若い世代で増える「脳卒中」、30年近くでほぼ倍増、若年性生活習慣病という問題
2026年9月時点で大きな注目を集めているのが、米国の20~54歳における脳卒中発症率が約27年間でほぼ2倍になったという研究結果である。1993~1994年の人口10万人・年あたり33.9件から2020年には62.2件となり、特に脳梗塞の発症率が23.8件から47.3件へ上昇していた。
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現状(2026年9月時点)
脳卒中は長く「高齢者の病気」というイメージで捉えられてきた。しかし2026年9月、米国の医学誌に発表された研究が、20~54歳の若年成人における脳卒中発症率が約27年間でほぼ2倍になったことを報告し、改めて若い世代の脳血管疾患が注目されている。研究では、1993~1994年の人口10万人・年あたり33.9件だった発症率が、2020年には62.2件まで上昇していた。
この数字は非常に大きな変化に見えるが、まず重要なのは研究の対象地域である。調査は米国のシンシナティ都市圏と北ケンタッキー地域を対象とした長期研究であり、20~54歳の初回脳卒中2,076例を分析したもので、米国全体、まして日本全体の若年者に同じ増加率が起きていることを直接証明したものではない。
一方で、この研究結果を単純に「米国の一地域だけの特殊な現象」と片付けることもできない。研究対象地域は人種構成や教育水準、社会経済的背景などが米国全体と比較的近い地域として長期間にわたり脳卒中の発生状況が追跡されており、少なくとも若年成人の脳卒中を高齢者だけの問題として扱うことが適切ではないことを示す重要な疫学的資料になっている。
さらに注目すべきなのは、増加の中心が脳梗塞だった点である。研究では20~54歳の虚血性脳卒中の発症率が1993~1994年の23.8件から2020年には47.3件へ上昇しており、全脳卒中の増加の大部分を占めていた一方、脳内出血やくも膜下出血では同様の増加傾向が確認されなかった。
これは「若い人の脳卒中が増えている」という現象を考えるうえで重要な意味を持つ。脳卒中全体が一様に増えているのではなく、血管が詰まるタイプの脳卒中が増加しているため、血圧、糖代謝、脂質代謝、心臓の異常、喫煙、薬物など、血管を傷めたり血栓形成につながったりする要因との関係を詳しく検討する必要がある。
現状の概要と実態
今回の研究で確認された変化は、単に「若い人が脳卒中になる人数が増えた」というだけではない。脳卒中を発症した若年成人の背景を見ると、高血圧、糖尿病、心房細動、物質使用などの健康上の問題が調査期間中に増えており、若い年代であっても血管系の危険因子を抱える人が増えていることが示されている。
ただし、ここには重要な注意点がある。今回の研究では脳卒中を発症していない同年代の人について同じ条件のデータを比較できなかったため、高血圧や糖尿病、物質使用の増加が脳卒中発症率の上昇を直接引き起こしたと証明することはできない。研究者自身も、観察された危険因子の変化と脳卒中増加との因果関係を明らかにするにはさらなる研究が必要だとしている。
一方、日本では若年者の脳卒中そのものが全脳卒中の大部分を占めるわけではない。過去の国内共同研究では、50歳以下の脳卒中は全体の8.9%、45歳以下では4.2%、40歳以下では2.2%を占める程度だったが、若年者では高齢者とは異なる原因が存在することが示されている。
国内研究で特に注目されたのが、脳動脈解離、ウィリス動脈輪閉塞症、脳動静脈奇形、抗リン脂質抗体症候群などである。また、若年者では喫煙者の割合や卵円孔開存の頻度などにも高齢者とは異なる特徴が認められ、若年者の脳卒中を単純に「生活習慣病の若年化」だけで説明することには限界がある。
つまり、若年脳卒中には大きく分けて2つの側面があると考える必要がある。1つは、高血圧や糖尿病、肥満、喫煙など、本来は中高年で問題になりやすかった危険因子が若い世代にも入り込んでいる側面であり、もう1つは、若いからこそ相対的に重要になる脳動脈解離や卵円孔開存、もやもや病などの特殊な原因である。
さらに今回の米国研究では、若年成人の脳卒中後30日以内の死亡率は1993~1994年の11.7%から2020年には9.4%へと低下していた。つまり、発症する若い人が増える一方で、急性期医療の改善などによって短期的に生存する人も増えており、その結果として脳卒中後の障害を抱えながら長期間生活する若い世代が増える可能性も指摘されている。
ここで問題になるのが、若年者の場合、脳卒中後の人生が非常に長く残されていることである。40歳前後で発症すれば、仕事、育児、住宅ローン、家族の介護、社会生活などの中心にいる時期と重なるため、死亡しなかったとしても、片麻痺、言語障害、認知機能障害などの後遺症が生活全体に及ぼす影響は大きい。
したがって「若い世代の脳卒中が増えている」という問題は、死亡者数だけを見ると実態を十分に捉えられない。発症率の変化、危険因子の蓄積、救命率の改善、後遺症を抱えて生活する人の増加を一体として考える必要がある。
日本の厚生労働省も、脳卒中の最大の原因として高血圧を挙げ、食塩の過剰摂取、喫煙、大量飲酒、肥満などへの対策と、血圧、血糖、脂質異常などの早期発見を重視している。特に高血圧は自覚症状が乏しいまま進行することがあるため、「まだ若いから大丈夫」という認識そのものが予防上の障壁になり得る。
ここまでを整理すると、2026年9月時点で最も慎重に言えるのは、「若年成人の脳卒中増加を示す強い長期データが新たに報告された」ということである。ただし、その原因を1つに絞ることはできず、生活習慣病の若年化、喫煙や物質使用、社会環境の変化に加えて、若年者特有の血管・心臓・遺伝性疾患などを分けて考える必要がある。
なぜ若い世代で脳卒中が増えているのか――主要な要因
若年者の脳卒中増加を説明する際、最も重要なのは「若者の血管が突然、高齢者と同じ状態になった」という単純な話ではない。高血圧、糖尿病、脂質異常症、肥満などの血管危険因子が若い年代から蓄積し、それに喫煙、飲酒、運動不足、睡眠不足、ストレスなどが重なることで、脳卒中につながる条件が早い時期から形成される可能性がある。
特に注目されるのが、脳梗塞を起こす背景となる動脈硬化の若年化である。動脈硬化は血管の壁が徐々に変化する過程であり、ある年齢を境に突然始まるものではないため、20代、30代の生活習慣が40代以降の脳血管リスクに影響する。
① 生活習慣の欧米化と動脈硬化の若年化
食生活の変化は、この問題を考えるうえで無視できない。高脂肪・高カロリーの食品、加工食品、外食や中食への依存が続き、野菜や食物繊維の摂取が不足する食生活では、体重増加や血圧上昇、血糖値の悪化、血中脂質の異常につながりやすい。
日本では伝統的な食生活そのものが完全に失われたわけではないが、若い世代ほど食事を簡略化しやすく、時間や価格を優先して食品を選ぶ場面も多い。重要なのは個々の食品を「悪い食べ物」と決めつけることではなく、長期間にわたる総エネルギー量、食塩、脂質、糖質、食物繊維などの摂取バランスが血管環境を形成するという点である。
脳卒中との関係では、特に血圧が重要になる。厚生労働省は脳卒中の最大の危険因子として高血圧を挙げており、食塩の過剰摂取、肥満、喫煙、大量飲酒などを主要な危険因子としている。
高血圧は「血圧が高いだけの状態」と考えられやすいが、長期的には血管壁に負担をかける。若い時期から血圧が高い状態が続けば、その期間が長くなるため、将来的な動脈硬化や脳卒中のリスクを押し上げる要因となる。
ここで問題になるのが、若年層の生活習慣病である。糖尿病や脂質異常症、高血圧は中高年だけの病気ではなく、肥満や遺伝的要因、食生活、身体活動量などが重なることで若い世代でも発症する。
米国の長期研究でも、20~54歳の脳卒中発症率が上昇した期間に、高血圧、糖尿病、心房細動、物質使用などの危険因子を持つ脳卒中患者が増加していた。ただし、この研究は観察研究であり、これらの危険因子の増加が脳卒中増加のすべてを直接説明するとは証明されていない。
肥満についても同様である。体脂肪の増加は高血圧、糖尿病、脂質異常症など複数の危険因子と関連するため、肥満そのものだけでなく、そこから派生する代謝異常が血管に影響を与えることが重要になる。
さらに見落とせないのが運動不足である。身体活動が少ない状態ではエネルギー消費が減少し、体重増加や血糖・脂質代謝の悪化につながる可能性がある。運動不足は単独の原因として扱うより、食生活、肥満、睡眠、ストレスなどと連鎖する生活環境の一部として捉える必要がある。
若年者の場合、この連鎖が長期間続くことが問題になる。30歳で高血圧や肥満が始まれば、その後の数十年間にわたって血管への負荷が積み重なる可能性があるため、「まだ脳卒中の年齢ではない」という認識だけではリスクを判断できない。
一方で、ここでも注意が必要だ。若年者の脳卒中をすべて動脈硬化で説明することはできない。特に日本を含むアジアでは、若年脳卒中の原因として脳動脈解離、もやもや病、血液凝固異常、心臓由来の脳塞栓など、動脈硬化とは異なる病態が重要になる。
つまり、生活習慣病の若年化は確かに重要な要素だが、それだけを原因と決めつけると若年脳卒中の実態を見誤る。若い人に脳卒中が起きた場合には、生活習慣だけでなく、血管そのもの、心臓、血液、遺伝的要因などを含めて原因を調べる必要がある。
若年性生活習慣病という問題
「若年性生活習慣病」という言葉で捉えるべき問題は、単に若い人が不健康な生活をしているという話ではない。社会人になる前後から、長時間の座位、外食や簡便な食事、睡眠不足、運動不足などが組み合わさり、それが数年、10年以上と継続することに意味がある。
健康診断などで血圧、血糖、脂質の異常を指摘されても、若年者では自覚症状がないため、そのまま放置されることがある。しかし血管の変化は症状が出るまで待ってくれるわけではなく、異常値が長期間続けば血管への負荷が蓄積する。
特に高血圧は自覚症状がないことが多い。頭痛や肩こりなどを血圧のせいだと自己判断することも、逆に何の症状もないから問題ないと考えることも適切ではなく、実際の血圧を測定して判断することが重要になる。
また、若い世代では「健康診断を受ける機会が少ない」という問題もある。学校を卒業して就職するまで、あるいは非正規雇用や自営業などの就労形態によっては、健康状態を定期的に確認する機会が限られる場合がある。
こうした背景から、若年脳卒中の予防では40代や50代になってから対策を始めるのではなく、20代、30代から血圧、体重、血糖、脂質、喫煙状況などを確認することが意味を持つ。脳卒中予防は「発症直前の生活改善」ではなく、長期間の血管管理として考える必要がある。
動脈硬化だけでは説明できない
ただし、若い人の脳卒中が増えているという話から、「若者の血管が高齢者並みに老化している」と結論づけるのは適切ではない。若年脳卒中には、そもそも動脈硬化を主要な原因としない病気が一定数存在するためである。
例えば脳動脈解離では、脳へ血液を送る動脈の壁の一部が裂け、その結果として血管が狭くなったり血栓が形成されたりして脳梗塞を起こすことがある。若年者の脳卒中では重要な原因の1つであり、突然の首の痛みや頭痛に続いて神経症状が出現する場合には注意が必要になる。
また、心臓にある卵円孔開存は、静脈側でできた血栓が心臓を経由して動脈側へ入り、脳血管を塞ぐ経路の1つになり得る。卵円孔開存そのものは珍しい異常ではなく、発見されたからといって、それが必ず脳卒中の原因だったと判断できるわけではない点が重要である。
このように若年脳卒中は、「生活習慣病による血管障害」と「若年者に比較的特徴的な病態」の双方から構成されている。
② 慢性的な過労と過度な精神的ストレス
若い世代の脳卒中を考える際、食生活や運動不足と並んで無視できないのが、仕事や学業、家庭生活などから生じる慢性的な疲労と精神的ストレスである。ただし、「ストレスが直接脳卒中を起こす」と単純化するのは適切ではなく、睡眠不足、飲酒、喫煙、運動不足、血圧上昇などを介して複数の危険因子を重ねる点に注目する必要がある。
特に問題になるのは、一時的な忙しさではなく、休息によって回復できない状態が長期間続くことである。慢性的な睡眠不足や過労が続けば、血圧や代謝、食欲、体重などに変化が生じ、結果として血管に負担をかける条件が形成される可能性がある。
自律神経の乱れと血圧
精神的な緊張や強いストレスを受けると、交感神経の活動が高まり、心拍数や血圧が上昇する。通常はストレスがなくなれば身体は回復するが、緊張状態が繰り返されれば、血圧が高い状態になる時間が増え、循環器系への負荷が大きくなる。
血圧は常に一定ではなく、睡眠中には低下し、活動時には上昇するという日内変動を持っている。問題なのは、こうした自然な変動ではなく、睡眠不足や強い精神的緊張、過度の飲酒などによって血圧が高い状態が繰り返されることである。
特に若い世代では、「血圧が高いのは中高年になってから」という先入観が残っている。しかし高血圧は年齢だけで決まるものではなく、遺伝的要因、食塩摂取量、体重、運動量、飲酒、睡眠など複数の要素によって形成される。
さらに血圧には、診察室では正常でも家庭や職場では高くなる場合や、逆に診察室だけで高くなる場合がある。そのため、若年者でも血圧の異常が疑われる場合には、医療機関での測定だけでなく家庭血圧を確認することが診断上重要になる。
慢性的なストレスは、血圧だけでなく生活そのものにも影響する。仕事が忙しくなるほど食事が簡単なものに偏り、運動する時間が減り、睡眠時間が短くなり、飲酒や喫煙に頼るようになるなど、複数のリスクが同時に積み上がる可能性がある。
つまり、ストレスそのものを単独の原因として扱うより、「ストレスによって生活習慣が崩れ、それが血圧や代謝に影響する」という経路を考える方が実態に近い。若年者の脳卒中予防では、この複合的な連鎖を断ち切ることが重要になる。
睡眠不足という見逃されやすい要因
現代の若い世代では、睡眠時間の不足も重要な問題である。仕事や学業だけでなく、夜間のスマートフォン利用、交代勤務、長時間の通勤、生活時間の夜型化などによって、睡眠時間そのものだけでなく睡眠の質や規則性が損なわれることがある。
睡眠不足が続くと、日中の眠気や集中力低下だけでなく、血圧、食欲、血糖調節などにも影響する可能性がある。特に睡眠時間が短い状態が慢性化すれば、生活習慣病の危険因子が蓄積しやすくなる。
睡眠については「休日に長く寝れば取り戻せる」という考え方にも注意が必要である。休日の睡眠によって一時的な眠気や疲労が軽減されることはあっても、平日に慢性的な睡眠不足を繰り返す生活そのものを解決したことにはならない。
また、睡眠時無呼吸症候群も血圧との関係で重要になる。睡眠中に呼吸が繰り返し止まると、酸素状態や自律神経活動に変化が生じ、血圧上昇などにつながる可能性があるため、いびきが大きい、睡眠中に呼吸が止まると指摘される、日中の強い眠気があるといった場合には年齢に関係なく評価が必要になる。
過労と長時間労働
過労についても、単純に「働く時間が長いほど脳卒中になる」と断定することはできない。しかし長時間労働が睡眠不足、食生活の乱れ、運動不足、飲酒、精神的緊張などと結びつく場合、循環器疾患のリスク環境を悪化させる可能性がある。
世界保健機関と国際労働機関による共同分析では、週55時間以上働くことが、週35~40時間働く場合と比較して、脳卒中や虚血性心疾患による死亡リスクの上昇と関連すると報告されている。これは長時間労働と健康影響の関係を検討した大規模な分析だが、個人の脳卒中発症を長時間労働だけで説明できるという意味ではない。
重要なのは、長時間労働によって休息時間が削られることである。仕事が終わる時間が遅くなれば食事や入浴、睡眠の時間も後ろにずれ、翌日の始業時間が変わらなければ睡眠時間だけが削られるという循環が生まれる。
若年者の場合、この生活を数年間続けてもすぐに重大な症状が出るとは限らない。そのため「若いうちは無理が利く」という感覚によって、血圧や体重の変化、慢性的な疲労を見過ごしやすい。
しかし脳卒中は、ある日突然発症する疾患である。発症する瞬間だけを見ると突然の出来事に見えるが、その背景には長期間の高血圧や動脈硬化、喫煙、代謝異常などが存在している場合がある。
「ストレス社会」だけでは説明できない
ここで一つ整理しておく必要がある。若年脳卒中の増加を「現代社会のストレスが原因」とする説明は分かりやすいが、医学的には証明されていない部分が多く、単純化しすぎている。
今回の米国の長期研究でも、若年成人の脳卒中発症率が上昇する一方、高血圧や糖尿病など複数の危険因子が増加していた。しかし、研究は特定地域の観察研究であり、ストレス、労働時間、睡眠不足などが発症率上昇のどの程度を占めるのかまでは明らかにしていない。
むしろ現時点で重要なのは、ストレスを「直接的な犯人」と考えることではない。ストレスが睡眠を削り、睡眠不足が食欲や体重、血圧に影響し、さらに疲労によって運動量が減るというように、複数の要因が互いに影響する構造を見ることである。
この観点から見ると、若年脳卒中の予防には、単に「ストレスを減らしましょう」と呼びかけるだけでは不十分になる。睡眠時間を確保できる生活、長時間労働を慢性化させない環境、定期的な血圧測定、運動習慣、適切な食事など、複数の要素を同時に整える必要がある。
若い世代特有の「血圧の見落とし」
若年者における大きな問題の1つは、自分の血圧を知らないことである。高血圧は症状がないまま進行することが多いため、「頭痛がない」「体調がいい」という理由だけで血圧が正常だと判断することはできない。
また、若い人の場合、健康診断で血圧が少し高くても「仕事が忙しかったから」「寝不足だったから」と考え、その後の測定を行わないケースも考えられる。1回の測定だけで判断する必要はないが、繰り返し高い値が出るなら放置せず、医療機関に相談することが重要になる。
血圧管理は、脳卒中予防の中でも比較的介入しやすい領域である。食塩摂取量を減らす、適正体重を維持する、定期的に身体を動かす、飲酒量を抑える、禁煙するなど、複数の生活習慣を改善することで血圧を下げる方向に働く可能性がある。
若年脳卒中は「突然の病気」なのか
脳卒中の発症自体は突然である。しかし、その背景まで突然形成されるとは限らない。
高血圧や糖尿病、脂質異常症、肥満、喫煙などは長期間にわたって血管に影響を与える。一方、脳動脈解離や心臓由来の脳塞栓などは、動脈硬化とは異なる機序で比較的若い人にも発症するため、若年者の場合は「生活習慣病の蓄積」と「若年者特有の病態」の双方を見る必要がある。
この違いは、次の論点につながる。若年者の脳卒中では、生活習慣だけでは説明できない症例が存在し、喫煙、電子たばこ・加熱式たばこ、女性のホルモン関連要因、脳動脈解離、卵円孔開存、もやもや病など、年齢や性別によって考えるべき要因が変わってくる。
③ 現代特有の環境・嗜好要因
若年世代の脳卒中を考えるうえでは、食事や運動、血圧といった古典的な危険因子だけでなく、現代の生活環境や嗜好品にも目を向ける必要がある。特に喫煙、電子たばこ・加熱式たばこ、飲酒、薬物などは、若い世代の脳血管リスクを考える際に重要な要素となる。
ただし、これらを「若年脳卒中が30年でほぼ倍増した原因」と直接結びつけるには慎重さが必要である。現時点で確認されているのは、若年者の脳卒中と複数の危険因子が関連しているという事実であり、それぞれが全体の増加にどの程度寄与したのかを正確に分離することは難しい。
喫煙は依然として重要な危険因子
喫煙は脳卒中との関連が確立している主要な危険因子の1つである。たばこの煙に含まれる化学物質は血管を傷つけ、動脈硬化を促進するとともに、血小板の働きや血液の凝固、血圧などにも影響を与える。
若年者の場合、喫煙歴が短いから影響が小さいと考えられがちだが、重要なのは喫煙を開始する年齢と継続期間である。20代から喫煙を続ければ、30代、40代には相当な累積曝露となり、他の危険因子と重なった場合には血管への負担が増える。
特に喫煙と高血圧、糖尿病、脂質異常症などが重なると、脳卒中のリスク管理はより重要になる。単独の危険因子だけを見て「自分はまだ若い」と判断するのではなく、複数の危険因子が重なっていないかを見る必要がある。
禁煙は年齢にかかわらず脳卒中予防上の重要な対策である。厚生労働省も喫煙を脳卒中の危険因子として挙げており、紙巻きたばこだけでなく、近年普及した新しいたばこ製品についても健康影響を慎重に評価する必要がある。
電子たばこ・加熱式たばこは「無害」ではない
電子たばこや加熱式たばこの普及によって、若年者の喫煙環境は以前とは変化している。紙巻きたばこの煙を吸わない製品が登場したことで、「従来のたばこより安全」という認識が広がったが、これは「健康への影響がない」という意味ではない。
加熱式たばこは、たばこ葉を燃焼させず加熱して成分を吸入する製品であり、紙巻きたばことは発生する化学物質の種類や量が異なる。しかし、ニコチンを含む製品では依存性が存在し、血管や循環器系への影響を無視することはできない。
電子たばこについても、製品によって成分が異なるため一括して評価することは難しい。特に若年者では、「紙巻きたばこより安全」という情報が「健康に問題がない」という意味に置き換わってしまうことが予防上の問題となる。
したがって、若年脳卒中との関係を考える際には、紙巻きたばこ、加熱式たばこ、電子たばこを同一視するのではなく、それぞれの製品特性と使用実態を分けて考える必要がある。一方で、少なくとも「新しい製品だから血管への影響を考えなくてよい」とする根拠はない。
若い女性と喫煙、経口避妊薬
若い女性では、男性とは異なる危険因子にも注意が必要になる。その代表的なものが、喫煙と経口避妊薬などのホルモン関連薬剤との組み合わせである。
エストロゲンを含む経口避妊薬などは、血栓症のリスクとの関連が知られている。健康な若い女性において重大な血栓症が頻繁に起きるという意味ではないが、喫煙、片頭痛、肥満、血栓症の既往、遺伝的な血栓傾向など、別の危険因子が加わる場合には医師による個別の評価が重要になる。
特に喫煙とエストロゲンを含む経口避妊薬の組み合わせは、脳梗塞を含む血栓性疾患のリスクを考えるうえで注意が必要とされている。したがって、若い女性の脳卒中予防では「若い女性だから脳卒中の心配は少ない」という一律の考え方ではなく、年齢、喫煙状況、片頭痛、血圧、既往歴などを総合的に見る必要がある。
また、片頭痛、とりわけ前兆を伴う片頭痛と脳卒中の関連も研究されている。前兆を伴う片頭痛そのものが脳卒中を意味するわけではないが、喫煙やエストロゲンを含む薬剤など別の要素が重なる場合には、医療者にその情報を伝えることが重要になる。
高齢者とは異なる「若い世代特有」の医学的背景
若年者の脳卒中を考える際に最も重要なポイントの1つが、原因疾患の違いである。高齢者では動脈硬化、高血圧、心房細動などが重要な原因になる一方、若年者ではそれ以外の病気が相対的に重要になる。
代表的なのが脳動脈解離である。これは脳や首へ血液を送る動脈の血管壁が裂ける病態で、そこから血栓が形成されたり血管が狭くなったりすることで脳梗塞につながることがある。
脳動脈解離は、必ずしも明確な外傷を伴うとは限らない。首の急激な動きや外傷などが契機になる場合もあるが、発症前に特別な出来事がない症例も存在するため、若い人の突然の脳梗塞をすべて生活習慣病だけで説明することはできない。
特に突然の強い頭痛や首の痛みがあり、その後に片側の手足の麻痺、言葉の障害、視覚異常などが出現した場合には、年齢にかかわらず緊急の評価が必要になる。頭痛だけなら脳動脈解離だと判断できるわけではないが、神経症状を伴う場合には脳卒中を除外する必要がある。
卵円孔開存と若年者の脳梗塞
もう1つ重要なのが卵円孔開存である。卵円孔は胎児期に必要な心臓の通路で、出生後には通常閉じるが、一部の成人では開存した状態が残る。
卵円孔開存そのものは比較的多くの人に認められるため、発見されたからといって脳卒中の原因だと直ちに判断することはできない。しかし、他に明らかな原因がない若年者の脳梗塞では、卵円孔を通って静脈側の血栓が動脈側へ移動する「奇異性塞栓」が原因となっていないかを検討する場合がある。
このため、若い人が脳梗塞を起こした場合には、高血圧や糖尿病などだけでなく、心臓の構造や血液凝固の状態まで調べることがある。原因を特定することは、その後の再発予防の方法を決めるうえでも重要になる。
もやもや病という日本で重要な疾患
日本で若年脳卒中を考える場合、もやもや病も無視できない。もやもや病は、脳の主要な動脈が徐々に狭くなったり閉塞したりし、その代わりに細い血管が発達する病気で、脳血流の不足によって脳梗塞や脳出血を起こすことがある。
この病気は小児から成人まで幅広い年代で発症する。成人では脳出血として発症する場合もあり、若年者の脳卒中を単純に「生活習慣病の若年化」と捉えることができない理由の1つになっている。
また、もやもや病では遺伝的な背景も関係すると考えられているが、すべての発症メカニズムが解明されているわけではない。したがって、若い人に脳卒中が起きた場合、生活習慣を改善するだけでなく、必要に応じて専門的な検査を行い、背景疾患を探ることが重要になる。
若年者の脳卒中は「原因を一つに決めない」ことが重要
ここまで見てくると、若年脳卒中には複数の経路が存在することが分かる。高血圧や糖尿病などによる動脈硬化、喫煙や生活習慣、心臓からの血栓、脳動脈解離、もやもや病、血液凝固異常などが、それぞれ異なる仕組みで脳血管障害を引き起こす。
したがって、「若者の脳卒中が増えたのは食生活が悪くなったから」「ストレス社会だから」と1つの原因だけで説明するのは医学的には不十分である。実際には、生活習慣による危険因子が増えている一方で、若年者特有の疾患を診断する医学的能力も向上しており、両方の側面から考える必要がある。
さらに、若年者では脳卒中を疑うこと自体が遅れるという問題もある。「脳卒中は高齢者の病気」という固定観念があるため、突然の手足のしびれや言葉の障害が起きても、疲労、寝不足、片頭痛、過呼吸など別の原因だと考えてしまう可能性がある。
この認識の遅れは、治療開始の遅れにつながる可能性がある。脳梗塞では発症から治療までの時間が重要であり、若いという理由で様子を見ることは適切ではない。
対策と早期発見に向けたアクション
ここまで見てきたように、若年者の脳卒中には、高血圧や糖尿病などの生活習慣病、喫煙、肥満、運動不足、睡眠不足、ストレスなどが関係する一方、脳動脈解離、卵円孔開存、もやもや病など、生活習慣だけでは説明できない病態も存在する。したがって対策も、「健康的な生活を送る」という一般論だけではなく、危険因子を早期に把握し、突然の症状が出た場合には年齢に関係なく迅速に医療へつなげるという2つの方向から考える必要がある。
今回の米国研究が示したのは、20~54歳の初回脳卒中発症率が1993~1994年の人口10万人・年あたり33.9件から2020年には62.2件となったという事実である。ただし、この研究は米国のシンシナティ周辺などを対象とした地域研究であり、日本の若年者について同じ増加率が確認されたわけではないことは改めて強調しておく必要がある。
生活習慣の是正
若年脳卒中対策の基本は、血管に長期間かかる負担を減らすことである。特に重要なのは血圧管理、禁煙、適正体重の維持、定期的な身体活動、食塩摂取量の抑制、過度の飲酒を避けることなどであり、世界保健機関も高血圧、喫煙、食塩の多い食事、身体活動不足、過体重、糖尿病などを脳卒中の主要な修正可能危険因子として挙げている。
若い世代にとって特に重要なのは、「症状がないから健康」と考えないことである。高血圧や脂質異常症、糖代謝異常は自覚症状が乏しいことが多く、健康診断などで異常を指摘された場合には、年齢を理由に放置せず、その後の再検査や医療機関での評価につなげる必要がある。
食生活では、特定の食品を極端に排除するより、食塩の摂取を抑え、野菜や果物、食物繊維などを含むバランスの取れた食事を継続することが基本となる。体重が増えている場合には、血圧、血糖、脂質などにも異常がないか確認し、複数の危険因子が重なっていないかを見ることが重要である。
運動についても、特別な激しいトレーニングを必要とするわけではない。座っている時間を減らし、歩行などの日常的な身体活動を増やし、継続的に身体を動かす生活を作ることが現実的な対策になる。
そして最も明確な対策の1つが禁煙である。紙巻きたばこだけでなく、加熱式たばこや電子たばこについても「健康への影響がない」と考えず、ニコチン依存を含めた使用そのものを見直すことが重要になる。
睡眠・ストレス管理
睡眠については、単純に「何時間寝ればよい」という数字だけを見るのではなく、十分な睡眠時間を確保し、起床・就寝時間を大きく乱さないことが重要になる。慢性的な睡眠不足が続けば、食欲、体重、血圧、血糖など複数の要素に影響する可能性があるためである。
ストレスについても、「ストレスをなくす」という現実的ではない目標を掲げるより、ストレスによって睡眠、食事、運動、飲酒、喫煙などが崩れていないかを確認することが重要である。仕事や学業が忙しい時期ほど、最低限の睡眠時間と休息時間を確保し、体調変化を無視しないことが予防につながる。
また、長時間労働や夜勤などによって生活リズムが大きく崩れている場合には、個人の努力だけで解決しようとしないことも必要である。職場環境、勤務時間、休憩、睡眠確保などの条件そのものを見直さなければ、生活習慣を改善しても継続できない場合がある。
血圧を「若いうちから」確認する
若年者の脳卒中予防では、血圧測定を特別なことと考えないことが重要である。高血圧は脳卒中の最大の危険因子の1つであり、世界保健機関も高血圧を脳卒中に大きく寄与する主要因子として位置づけている。
一度だけ高い値が出たからといって直ちに高血圧症と判断することはできないが、繰り返し高い値が出る場合には確認が必要になる。特に家族に高血圧や脳卒中の人がいる、肥満がある、喫煙している、睡眠不足が続いているといった場合には、若いという理由だけで問題を先送りしないことが重要である。
兆候の早期認識――「FAST」
若年脳卒中対策で最も重要なのは、実際に症状が起きたときに「脳卒中かもしれない」と認識することである。脳卒中は突然発症することが多く、日本脳卒中協会も、突然の片側の手足や顔の麻痺・しびれ、言語障害、歩行障害、視覚障害、経験したことのない激しい頭痛などを主な症状として挙げ、脳卒中が疑われる場合には救急車を呼ぶよう呼びかけている。
代表的な確認方法が「FAST」である。「F」は顔の片側が下がる、「A」は腕や脚に力が入らない、「S」は言葉が出ない、ろれつが回らないなどの言語障害、「T」は発症時刻を確認し、緊急対応につなげることを意味する。米国の研究チームも、若年者を含む脳卒中の早期認識にこの方法を示している。
日本では「F・A・S・T」という英語の頭文字を覚えること自体が目的なのではなく、「突然の顔・腕・言葉の異常があれば脳卒中を疑い、時間を記録して救急要請する」という行動を身につけることが重要である。症状が軽いように見えても、自宅で様子を見るのではなく、救急医療につなげることが基本になる。
さらに、片側の麻痺だけが脳卒中のサインではない。突然の視野障害、ふらつき、歩行困難、激しい頭痛、意識障害などでも脳卒中が疑われるため、年齢にかかわらず急激な神経症状が現れた場合には緊急評価が必要になる。
今後の展望
今回の米国研究で特に重要なのは、若年成人の脳卒中発症率が上昇する一方で、30日以内の死亡率は1993~1994年の11.7%から2020年には9.4%へ低下していたことである。つまり、若い人の脳卒中は増加している一方、急性期治療の改善によって救命される人も増えている。
これは医療の成功であると同時に、新しい課題を生む可能性がある。若くして脳卒中を発症し、命を取り留めた人が増えれば、麻痺、言語障害、認知機能障害などの後遺症を抱えながら、その後何十年も生活する人への支援が重要になる。
若年脳卒中では、発症した本人が働き盛りである場合も多い。復職、育児、家族生活、経済的負担、リハビリテーション、精神的なケアなど、高齢者の脳卒中とは異なる社会的課題が生じるため、今後は「救命できたか」だけではなく、「その後の生活をどこまで回復できたか」という視点も必要になる。
また、今回の研究には重要な限界がある。研究者自身が指摘しているように、脳卒中を発症していない人について同じ危険因子の情報を比較できなかったため、高血圧や糖尿病、物質使用などの変化が、発症率の上昇をどの程度説明するのかは明らかになっていない。
したがって今後必要なのは、「若者の脳卒中増加の原因はこれだ」と単純化することではない。若年者の発症率を継続的に追跡し、生活習慣、社会環境、喫煙、薬物、血圧、糖尿病、肥満、遺伝的要因、心臓疾患、脳血管疾患などを統合して分析する研究が必要になる。
まとめ
2026年9月時点で大きな注目を集めているのが、米国の20~54歳における脳卒中発症率が約27年間でほぼ2倍になったという研究結果である。1993~1994年の人口10万人・年あたり33.9件から2020年には62.2件となり、特に脳梗塞の発症率が23.8件から47.3件へ上昇していた。
この結果から明らかなのは、脳卒中を高齢者だけの病気として考えることが難しくなっているという点である。ただし、対象は米国の特定地域であり、日本の若年者について「30年でほぼ倍増した」と結論づけることはできない。
若年脳卒中の背景には、高血圧、糖尿病、肥満、脂質異常症、喫煙、食生活、運動不足、睡眠不足など、生活習慣に関係する要因が存在する。さらに、脳動脈解離、卵円孔開存、もやもや病など、若年者では相対的に重要となる病態もあり、生活習慣だけで全体を説明することはできない。
だからこそ、対策は二段階で考える必要がある。第1は若いうちから血圧や体重、血糖、脂質、喫煙などを管理し、血管にかかる長期的な負担を減らすことであり、第2は突然の麻痺、言語障害、視覚障害、歩行障害、激しい頭痛などが現れた場合に、年齢を問わず脳卒中を疑って直ちに救急医療につなげることである。
若年脳卒中の問題は、「若いのに脳卒中になる人がいる」という珍しい事例の問題ではない。現時点で確認されている研究結果と国内外の医学的知見を分けて検証しながら、若い世代の血管リスクを早期に発見し、発症した場合には一刻も早く治療につなげるという公衆衛生上の課題として捉える必要がある。
参考・引用リスト
1. 米国シンシナティ大学・米国神経学会系研究
2026年9月23日公表。米国シンシナティ大都市圏および北ケンタッキー地域の長期追跡研究を基に、20~54歳の初回脳卒中2,076例を分析した研究。1993~1994年から2020年にかけて、若年成人の脳卒中発症率が人口10万人・年あたり33.9件から62.2件へ上昇したことなどを報告している。
2. 世界保健機関「脳卒中」
脳卒中の世界的な疾病負担、主要な危険因子、症状、緊急治療の重要性について整理した資料。高血圧、喫煙、食塩の多い食事、身体活動不足、過体重、糖尿病などを主要な修正可能危険因子としている。
3. 公益社団法人日本脳卒中協会「脳卒中の主な症状」
突然発症する片側の麻痺・しびれ、言語障害、歩行障害、視覚障害、激しい頭痛など、脳卒中の代表的症状を解説している。脳卒中が疑われる場合には救急車を呼び、迅速に医療機関へ搬送することの重要性を示している。
4. 世界保健機関「心血管疾患」
脳卒中を含む心血管疾患について、禁煙、減塩、身体活動、適正体重、健康的な食生活、飲酒の抑制などの予防策を整理している。
5. 若年脳卒中に関する長期疫学研究
今回の米国研究では、若年成人の脳卒中増加と同時期に、高血圧、糖尿病、心房細動、物質使用などが脳卒中患者の中で増加していた。ただし、非発症者との比較データがないため、これらの危険因子の変化が発症率上昇の原因であると直接証明した研究ではない。
6. 脳卒中の早期認識に関する世界保健機関資料
顔の片側の下垂、腕の脱力、言語障害を確認し、発症時刻を意識して迅速に医療へつなげる「FAST」の考え方を示している。脳卒中では診断・治療までの時間が重要であり、疑った場合の迅速な対応が求められる。
