糖尿病診療において重要な検査項目となっている。
日本糖尿病学会の診断基準では、静脈血漿の空腹時血糖値126mg/dL以上、75g経口ブドウ糖負荷試験2時間値200mg/dL以上、随時血糖値200mg/dL以上、HbA1c 6.5%以上のいずれかが「糖尿病型」の基準として用いられる。ただし、一度の検査結果だけで直ちに糖尿病と診断されるわけではなく、血糖値やHbA1cの組み合わせ、再検査などを含めて医師が総合的に判断する。
ここで注意したいのが、「空腹時血糖が正常だったから糖尿病ではない」という誤解である。糖尿病の初期段階では、空腹時血糖がそれほど高くなくても食後血糖が先に上昇する場合があり、検査結果を一つだけ見て安心するのは適切ではない。
日本糖尿病学会は、75g経口ブドウ糖負荷試験について、空腹時血糖が正常域でも糖尿病が疑われる場合などに診断上重要な検査として位置づけている。特に糖尿病の家族歴、肥満、妊娠糖尿病歴などのリスクを持つ人では、単一の数値だけで判断せず、必要に応じて追加検査を検討することが重要になる。
つまり健康診断では、「基準値以内だった」という結果だけを見るのではなく、自分の血糖値やHbA1cが過去と比べてどう変化しているかを見ることが重要である。数年間にわたって少しずつ悪化しているのであれば、基準値を超えていなくても生活習慣を見直すきっかけになる。
自覚症状がないまま進行する恐怖
糖尿病は「血糖値が高い病気」という説明だけでは不十分である。慢性的な高血糖状態が続けば、細い血管や太い血管に影響を及ぼし、網膜症、腎症、神経障害などの糖尿病合併症や、心筋梗塞、脳梗塞などの発症リスクにも関係する。
特に糖尿病性腎症は、初期には本人が異常を感じにくいことがある。腎機能の低下が進行してから気づくのではなく、尿中アルブミンなどを含めて早期から状態を確認することが重要になる。
糖尿病網膜症についても同様である。視力が落ちてから受診するのではなく、糖尿病と診断された場合には眼科で定期的に検査を受け、視力に明らかな異常が出る前から管理することが重要になる。
この「症状が出る前に調べる」という考え方は、糖尿病対策の核心である。病気の存在を自覚してから行動するのではなく、健康診断などで異常を早期に発見し、まだ大きな症状がない段階から介入することで、将来の合併症を防ぐ可能性を高められる。
「正常値」だけで安心しない
検査結果を見るとき、最も注意したいのが「正常か異常か」の二択で考えることである。実際には、血糖値やHbA1cは連続的な数値であり、糖尿病の診断基準を超えた瞬間に突然リスクが発生するわけではない。
例えば、過去数年間にHbA1cが5.5%、5.6%、5.7%、5.8%と徐々に上昇しているなら、それは生活習慣や代謝状態について考える材料になる。もちろん、この変化だけで糖尿病と判断することはできないが、「基準値未満だから何も問題がない」と切り捨てるのも適切ではない。
日本糖尿病学会は、糖尿病の診断だけでなく、糖尿病予備群を含めた耐糖能異常の評価を重視している。将来糖尿病になる可能性が高い人を早期に把握することは、発症予防という意味で非常に重要である。
ここで「新常識」として覚えておきたいのは、健康診断は合格・不合格を判定する試験ではなく、自分の身体の変化を追跡するためのデータでもあるということだ。毎年の検査結果を保存し、血糖、HbA1c、体重、腹囲、血圧、脂質などの推移を見ることで、自分自身のリスク変化を把握しやすくなる。
糖尿病予防は「病気との戦い」ではなく「将来の選択肢を守ること」
糖尿病という言葉を聞くと、「食べたいものを食べられなくなる」「薬を一生飲まなければならない」といった否定的なイメージを持つ人もいる。しかし、予防・早期発見の段階では、生活習慣を少しずつ変えることで将来的なリスクを低減できる可能性がある。
重要なのは、糖尿病を「怖い病気だから何も食べない」という方向に持っていかないことである。必要なのは、現在の生活のどこにリスクがあるのかを把握し、体重、食事、運動、睡眠、検査という複数の要素を少しずつ改善することである。
そして、その改善を可能にするためには、自分の身体を「現在の健康状態」だけで評価しないことが重要になる。今日の血糖値が正常であっても、5年後、10年後も同じ状態である保証はなく、逆に現在少し血糖値が高くても、早期に生活習慣を改善することで状況を変えられる可能性がある。
糖尿病対策の本質は、病気になってから慌てて対処することではない。症状がない段階から自分のリスクを知り、小さな変化を長期間積み重ねることにある。
継続するためのマインドセット
ここまで見てきたように、糖尿病の予防・管理には、体重、食事、運動、検査という複数の要素が関係している。問題は、それらを「一時的に頑張る」のではなく、何年、何十年という長期間にわたって続けられるかという点にある。
糖尿病は、風邪のように数日間治療すれば終わる病気ではない。血糖値が改善したとしても、その後の生活習慣や加齢、体重変化などによって再び悪化する可能性があるため、「一度成功したから終了」ではなく、「良い状態を維持する」という発想が必要になる。
そのため、糖尿病対策で最も重要な能力の一つは、医学的知識そのものだけではなく、継続可能な行動を選択する能力だと考えられる。厳しい食事制限を1か月続けて挫折するより、多少不完全でも10年間続けられる生活習慣のほうが、長期的には大きな意味を持つ。
これは「努力しなくてもよい」という意味ではない。むしろ、自分が何をすれば続けられるのかを理解し、生活環境そのものを変えていくという、より現実的な努力が求められるという意味である。
「100点満点を目指さない」
糖尿病対策では、完璧主義がかえって障害になることがある。「毎日必ず運動する」「甘いものは一切食べない」「毎食完璧な栄養バランスにする」といった目標を最初に設定すると、一度失敗しただけで「もう駄目だ」と感じやすくなる。
しかし、糖尿病の生活管理は試験ではない。1回の食事が理想から外れたからといって、それまで積み重ねてきた改善がすべて消えるわけではなく、重要なのは次の食事や翌日の生活で元に戻すことである。
例えば、外食をした日に食べ過ぎたとしても、「今日は失敗したから明日は何も食べない」という極端な対応をする必要はない。翌日から通常の食事に戻し、歩く時間を確保し、長期的な体重や血糖の推移を確認するほうが合理的である。
この考え方は、糖尿病だけでなく生活習慣病全般に応用できる。目標を「完璧な生活」ではなく、「悪化したときに元へ戻れる生活」に設定することで、長期的な継続可能性は高まる。
「一つずつ変える」という方法
生活習慣を改善するときには、一度にすべてを変えようとしないことも重要である。食事、運動、睡眠、飲酒、間食、体重管理などを同時に改革しようとすると、負担が大きくなり、結局どれも続かなくなる可能性がある。
そこで、まず最も効果が期待でき、しかも変更しやすい行動を一つ選ぶ方法がある。例えば砂糖入り飲料を毎日飲んでいるなら飲料から変える、ほとんど歩かないなら昼食後に10分歩く、夜遅くに大量に食べるなら夕食の時間と量を見直す、といった具合である。
一つの行動が定着したら、次の行動を追加する。この方法なら、生活全体を一気に変えるのではなく、時間をかけて「糖尿病になりにくい生活」を構築できる。
数字を「自分を責める材料」にしない
体重やHbA1cなどの数値を記録することは重要だが、それを自分自身への評価にしてはいけない。体重が増えたから「意志が弱い」、HbA1cが上がったから「努力が足りない」と決めつけると、医療や健康管理そのものから離れてしまう可能性がある。
検査値は、あくまで身体の状態を示す情報である。数値が悪化した場合には、「なぜ悪化したのか」を考える材料として利用し、食事、身体活動、薬、睡眠、ストレス、体重などの変化を医療者と一緒に検討すればよい。
糖尿病治療では、本人の生活背景や価値観を踏まえて治療目標を設定することが重要になる。2026年の米国糖尿病学会の基準でも、血糖だけでなく体重、併存疾患、低血糖リスクなどを考慮して治療を個別化する考え方が明確に示されている。
今後の展望
糖尿病医療は現在、大きな転換期にある。従来は「血糖値を下げる」ことが治療の中心として捉えられやすかったが、現在は心血管疾患、腎臓病、肥満、脂肪肝などを含めて、患者全体の健康リスクを管理する方向へ進んでいる。
2026年の米国糖尿病学会の基準では、2型糖尿病に心血管疾患や慢性腎臓病などがある場合、血糖値だけではなく心血管・腎臓への利益を考慮して薬剤を選択する考え方が示されている。糖尿病治療は「血糖値を正常化する治療」から、「将来の合併症や死亡リスクをできるだけ減らす治療」へと広がっている。
CGMが変える「血糖を見る」という概念
今後さらに注目されるのが、持続血糖測定器、いわゆるCGMである。CGMは皮下のセンサーを利用して血糖の変化を連続的に把握するもので、従来の採血による「その瞬間の血糖値」とは異なり、食事や運動、薬によって血糖がどのように変化したのかを時間軸で把握できる。
2026年の米国糖尿病学会の基準では、インスリン治療を受けている人などを中心にCGMの利用が推奨され、治療状況に応じて幅広い糖尿病患者で活用が検討されている。さらに血糖値だけでなく、目標範囲内にいた時間、低血糖・高血糖の時間など複数の指標を利用して血糖状態を評価する方向が強まっている。
ただし、CGMを使えば糖尿病を予防できる、あるいは健康な人が全員CGMを装着すべきだという意味ではない。2026年の米国糖尿病学会基準でも、CGMを糖尿病や糖尿病前段階のスクリーニング・診断目的に一般的に使用する十分な根拠はまだないとされている。
重要なのは、テクノロジーそのものを目的にしないことである。データを収集することよりも、そのデータから食事、運動、薬物治療などを適切に調整し、健康状態を改善することが目的になる。
薬物療法も「血糖だけ」から変化している
糖尿病治療薬についても大きな変化が起きている。GLP-1受容体作動薬やGIP/GLP-1受容体作動薬、SGLT2阻害薬など、血糖低下だけではなく体重、心血管疾患、腎臓、心不全などへの効果を考慮して選択される薬剤が増えている。
2026年の米国糖尿病学会基準では、2型糖尿病で過体重・肥満を伴う場合、体重への有益な作用を持つ薬剤を優先する考え方が示され、GLP-1受容体作動薬やGIP/GLP-1受容体作動薬が重要な選択肢として位置づけられている。
ただし、これを「新しい薬を使えば食事や運動は不要」という意味に理解してはいけない。薬物療法は食事療法や運動療法の代替ではなく、個人の病態や合併症、治療目標などに応じて組み合わせるものである。
また、薬剤には副作用や禁忌、費用などの問題もある。SNSなどで話題になっている薬を自己判断で使用するのではなく、糖尿病や肥満症などの医学的適応がある場合に、医師と相談して使用することが原則となる。
「個別化」がこれからのキーワードになる
今後の糖尿病医療を表す重要な言葉が「個別化」である。同じHbA1cの患者であっても、年齢、腎機能、心血管疾患、体重、低血糖リスク、生活環境などが異なれば、適切な治療方法も異なる。
食事についても同様である。ある人に適した食事が、別の人にもそのまま適しているとは限らない。運動についても、年齢や筋力、関節の状態、心肺機能などによって安全な運動量は異なる。
したがって、「糖尿病なら全員が同じことをする」という時代から、「その人にとって最も安全で効果的で、しかも継続できる方法を選ぶ」という時代へ移行していくと考えられる。
日本糖尿病学会でも2026年5月に「糖尿病治療の手びき2026」が改訂第59版として刊行されており、同年には日本循環器学会と日本糖尿病学会による循環器病の診断・予防・治療に関するコンセンサスステートメント2026も刊行されている。糖尿病を血糖だけの問題として扱わず、循環器疾患などを含めた全身的なリスク管理へ広げる方向は、現在の医学の大きな流れといえる。
まとめ
「糖尿病、日本人のための新常識」を一言でまとめるなら、「太っているかどうか」だけで糖尿病を判断せず、血糖を含めた代謝状態を早期から管理し、無理なく続けられる生活を作ることが重要だということになる。
日本人では、欧米人と比較して、著明な肥満がなくても2型糖尿病を発症するケースがあり、インスリン分泌能力の違いがその背景の一つとなる。そのため、「痩せているから安心」という考え方には限界がある。
体重管理では、必要な人について現在体重の3~5%程度の減量を最初の目標として考えることができる。ただし、これは全員に一律に適用する数字ではなく、年齢、体格、筋肉量、疾患などを考慮して個別に判断する必要がある。
食事では、極端なカロリー制限や「糖質を完全に排除する」といった方法を基本とするのではなく、適正なエネルギー量を確保しながら、主食・主菜・副菜を組み合わせ、食物繊維を含む食品を取り入れ、食べ方や食事時間も含めて改善することが重要になる。
運動では、「ジムに通わなければ意味がない」という考え方を捨てる必要がある。歩く、階段を使う、家事をする、長時間座ることを避けるなど、日常生活の身体活動を積み重ねることにも意味があり、可能であれば有酸素運動と筋力トレーニングを組み合わせることが望ましい。
そして何より重要なのが検査である。糖尿病は自覚症状がないまま進行することがあり、空腹時血糖だけでは糖代謝の状態を完全には把握できないため、HbA1cなどを含めて経年的に確認することが重要になる。
健康診断の結果を見るときも、「基準値を超えたか、超えていないか」という二択だけで判断しないことが大切である。前年、前々年と比較して数値がどう変化しているのかを見ることで、まだ診断には至っていない段階の変化に気づける可能性がある。
最後に、糖尿病対策では「100点満点」を目指す必要はない。毎日の食事を完璧にすることより、悪い習慣を一つ改善し、その改善を長期間維持することのほうが重要である。
糖尿病は、ある日突然始まる病気というより、長い時間をかけて身体の代謝状態が変化した結果として現れる病気である。だからこそ、対策も一日で完成させる必要はなく、今日できる小さな改善を積み重ねていくことが合理的である。
2026年時点の糖尿病医療は、「血糖値を下げる」だけの時代から、「体重、血糖、心臓、腎臓、肝臓、生活の質を含めて、その人の将来を守る」時代へ移りつつある。日本人にとって必要なのは、糖尿病を過度に恐れることでも、健康診断の数字を無視することでもなく、自分の体質とリスクを知り、早期から現実的な対策を続けることである。
参考・引用リスト
- 厚生労働省「令和6年 国民健康・栄養調査結果の概要」――糖尿病が強く疑われる者、糖尿病の可能性を否定できない者などの国内統計。
- 一般社団法人日本糖尿病学会『糖尿病診療ガイドライン2024』――糖尿病の診断、食事療法、運動療法、肥満・体重管理、合併症などに関する国内の主要な診療指針。
- 一般社団法人日本糖尿病学会『糖尿病治療の手びき2026 改訂第59版』――2026年5月刊行の患者向け最新資料。
- 厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」――成人の身体活動、運動、座位行動に関する公的指針。
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「糖尿病の食事」――糖尿病におけるエネルギー摂取、栄養バランス、食物繊維、食事方法などの解説。
- 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」――年齢・性別などを考慮したエネルギー・栄養素摂取の基準。
- American Diabetes Association, Standards of Care in Diabetes—2026――糖尿病の診断、血糖管理、肥満・体重管理、薬物療法、糖尿病テクノロジーなどに関する2026年版国際標準。
- American Diabetes Association, Standards of Care in Diabetes—2026: Diabetes Technology――CGMなど糖尿病テクノロジーに関する2026年版指針。
- American Diabetes Association, Standards of Care in Diabetes—2026: Diagnosis and Classification of Diabetes――糖尿病・糖尿病前段階の診断基準およびスクリーニングに関する2026年版指針。
- 日本・東アジア人の2型糖尿病に関する医学レビュー――日本人・東アジア人におけるインスリン分泌能力、インスリン抵抗性、非肥満型糖尿病などの病態を検討した研究。
追記:「日本人のための新常識」をどう実生活に落とし込むか
厚生労働省の令和6年「国民健康・栄養調査」では、糖尿病が強く疑われる者は約1,100万人と推計されている。糖尿病は日本社会において極めて身近な疾患であり、本人が症状を自覚してから対応するのではなく、発症リスクの把握と早期発見を重視する必要がある。
一方で、「糖尿病患者が多い」という事実だけをもって、すべての日本人が同じ危険にさらされていると考えるのも正確ではない。糖尿病は遺伝的素因、年齢、肥満、内臓脂肪、身体活動、食事、睡眠などが複雑に関係する疾患であり、個人によってリスクの大きさは異なる。
日本人特有の体質と「古い常識」の限界
日本人を含む東アジア人の2型糖尿病では、欧米人と比較して、著しい肥満を伴わない状態でも発症するケースが多いことが重要な特徴となる。その背景の一つとして、インスリン分泌能力の違いが研究されている。
これは「日本人は肥満になっても糖尿病にならない」という意味ではない。むしろ、日本人では比較的少ない体重増加でも糖代謝の処理能力を超えてしまう場合があるため、肥満の有無だけでリスクを判定することに限界があるという意味である。
したがって、「太っている=糖尿病」「痩せている=安全」という二分法は適切ではない。日本人の糖尿病対策では、体重だけでなく血糖値、HbA1c、腹囲、血圧、脂質、家族歴、身体活動などを総合的に評価する必要がある。
インスリン分泌能力の低さ
日本人の2型糖尿病を理解するうえで、インスリン分泌能力は重要な概念である。食事によって血糖値が上昇すると、膵β細胞からインスリンが分泌されるが、この分泌が必要量に達しなければ血糖値を十分に処理できなくなる。
特に東アジア人では、欧米人と比較してインスリン分泌能力が低い傾向が報告されている。したがって、日本人では「体重を増やさない」という対策だけでなく、「膵β細胞に過剰な負担をかけない生活」を長期的に考える必要がある。
ただし、ここでも単純化は避ける必要がある。2型糖尿病はインスリン分泌低下だけで説明できる病気ではなく、インスリン抵抗性と分泌能力の双方が関係するため、「日本人はインスリンが少ないから糖尿病になる」と断定するのは医学的には不十分である。
「太っていなければ安心」の誤解
日本人にとって最も修正すべき認識の一つが、「痩せているから糖尿病とは無縁」という考え方である。BMIは肥満を評価するための有用な指標だが、筋肉量、脂肪分布、年齢などを完全に反映するものではなく、糖尿病そのものを判定する検査ではない。
特に中高年では、体重が大きく変わらない一方で筋肉量が減少し、体脂肪率や内臓脂肪の割合が変化することもある。したがって、体重だけを見て健康状態を判断するのではなく、身体活動量や腹囲、血液検査などを組み合わせることが重要になる。
医療・生活習慣における「新常識」
ここまでの検証から見えてくる新常識は、「何か一つの方法を徹底する」というものではない。糖尿病リスクを下げるためには、体重、食事、運動、検査をそれぞれ適切なレベルで管理し、それを長期間維持することが重要である。
そして重要なのは、「健康食品」「特定の食材」「特別な運動」など一つの方法に過剰な期待を寄せないことである。糖尿病は多因子疾患であるため、一つの食品や一つの運動だけで発症リスクを完全に消すことはできない。
① 体重管理の新基準:「まず、いまの体重から5%減らす」
「5%減量」という数字は、糖尿病対策を考えるうえで非常に使いやすい目安である。例えば80kgなら4kg、70kgなら3.5kgであり、いきなり10kg、20kgという大きな目標を設定するよりも、現実的な第一段階として考えやすい。
ただし、「5%減れば糖尿病が治る」という意味ではない。また、すべての人が5%減量すべきという意味でもない。
肥満を伴う糖尿病では、体重減少によって血糖管理や代謝状態が改善する可能性があり、減量は重要な治療手段となる。しかし、高齢者や低体重者などでは過度な減量が筋肉量低下や低栄養につながる可能性があるため、個別判断が必要である。
したがって、より正確な「新常識」は、「肥満や過剰な体脂肪がある場合、まず現在体重の数%程度を減らすことを現実的な初期目標として検討する」という表現になる。
② 食事の常識:「極端なカロリー制限」から「質と食べ方」へ
糖尿病の食事療法についても、「食べないこと」が目的ではない。必要なエネルギーを確保しながら、主食・主菜・副菜を組み合わせ、食品の質と摂取量を適正化することが基本になる。
特に重要なのは、日常的な食事の中で改善効果が大きい部分を探すことである。砂糖入り飲料、過剰な間食、夜遅い時間の大量摂取、主食だけで済ませる食事など、本人の生活に存在する具体的な問題を一つずつ修正するほうが現実的である。
「糖質は悪」という考え方にも注意が必要である。炭水化物は重要なエネルギー源であり、糖質だけを極端に制限するのではなく、食物繊維を含む食品を選び、全体の摂取エネルギーと栄養バランスを整えることが重要になる。
また、すでに糖尿病治療薬やインスリンを使用している場合には、自己判断による極端な食事変更は避けるべきである。食事量の変化と薬剤の作用が組み合わさることで、低血糖などの問題が生じる場合があるためだ。
③ 運動の常識:「いつでも・こまめに」で十分
運動についても、特別なスポーツだけを考える必要はない。歩行、階段、掃除、買い物、通勤、仕事中の移動など、日常生活に含まれる身体活動を増やすことが重要である。
特に現代社会では「運動不足」と同時に「座りすぎ」が問題になる。長時間座り続ける生活を避け、定期的に立ち上がって歩くことは、身体活動量を増やす現実的な方法になる。
もちろん、可能であれば有酸素運動に加えて筋力トレーニングを取り入れることも有用である。重要なのは、「運動を始めるなら完璧なプログラムを作らなければならない」と考えないことだ。
最初は短い歩行でもよい。そこから徐々に活動量を増やし、最終的に厚生労働省が示す身体活動量の目安へ近づけていけばよい。
知っておくべき「隠れリスク」と検査の重要性
糖尿病対策では、生活習慣と同じくらい検査が重要である。糖尿病は初期には自覚症状が乏しいことがあり、「体調がいい」「喉が渇かない」「体重が普通」という理由だけでは糖尿病を否定できない。
特に注意すべきなのは、家族歴、加齢、肥満、内臓脂肪、高血圧、脂質異常、身体活動不足などである。これらの要因が複数重なっている場合は、体型だけを理由に安心しないことが重要になる。
健康診断の「空腹時血糖」の罠
空腹時血糖は重要な検査だが、それだけですべての糖代謝異常を把握できるわけではない。HbA1cを組み合わせることで、より長期的な血糖状態を評価できる。
日本糖尿病学会では、空腹時血糖126mg/dL以上、75g経口ブドウ糖負荷試験2時間値200mg/dL以上、随時血糖200mg/dL以上、HbA1c6.5%以上を糖尿病型の基準としている。ただし、診断は単一の数値だけで機械的に決めるものではなく、検査結果を組み合わせて医師が判断する。
ここから重要な教訓が得られる。「空腹時血糖が正常だから糖尿病の心配はない」と考えないことである。
糖代謝異常の初期には食後血糖が先に上昇することもあるため、リスクが高い場合には医師の判断でHbA1cや75g経口ブドウ糖負荷試験などを追加することがある。
自覚症状がないまま進行する恐怖
糖尿病の本当の問題は、高血糖そのものだけではない。長期間にわたって高血糖が続くことで、網膜、腎臓、末梢神経などに障害が生じる可能性があり、さらに心筋梗塞や脳梗塞などの血管疾患とも関係する。
だからこそ「症状が出たら病院へ行く」という考え方だけでは遅れる可能性がある。健康診断などで血糖異常を早期に発見し、必要であれば医療機関で精密検査を受けることが重要になる。
継続するためのマインドセット
糖尿病対策で最も過小評価されているのが「継続」である。医学的に正しい方法でも、本人が続けられなければ長期的な効果は期待しにくい。
そこで重要になるのが、生活を一気に変えないことである。まず一つ変え、それが習慣になったら次を変えるという方法なら、心理的負担を抑えながら生活全体を改善できる。
例えば「毎日1時間運動する」という目標が難しければ、まず食後10分歩くところから始める方法がある。毎日の飲料を無糖に変えるだけでも、食生活全体を変えるより取り組みやすい。
「100点満点を目指さない」
糖尿病対策に完璧主義は必要ない。重要なのは、悪い日があっても翌日に元へ戻れることである。
外食した日、運動できなかった日、予定より多く食べた日があっても、それだけで失敗と判断する必要はない。むしろ「一度崩れたらすべて諦める」という考え方のほうが長期的なリスクになる。
健康管理は短距離走ではなく長距離走である。毎日100点を取ることより、平均して70~80点程度の生活を何年も続けるほうが、現実的な目標になり得る。
糖尿病医療は今後さらに個別化していくと考えられる。血糖値だけでなく、体重、腎機能、心血管疾患、低血糖リスクなどを総合的に考慮して治療法を選択する方向が強まっている。
CGMなどの糖尿病テクノロジーもその一例である。血糖を一時点だけ測るのではなく、時間の経過に伴う変化を把握できるため、食事や運動、薬物療法との関係を理解するうえで有用な場面がある。
一方、最新技術を使えばすべての問題が解決するわけではない。2026年時点でも、CGMを糖尿病の一般的な診断・スクリーニング目的に使うことについては限界があり、テクノロジーはあくまで医学的判断を補助する道具として利用する必要がある。
薬物療法も大きく変化している。GLP-1受容体作動薬やGIP/GLP-1受容体作動薬、SGLT2阻害薬などでは、血糖だけでなく体重、心血管、腎臓などを含めて治療上のメリットを考える時代になっている。
しかし、これも「薬さえあれば生活習慣は不要」という意味ではない。薬物療法、食事、運動、体重管理、検査を組み合わせ、その人に適した治療戦略を作ることが今後の糖尿病医療の中心になる。
最後に
日本人の糖尿病対策における最大の新常識は、「太っているかどうかだけでは糖尿病リスクを判断できない」ということである。日本人を含む東アジア人では、欧米人と比較して、著しい肥満を伴わなくても糖尿病を発症するケースがあり、インスリン分泌能力の違いがその背景の一つになる。
だからこそ、体型だけでなく血糖値やHbA1cを定期的に確認する必要がある。特に健康診断では空腹時血糖だけに注目せず、過去のHbA1cや血糖値の推移を含めて考えることが重要になる。
体重管理では、肥満や過剰な体脂肪がある人について、まず現在体重の3~5%程度を減らすことを現実的な第一目標として検討できる。ただし、年齢や体格、筋肉量、疾患などによって適切な目標は異なるため、「5%」を絶対的な数字として扱うべきではない。
食事では、極端なカロリー制限や糖質の完全排除を目指すのではなく、適正なエネルギー量、栄養バランス、食品の質、食事時間、食べ方を総合的に改善することが重要である。
運動では、ジムや激しいスポーツだけを考えず、歩行や階段、家事、仕事中の活動などを含め、日常生活全体の身体活動量を増やすことが重要になる。さらに可能であれば、有酸素運動と筋力トレーニングを組み合わせることで、体力と身体機能の維持にもつなげられる。
そして、糖尿病対策の最後の鍵は継続である。「100点満点の生活」を数週間続けるより、「70点程度の生活」を何年も続けるほうが現実的であり、長期的な健康管理という糖尿病対策の目的にも合致する。
結局のところ、日本人のための糖尿病対策は、特別な健康法を探すことではない。自分の体質とリスクを知り、適正な体重を維持し、食事を整え、身体を動かし、定期的に検査し、必要なら早期に医療へつなげること――この基本を、無理なく長期間続けることにある。
糖尿病は「怖いから何も食べない」という病気でも、「薬を飲めば終わり」という病気でもない。2026年時点の医学が示しているのは、血糖だけでなく心臓、腎臓、体重、身体機能、生活の質まで含めて総合的に管理し、一人ひとりに合った方法を選択するという方向である。
