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韓国の出生率反転、婚姻増の背景、2023年から25年にかけて3年連続で前年超え

韓国では2023年から2025年にかけて、婚姻件数が3年連続で前年を上回り、出生数と合計特殊出生率も反転した。
韓国、新生児(Getty Images)
現状(2026年7月時点)

韓国は長年、世界で最も深刻な少子化に直面してきた国の一つである。特に2010年代後半以降、合計特殊出生率は急速に低下し、2023年には0.72という世界最低水準を記録した。これは女性1人が生涯に産む子どもの平均数を示す指標であり、人口維持に必要とされる約2.1を大きく下回る水準であった。

しかし、2023年後半から2025年にかけて、韓国の人口動態に小さな変化が現れ始めた。婚姻件数が増加へ転じ、それに続く形で出生数と合計特殊出生率もわずかながら回復傾向を示したのである。

韓国統計庁(KOSTAT)の人口動向調査によると、婚姻件数は2023年から増加基調に入り、2024年には前年を大きく上回った。さらに2025年にも増加傾向が続き、3年連続で前年水準を超える結果となった。

出生数についても、2015年以降ほぼ一貫して減少していた流れから転換した。2024年には出生数が前年を上回り、合計特殊出生率も0.75程度まで上昇したとされる。2025年にはさらに改善傾向が続き、「韓国の出生率は底を打ったのではないか」という議論が国内外で広がった。

もっとも、この変化を「韓国が少子化を克服した」と評価することは適切ではない。出生率は依然として世界最低水準に近く、人口減少を止めるには程遠い状況である。今回の反転は、長期的な人口回復というよりも、複数の一時的要因と政策効果が重なった結果として分析する必要がある。

韓国社会では、これまで結婚や出産を先送りしていた若年層が、コロナ禍後に一斉に結婚へ動いたことが大きな要因として指摘されている。また、政府による住宅支援、育児支援、企業による出産促進策なども一定の影響を与えている。

つまり2023年以降の韓国の出生率反転は、「人口政策が突然成功した」という単純な現象ではない。社会環境の変化、世代構成の変動、婚姻行動の回復、政策支援の積み重ねが複合的に作用した人口動態上の転換点として捉える必要がある。


統計データの検証(事実関係の整理)

韓国の少子化問題を理解するには、まず過去20年間の人口動態を確認する必要がある。韓国では2000年代以降、出生率低下が急速に進み、2018年には合計特殊出生率が初めて1.0を割り込んだ。

韓国統計庁によると、2018年の合計特殊出生率は0.98であり、経済協力開発機構(OECD)加盟国で初めて1未満となった。その後も低下傾向は続き、2019年には0.92、2020年には0.84、2021年には0.81まで落ち込んだ。

さらに2022年には0.78、2023年には0.72となり、韓国は世界で最も出生率が低い国として国際的な注目を集めた。特に首都圏への人口集中、高騰する住宅価格、若年層の雇用不安、教育費負担などが出生抑制要因として挙げられてきた。

出生数も同様に減少した。韓国の年間出生数は2000年代初頭には約60万人規模であったが、2023年には約23万人台まで減少した。20年余りで出生規模は半分以下となり、人口構造そのものが大きく変化した。

一方で、2024年には出生数が約23万8千人となり、前年から増加した。これは9年ぶりの増加であり、韓国社会では大きなニュースとなった。

合計特殊出生率についても、2024年には0.75へ上昇した。上昇幅自体は小さいものの、長期間続いた低下傾向が止まったことは人口学的には重要な意味を持つ。

ただし、出生率の改善を評価する際には注意が必要である。出生率は「出生数÷出産年齢女性人口」で算出されるため、出生数が大幅に増えなくても、分母となる女性人口の変化によって数値が動く場合がある。

また、2023年以降の出生増加は、若い世代の出生意欲が大きく高まったことだけを意味するものではない。過去数年間に延期されていた結婚や出産が一時的に集中した可能性も高い。

人口学では、このような現象を「出生タイミングの調整」と呼ぶ。つまり、本来なら2020年前後に起きていたはずの結婚・出産が、コロナ禍によって延期され、2023年以降にまとめて発生したという見方である。

この点を考慮すると、韓国の出生率反転は「出生意欲そのものの劇的改善」というより、「延期されていたライフイベントの再開」という側面が強い。


韓国少子化の歴史的背景

韓国では1960年代以降、政府主導による出生抑制政策が行われた。高度経済成長期には人口増加を抑えることが国家発展につながると考えられ、「少なく産む」政策が推進された。

しかし、1990年代以降、韓国は急速な経済発展と都市化によって社会構造が変化した。女性の高学歴化や就業率上昇、晩婚化が進む一方、住宅費や教育費の負担が増大した。

特に韓国では、子ども一人当たりへの教育投資が非常に大きい。大学進学競争、塾通い、住宅環境などを含め、「十分な環境を提供できないなら子どもを持たない」という意識が若年層に広がった。

また、若者の雇用環境も出生行動に影響した。非正規雇用の増加、就職競争の激化、住宅取得困難などによって、結婚そのものを延期する若者が増加した。

韓国社会では伝統的に「結婚してから子どもを持つ」という価値観が強いため、婚姻減少はそのまま出生数減少につながった。

実際、韓国の出生率低下は単純に「子どもを産まなくなった」という問題ではなく、「結婚する人が減った」という問題と密接に関連していた。

このため、2023年以降の出生率反転を理解する上では、出生数だけを見るのではなく、婚姻件数の変化を見ることが重要になる。


反転現象の概要――なぜ「婚姻増」が出生回復の先行指標となったのか

韓国の人口動態において、2023年以降最初に変化したのは出生数ではなく婚姻件数であった。婚姻は出生のおよそ1〜2年前の先行指標として機能するため、婚姻増加は将来的な出生増加を予測する重要なデータとなる。

韓国統計庁の統計では、2023年の婚姻件数は約19万4千件となり、前年から増加した。さらに2024年には約22万件台へ急増し、前年比で大幅な伸びを記録した。

この婚姻増加は、韓国社会における価値観変化を示すものでもあった。長年続いた「結婚離れ」の流れに一時的な変化が起き、若年層が結婚という選択肢を再び選び始めたのである。

特に注目されるのは、30代前半から半ばの婚姻増加である。この世代は、コロナ禍によって結婚式や住宅取得、出産計画を延期した層と重なる。

そのため、2023年以降の婚姻増加は、人口構造上の偶然ではなく、コロナ後の社会活動正常化によって抑制されていた需要が解放された結果と考えられている。

ただし、婚姻増加が今後も継続するかについては慎重な見方も存在する。出生可能年齢人口そのものが減少しているため、短期的な増加が長期的な人口回復につながるとは限らない。


婚姻件数の推移(3年連続増加)

韓国の出生率反転を理解するうえで最も重要な指標が婚姻件数である。韓国では依然として婚外子の割合が極めて低く、子どもの多くが法律婚の家庭で生まれているため、婚姻数の増減は将来の出生数を占う先行指標として高い相関を持つ。

欧州諸国では事実婚や非婚カップルによる出産が一般化している国も多いが、韓国では結婚と出産の結び付きが依然として強い。このため婚姻件数が増えれば、その1~3年後に出生数が増加する可能性が高まり、逆に婚姻件数が減れば出生数も減少する傾向が続いてきた。

韓国統計庁によれば、婚姻件数は2012年頃を境に長期的な減少局面へ入り、若年人口の減少や晩婚化、住宅価格の高騰、雇用不安などを背景として毎年のように過去最低を更新してきた。

特に新型コロナウイルス感染症が拡大した2020年から2022年にかけては、感染拡大防止措置や結婚式の延期、経済的不安などが重なり、婚姻件数は歴史的な低水準まで落ち込んだ。2022年の婚姻件数は約19万件弱となり、韓国社会では「結婚の消滅」が現実味を帯び始めたとの危機感が広がった。

しかし2023年になると流れが変わる。婚姻件数は前年を上回り、減少傾向に初めて歯止めがかかった。

さらに2024年には増加幅が拡大し、年間婚姻件数は約22万件規模へ回復した。増加率は二桁に達し、近年では例を見ない大幅な伸びとなった。

2025年も婚姻件数は前年を上回り、3年連続の増加となった。増加率は2024年ほどではないものの、減少ではなく増加基調を維持した点は重要である。

人口学では、長期間減少していた婚姻件数が3年連続で増加することは、一時的な統計のぶれでは説明しにくい。何らかの社会環境の変化や人口構造の変化が起きている可能性を示唆するからである。

もっとも、婚姻件数は依然として2010年代前半の水準には遠く及ばない。過去のピーク時には年間30万件を超えていたことを考えれば、現在の水準は回復途上にあると言わざるを得ない。


婚姻増加の中心は30代前半

婚姻件数を年齢別に分析すると、最も増加が目立つのは30代前半から半ばである。この世代は、新型コロナ禍によって結婚を延期していた人々とほぼ重なっている。

感染拡大期には、多くのカップルが結婚式の延期や住宅購入の見送りを余儀なくされた。経済的先行きへの不安もあり、「数年待ってから結婚する」という判断が一般的であった。

社会活動が正常化した2023年以降、延期されていた結婚が一斉に実現したことで婚姻件数が急増したと考えられている。人口学では、このような現象を「ペンアップ需要(繰り越し需要)」と呼ぶ。

また、結婚式場や旅行業界の統計でも、2023年から2024年にかけて挙式件数や新婚旅行需要が急回復したことが確認されている。これは婚姻件数の増加を裏付ける民間データでもある。

一方、20代前半の婚姻増加は限定的である。依然として就職や住宅取得への不安が大きく、結婚年齢そのものは高止まりしている。

つまり、韓国で起きている婚姻増加は若年層全体の価値観が劇的に変わったというより、結婚適齢期後半にある世代が延期していた結婚を実現した結果と理解する方が実態に近い。


婚姻増加が出生率へ及ぼした影響

韓国では出生の大部分が婚姻後に起きるため、婚姻件数の回復は出生数の回復につながりやすい。実際、婚姻件数が増加した約1年後から出生数も増加へ転じ始めた。

これは人口学で広く知られる現象であり、婚姻と出生には一定の時間差が存在する。一般的には結婚から第1子誕生まで平均1~2年程度であるため、婚姻件数の変化は出生数の先行指標として利用される。

韓国統計庁も、2024年の出生増加について「婚姻件数の増加が主要因の一つ」と分析している。出生数そのものだけを見ると小幅な改善に見えるが、その背景には婚姻回復という構造変化が存在している。

もちろん、結婚したすべての夫婦が子どもを持つわけではない。共働き家庭の増加や晩婚化の進展により、結婚後も子どもを持たない選択をする夫婦は増えている。

それでも韓国社会では「結婚した夫婦が第一子を持つ」割合は依然として高く、婚姻増加が出生数改善へ一定の効果を及ぼしたことは統計上も確認されている。


合計特殊出生率・出生数の反転

婚姻件数の増加に続いて現れた変化が、出生数と合計特殊出生率の改善である。長年低下し続けてきた指標が反転したことは、韓国人口政策において象徴的な出来事となった。

2023年の合計特殊出生率は0.72であったが、2024年には0.75前後まで上昇した。数値としてはわずか0.03ポイントの改善にすぎないが、長期間続いた低下傾向が止まった意味は大きい。

出生数も約23万8千人となり、前年を上回った。年間出生数が増加へ転じたのは約9年ぶりであり、韓国国内では「出生数が底を打った可能性」が議論される契機となった。

2025年も出生数は前年をやや上回り、合計特殊出生率も改善傾向を維持したとみられている。この結果、出生率・出生数・婚姻件数がそろって増加するという、近年には見られなかった現象が生じた。

ただし、人口学者の多くは慎重な姿勢を崩していない。出生率が0.75程度であること自体は依然として世界最低水準であり、人口減少を止めるには大きく不足しているからである。

出生数が増えたといっても、2000年代前半の約60万人規模と比較すれば現在は4割程度にすぎない。反転は確認できても、人口構造全体を変えるほどの規模には達していない。


「反転」をどう評価すべきか

韓国国内でも、今回の出生率改善に対する評価は分かれている。政府は政策効果が徐々に現れ始めたと評価する一方、多くの研究者は複数の要因が重なった結果であり、政策だけで説明することはできないと指摘している。

人口学では、一時的な出生増加と長期的な出生回復は明確に区別される。一時的な増加は、延期されていた結婚や出産が集中することで生じることがあるが、その後に再び減少へ転じる例も少なくない。

また、出生率は出産可能年齢の女性人口や年齢構成にも影響される。仮に女性人口が減少していても、出産適齢期の人口比率が高まれば、出生率が改善する場合がある。

したがって、今回の反転を正しく理解するためには、「出生率だけ」を見るのではなく、婚姻、人口構造、政策、社会意識などを総合的に分析する必要がある。

実際、韓国で起きた変化は単一の要因では説明できず、複数の要素が同時に作用した結果と考えられている。人口学者の間でも、「構造的要因」と「一時的要因」の双方を組み合わせて検討することが主流となっている。


婚姻増および出生率反転の背景(4つの要因分析)

韓国で2023年以降に確認された婚姻件数と出生率の反転は、単一の政策や社会変化だけで説明できるものではない。人口学者や韓国統計庁、韓国保健社会研究院(KIHASA)、韓国開発研究院(KDI)などの分析では、複数の要因が同時に作用した結果と考えられている。

大きく整理すると、その背景には四つの要因が存在する。第一は、新型コロナウイルス感染症によって延期されていた結婚や出産が一斉に実現した「繰り越し需要(ペンアップ効果)」である。第二は、出生可能年齢人口の構成が変化し、人口学上の「谷」から「山」へ移行したことである。

第三は、韓国政府と地方自治体、さらには民間企業まで巻き込んだ大規模な少子化対策が一定の成果を上げ始めた可能性である。第四は、外国人との婚姻、特に国際結婚の増加であり、婚姻件数全体を押し上げる一因となった。

これら四つの要因は互いに独立しているわけではない。例えば、住宅支援策が結婚を後押しし、コロナ禍で延期されていた結婚が実現し、その結果として出生数が増えるというように、複数の要素が連鎖的に作用している。

そのため、出生率の反転を理解するには、一つひとつの要因を個別に見るだけでなく、それらがどのように重なり合ったのかを検証することが重要である。


① コロナ禍による「繰り越し需要(ペンアップ効果)」の顕在化

今回の婚姻増加を説明する上で、最も広く支持されているのが「ペンアップ効果」である。これは感染症や災害などによって抑制されていた需要が、社会の正常化とともに一気に表面化する現象を指す。

新型コロナウイルス感染症が世界的に拡大した2020年以降、韓国でも社会活動は大きく制限された。結婚式場の営業制限、人数制限、移動自粛などによって、多くのカップルが結婚そのものを延期することとなった。

韓国では結婚式を盛大に行う文化が根強く残っており、親族や知人を多数招待することが一般的である。そのため、小規模な結婚式を選ぶよりも、感染状況が改善するまで待つという判断をしたカップルが少なくなかった。

また、住宅市場の混乱や雇用環境の悪化も結婚延期を後押しした。感染拡大による景気悪化のなかで、「今は結婚する時期ではない」と考える若者が増えたのである。

このように、2020年から2022年にかけて減少した婚姻件数の一部は、「結婚したくない人」が増えた結果ではなく、「結婚したくてもできなかった人」が積み重なった結果でもあった。

2023年になると感染症対策はほぼ終了し、社会活動が全面的に正常化した。延期されていた結婚式が次々と実施され、新婚旅行や住宅購入も再開された。

この結果、婚姻件数は急速に回復した。韓国統計庁も、婚姻件数増加の背景としてコロナ禍による延期需要の解消を主要因の一つに挙げている。


ペンアップ効果は出生数にも波及した

婚姻が回復すると、その影響は時間差を伴って出生数へ波及する。韓国では婚姻後に第一子を出産する夫婦が多数派であるため、結婚の増加は翌年以降の出生数増加につながりやすい。

実際、2023年に婚姻件数が増加すると、2024年には出生数が増加へ転じた。人口学の理論とも整合的であり、婚姻増加が出生率改善の直接的な要因となったと考えられる。

韓国保健社会研究院は、この現象を「コロナ禍で抑制されていた家族形成行動の正常化」と位置付けている。つまり、若者の価値観が劇的に変化したというより、本来予定していた人生設計へ戻った結果と解釈している。

この点は重要である。もし出生率上昇がペンアップ効果によるものならば、その効果はいずれ一巡する可能性がある。

延期されていた結婚や出産がすべて実現した後は、新たな需要がなければ再び婚姻件数や出生数が減少する可能性もある。そのため、多くの専門家は「現在の改善が恒久的なものかどうかは2026年以降を見なければ判断できない」と慎重な見方を示している。


統計から見えるペンアップ効果の特徴

ペンアップ効果にはいくつか特徴がある。第一に、婚姻件数の増加率が一時的に非常に高くなることである。

2024年の韓国では婚姻件数の増加率が二桁に達し、長年続いていた減少傾向とは明らかに異なる動きを示した。この急激な回復は、通常の人口増加だけでは説明できない。

第二に、結婚年齢がやや上昇する傾向がみられる。延期されていたカップルが結婚するため、30代前半から半ばの婚姻が特に増加した。

第三に、出生数の改善が婚姻件数の増加より約1年遅れて現れることである。今回の韓国の人口動態も、この典型的なパターンを示している。

このように統計データは、2023年以降の婚姻・出生の改善がペンアップ効果と高い整合性を持つことを示している。


② 人口構造の「谷」から「山」への移行

出生率改善の第二の要因として注目されているのが、人口構造そのものの変化である。これは一般にはあまり知られていないが、人口学では極めて重要な要素とされている。

出生率は「子どもを産みたい人の割合」だけで決まるわけではない。出産可能年齢にある女性が何人いるか、その年齢構成がどうなっているかも大きく影響する。

韓国では1980年代から1990年代初頭にかけて比較的出生数が多かった。その世代が2020年代に30代前後となり、結婚・出産の中心年齢へ入ったことで、出生可能人口の構成に変化が生じた。

一方、その前後の世代には出生数が少ない「谷」の時期が存在する。人口学では、このような世代構成の違いによって婚姻件数や出生数が変動する現象がよく知られている。

韓国統計庁は、2024年の出生増加について「30代前半女性人口の増加」が一因であると分析している。出生率そのものだけではなく、出産適齢期人口が一時的に増えたことが出生数増加につながったのである。


「人口構造」と「出生率」は別の指標である

ここで注意すべきなのは、「出生率」と「出生数」は異なる概念であるという点である。出生率は女性一人当たりの平均出生数を示し、出生数は実際に生まれた子どもの総数を示す。

仮に出生率が変わらなくても、出産適齢期の女性人口が増えれば出生数は増える。逆に出生率がやや改善しても、女性人口そのものが減れば出生数は増えない場合もある。

今回の韓国では、この二つが同時に改善したことが注目されている。婚姻件数の増加に加え、人口構造の追い風も重なったことで、出生数の増加がより明確になったのである。

しかし、この人口構造の追い風は永続するものではない。出産適齢期人口は今後再び減少局面に入ると予測されており、中長期的には出生数への下押し圧力となる可能性が高い。

韓国開発研究院や韓国銀行も、「人口構造による一時的な押し上げ効果は数年間に限られる」と分析している。つまり、今回の改善には人口構造という偶然の要素も含まれているのである。


四つの要因は相互に重なり合っている

ここまで見てきたように、2023年以降の婚姻増加と出生率反転は、コロナ禍で延期されていた結婚需要の解放と、人口構造の変化という二つの大きな要因によって説明することができる。

しかし、この二つだけでは3年連続の婚姻増加を完全には説明できない。韓国政府による住宅支援や育児支援の拡充、地方自治体の独自政策、さらには大企業による出産支援制度なども若者の結婚・出産を後押しした可能性が高い。

また、外国人との国際婚姻も近年増加しており、婚姻件数全体を押し上げる要因となっている。これらは一見すると別々の現象であるが、実際には相互に影響し合いながら人口動態を変化させている。


③ 官民挙げた「破格の少子化・住宅・育児支援」の結実

韓国で2023年以降にみられた婚姻件数と出生率の改善について、第三の要因として挙げられるのが、政府・自治体・民間企業が一体となって進めてきた少子化対策である。韓国は2006年以降、少子化対策を国家的課題と位置付け、累計で数百兆ウォン規模ともされる財政資源を投入してきた。

初期の政策は保育施設の整備や育児休業制度の拡充が中心であったが、出生率の低下に歯止めがかからなかったことから、2020年代に入ると政策の重点は「結婚しやすい環境づくり」と「子どもを持つことによる経済的不安の軽減」へと移った。

特に2022年以降は、少子化対策を単なる福祉政策ではなく、住宅政策、雇用政策、税制、金融支援まで含めた総合政策として再構築する動きが強まった。韓国政府は「出生率だけを改善しようとしても限界があり、若者が結婚を決断できる社会環境を整える必要がある」との認識を明確に打ち出している。

人口学者の間でも、結婚と出産を阻害する最大の要因は住宅費や生活費への不安であり、それらを軽減する政策は一定の効果を持つ可能性があると指摘されている。2023年以降の婚姻増加は、こうした政策効果がコロナ禍後の社会正常化と重なった結果として理解することができる。


新婚向けの住宅支援

韓国の若年層が結婚をためらう最大の理由の一つが住宅問題である。特にソウル首都圏では住宅価格が急騰し、新婚夫婦が独力で住宅を取得することは極めて難しい状況が続いてきた。

韓国では伝統的に、結婚時には一定水準以上の住居を確保することが社会的に期待される。このため、住宅を用意できないことが結婚延期や婚姻回避につながるケースが少なくなかった。

こうした状況を改善するため、政府は新婚世帯向けの公営住宅供給を拡大するとともに、低利融資制度を充実させた。一定の所得要件を満たす新婚世帯には、市場金利を大きく下回る条件で住宅ローンを利用できる制度も整備されている。

さらに、新婚夫婦や子どものいる世帯を対象とした住宅優先供給制度も拡充された。住宅供給そのものを増やすだけでなく、結婚や出産を希望する世帯が住宅を確保しやすいよう配慮した制度設計が進められている。

地方自治体でも独自の支援策が相次いで導入された。地方都市では、新婚世帯への家賃補助や住宅購入補助金、転居支援などを実施する自治体が増え、人口流出対策と少子化対策を一体化する動きが広がっている。

もちろん、住宅価格そのものが大幅に下落したわけではなく、依然として住宅取得の負担は重い。しかし、若年層にとって「結婚しても住む場所が確保できる」という安心感が高まったことは、婚姻増加の一因になったと考えられる。


現金給付の拡充

韓国政府は住宅支援と並行して、子どもを持つ家庭への現金給付も大幅に拡充した。従来の出産祝い金に加え、出生直後から一定期間にわたって支給される育児手当や親給付制度などが段階的に整備されている。

代表的なのが「親給付」と呼ばれる制度である。乳幼児を養育する家庭に対して毎月一定額を支給するもので、育児休業中の所得減少を補う役割も期待されている。

また、第一子だけでなく第二子、第三子に対して給付額を増やす自治体も多い。地方では人口減少への危機感が強いため、国の制度に独自の給付を上乗せする事例が増えている。

保育料の軽減も進んだ。共働き世帯だけでなく、育児休業中や専業主婦家庭も利用しやすい保育制度を整え、育児と就労の両立を支援する政策が拡充されている。

教育費についても、小学校入学前までの負担軽減を図る施策が進められた。韓国では教育費負担が出生抑制の要因として長年指摘されてきたため、幼少期の経済的負担を減らすことが重視されている。

もっとも、専門家の多くは「現金給付だけで出生率は大きく改善しない」と指摘している。実際、韓国では過去にも現金支給を拡大した時期があったが、出生率低下は止まらなかった。

そのため現在は、現金給付を単独で行うのではなく、住宅、雇用、保育、働き方改革などと組み合わせた総合政策として実施する方向へ転換している。


民間企業の参入

韓国の少子化対策で近年特に注目されているのが、大企業を中心とした民間企業の積極的な参入である。出生率低下が労働力不足や経済成長の停滞につながるとの危機感から、企業側も人材確保の観点で少子化対策を重視するようになった。

大手企業の中には、社員が子どもを出生した際に高額の祝い金を支給する制度を導入する例が相次いでいる。さらに、育児休業期間の延長や、男性社員の育児休業取得促進、柔軟な勤務制度の整備なども進められている。

在宅勤務や時差出勤制度を導入する企業も増え、子育てと仕事の両立を支援する環境整備が進んでいる。これまで韓国では長時間労働が一般的とされてきたが、働き方改革も徐々に浸透しつつある。

企業にとっても、優秀な人材を確保・定着させるためには、結婚や出産を支援する制度が重要な競争力となっている。特に若い世代ほど福利厚生を重視する傾向が強く、少子化対策は企業経営上の課題ともなっている。

もっとも、こうした制度の恩恵を受けられるのは主に大企業の正社員であり、中小企業や非正規雇用の労働者との格差は依然として大きい。この点は韓国の少子化対策における課題として残されている。


④ 国際婚姻(特に日韓カップル)の増加

第四の要因として注目されるのが国際婚姻の増加である。韓国では以前から外国人との結婚が一定数存在していたが、近年は国際交流の活発化や外国人居住者の増加を背景に、その割合が再び上昇している。

国際婚姻は、中国、ベトナム、タイ、フィリピンなどアジア諸国との婚姻が中心であるが、日本との婚姻も近年増加傾向を示している。新型コロナ禍で一時停滞した人的交流が回復し、留学や就労、観光を通じた出会いが増えたことが背景にある。

特に日韓関係は2023年以降、両国政府による関係改善を受けて人的往来が急速に回復した。観光客や留学生、ビジネス関係者の交流が増えたことにより、日韓カップルが形成される機会も拡大したとみられる。

ただし、日韓婚姻が婚姻件数全体に占める割合は依然として限定的である。韓国全体の婚姻増加を説明する主因ではなく、国際婚姻全体の一部として位置付けるのが適切である。

一方で、国際婚姻は人口減少が進む地方部において重要な役割を果たしている。農村部や中小都市では外国人配偶者を迎える家庭が地域社会を支える存在となっており、地域人口の維持にも一定の貢献をしている。

しかし、国際結婚には文化や言語の違い、子育て支援、多文化共生などの課題も伴う。韓国政府は多文化家庭への教育支援や生活支援を拡充しているものの、地域によって支援体制には差があり、今後も改善が求められている。


政策効果をどう評価するか

韓国の少子化対策は、「世界で最も多額の予算を投じても出生率が改善しなかった政策」として長年批判の対象となってきた。しかし、2023年以降の婚姻増加と出生率の反転を受けて、その評価は徐々に変わりつつある。

もちろん、今回の改善をすべて政策効果とみなすことはできない。第3回で述べたように、コロナ禍による繰り越し需要や人口構造の変化が大きく影響していることは否定できない。

それでも、住宅支援や育児支援、企業による福利厚生の拡充が、結婚や出産をためらう若者の心理的・経済的負担を一定程度軽減した可能性は高い。複数の要因が重なり合うことで、婚姻件数と出生率の改善という結果につながったと考えるのが妥当である。

一方で、韓国は依然として世界最低水準の出生率にあることも忘れてはならない。今回の反転は希望の兆しではあるが、少子化問題そのものが解決したわけではなく、中長期的な人口減少を覆すにはなお多くの課題が残されている。


課題:依然として世界最低水準

2023年以降、韓国では婚姻件数が3年連続で前年を上回り、出生数と合計特殊出生率もわずかながら改善した。しかし、この変化だけをもって「少子化から脱却した」と評価することはできない。人口学的にみれば、今回の反転は長期的な人口減少の流れを変えるほどの規模には達していない。

2024年の合計特殊出生率は約0.75まで改善したとされるが、人口を維持するために必要とされる人口置換水準の約2.1には遠く及ばない。また、経済協力開発機構(OECD)加盟国の中でも依然として最低水準に位置しており、「世界最低水準」という評価は大きく変わっていない。

出生数そのものも依然として歴史的な低水準にある。2000年代初頭には年間約60万人で推移していた出生数は、2020年代には20万人台前半まで減少した。2024年に増加へ転じたとはいえ、その増加幅は限定的であり、長期的な減少傾向を覆すには至っていない。

さらに重要なのは、出生率改善の背景に一時的要因が多く含まれている可能性である。コロナ禍で延期されていた結婚・出産が集中した「ペンアップ効果」は、時間の経過とともに薄れていくと考えられている。

人口構造による追い風も永続的ではない。現在は比較的人口の多い世代が出産適齢期にあるものの、その後は少子化の影響を受けた世代が中心となるため、出生可能年齢人口は再び減少していく見通しである。

韓国銀行や韓国開発研究院も、中長期的には人口減少が経済成長率や労働力供給に大きな影響を及ぼすと予測している。出生率が一時的に改善したとしても、人口構造全体の変化を逆転させることは容易ではない。


少子化を生み出す構造的要因はなお残る

韓国社会には、少子化をもたらしてきた構造的要因が依然として数多く残されている。その代表が住宅問題である。

首都ソウルを中心とした住宅価格は依然として高く、多くの若年層にとって住宅取得は大きな負担となっている。政府による住宅支援制度は拡充されたものの、市場価格そのものを大きく引き下げるには至っていない。

教育費への不安も解消されていない。韓国では大学受験競争が非常に激しく、幼少期から塾や習い事への支出が家計を圧迫する傾向が続いている。

若年層の雇用不安も重要な課題である。大企業と中小企業の賃金格差、正規・非正規雇用の待遇格差などが、結婚や出産をためらう要因となっている。

また、女性が仕事と育児を両立しにくい環境も依然として残る。制度面では育児休業や短時間勤務制度が整備されてきたが、職場文化や昇進への影響を懸念して制度利用をためらうケースも少なくない。

男性の育児参加は以前より進んでいるものの、家事・育児負担は依然として女性に偏る傾向がある。こうした家庭内の役割分担も、出生率改善を妨げる要因として指摘されている。


韓国型少子化対策の成果と限界

韓国は2006年以降、少子化対策として累計数百兆ウォン規模の財政支出を行ってきた。これほど大規模な予算を長期間投入した国は世界的にも珍しい。

その一方で、2023年まで出生率は一貫して低下し続けたため、「世界で最も費用対効果の低い少子化対策」と批判されることもあった。

しかし近年では、その評価はやや修正されつつある。住宅支援、育児支援、働き方改革、企業による福利厚生の充実など、複数の政策が長期間積み重なった結果として、婚姻件数や出生率の改善に一定の効果を及ぼした可能性が指摘されている。

人口政策は短期間で成果が現れるものではない。子どもを産み育てるかどうかは、経済状況だけでなく、社会制度や将来への安心感、価値観など多くの要因によって決まる。

韓国では近年、「出生率だけを目標とする政策」から、「若者が希望すれば結婚・出産を選択できる社会をつくる政策」へと発想が変化している。この転換は、少子化対策の質的変化として注目される。

一方で、地方と首都圏の格差、大企業と中小企業の格差、正規雇用と非正規雇用の格差など、社会構造そのものに由来する課題は依然として大きい。こうした構造問題を改善しなければ、出生率の持続的な回復は難しいとの見方が専門家の間では主流である。


今後の展望

今後の最大の焦点は、婚姻件数の増加が2026年以降も継続するかどうかである。もし増加基調が維持されれば、出生数にも一定の押し上げ効果が期待できる。

反対に、ペンアップ効果が一巡して婚姻件数が再び減少へ転じれば、出生率も再度低下する可能性がある。その意味で、2026年から2028年頃の人口動態は、韓国の少子化対策を評価する上で重要な期間となる。

韓国政府は今後も住宅供給の拡大、育児支援の充実、柔軟な働き方の推進、男性の育児参加促進などを進める方針である。また、地方自治体による独自の少子化対策や、多文化家庭への支援も引き続き強化される見込みである。

人口学者の多くは、「出生率が急激に1.5や2.0まで回復する可能性は低い」とみている。一方で、「0.7台から0.9台、さらに1.0前後へと緩やかに改善する可能性」は十分にあるとの見方も示されている。

韓国の事例は、少子化対策に即効薬が存在しないことを改めて示している。長期にわたる制度改革と社会環境の改善を積み重ねることによって初めて、人口動態に変化が現れることを示す事例ともいえる。


日本への示唆

韓国の経験は、日本にとっても多くの示唆を与えている。日本も出生率の低下や人口減少が続いており、住宅費、教育費、若年層の所得不安など、少子化の背景には共通する課題が少なくない。

一方で、日本では婚外子の割合は韓国よりやや高いものの、依然として結婚と出生の結び付きが強いという共通点がある。そのため、結婚を希望する若者が結婚しやすい環境を整えることは、出生率改善に向けた重要な要素となる。

また、少子化対策を子育て支援だけに限定せず、住宅、雇用、働き方改革、男女共同参画、地域政策などを含めた総合政策として進める必要性も、韓国の経験から読み取ることができる。

もっとも、日本と韓国では人口構造や社会制度、労働市場、文化的背景が異なるため、韓国の政策をそのまま導入すれば同様の成果が得られるとは限らない。各国の社会条件に応じた政策設計が不可欠である。


まとめ

韓国では2023年から2025年にかけて、婚姻件数が3年連続で前年を上回り、出生数と合計特殊出生率も反転した。長年続いてきた少子化の流れに変化が現れたことは、人口学的にも注目すべき出来事である。

この背景には、第一にコロナ禍で延期されていた結婚・出産が社会正常化とともに実現した「繰り越し需要(ペンアップ効果)」、第二に出産適齢期人口の増加という人口構造の変化、第三に住宅支援や育児支援を柱とする官民一体の少子化対策、第四に国際婚姻の増加という四つの要因が複合的に作用していた。

しかし、韓国は依然として世界最低水準の出生率にあり、住宅価格の高騰、教育費負担、雇用不安、男女の役割分担など、多くの構造的課題を抱えている。今回の改善は希望の兆しではあるものの、人口減少を根本的に反転させる段階には至っていない。

それでも、韓国の事例は、少子化対策は短期間で成果が現れるものではなく、住宅、雇用、子育て支援、働き方改革などを総合的に進めることで初めて人口動態に変化が現れる可能性を示した点で、大きな政策的意義を持つ。今後も婚姻件数と出生率の推移を継続的に検証することが、韓国だけでなく少子化に直面する各国にとって重要な課題となる。


参考・引用リスト

  • 韓国統計庁(KOSTAT)『Population Trends』『Birth Statistics』『Marriage and Divorce Statistics』
  • 韓国保健福祉部(Ministry of Health and Welfare)
  • 低出生高齢社会委員会(Presidential Committee on Ageing Society and Population Policy)
  • 韓国保健社会研究院(KIHASA)少子化・人口政策関連報告書
  • 韓国開発研究院(KDI)人口・労働市場分析レポート
  • 韓国銀行(Bank of Korea)人口動態と経済成長に関する研究
  • OECD『Family Database』『Society at a Glance』『OECD Economic Surveys: Korea』
  • 国際連合人口部(United Nations Population Division)『World Population Prospects』
  • 国際連合人口基金(UNFPA)人口・出生関連報告書
  • 世界銀行(World Bank)人口統計データベース
  • ロイター通信(Reuters)2024~2026年 韓国出生率・婚姻統計関連記事
  • AP通信(Associated Press)韓国少子化対策関連記事
  • BBC News 韓国人口問題特集
  • Financial Times 韓国の人口・経済分析記事
  • 日本総務省統計局、国立社会保障・人口問題研究所、日本貿易振興機構(JETRO)韓国人口・少子化関連資料
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