「×」ボタンがない広告、ハイリスクなのに「閉じられない広告」がなくならない理由
閉じられない広告は単なる迷惑広告ではなく、ユーザーの意思決定を歪めるダークパターンの一種である。

現状(2026年6月時点)
インターネット広告を巡るユーザー不満の中でも、「閉じられない広告」「×ボタンが見つからない広告」は近年特に深刻な問題として認識されている。スマートフォンアプリ、動画広告、ニュースサイト、無料ゲーム、動画配信サービスなどで広く確認されており、ユーザー体験(UX)を著しく損なう存在となっている。
2020年代に入ってから広告市場ではクリック率(CTR)やインストール率を最大化する競争が激化した。その結果、一部の広告事業者やアプリ開発者は、ユーザーが意図しないクリックを誘発する「ダークパターン(Dark Patterns)」と呼ばれる設計を積極的に採用するようになった。
特に問題視されているのは、「広告を閉じる」というユーザーの明確な意思表示を妨害するUI設計である。従来の広告は画面右上に明瞭な×ボタンが配置されていたが、近年はその位置・サイズ・色彩・挙動が意図的に操作されるケースが増加している。
ユーザーの間では「広告そのものより閉じられないことが不快」「誤タップを狙っているのが見え見え」といった批判が広がっている。SNSや掲示板では「UI偽装広告」「フェイク×広告」などの呼称も定着しつつある。
「×」ボタンがない広告・・・ウザイ
ユーザーが最も強いストレスを感じる理由は広告表示そのものではない。広告を見終わった後に即座に閉じられないことである。
人間はインターフェースに対して一定の期待を持っている。画面右上に×があれば閉じる、矢印があれば戻るという認知的ルールが存在する。そのため「閉じると思ったのに閉じられない」という状況は、単なる広告表示以上の心理的負担を生む。
認知心理学では、このような状況を期待違反と呼ぶ。ユーザーは広告内容よりも「操作を妨害された」という感覚を強く記憶するため、広告主に対する印象も悪化しやすい。
結果として広告主は短期的にはクリック数を獲得できても、長期的にはブランドイメージを損なう可能性が高い。近年のマーケティング研究でも、強制的・欺瞞的広告は企業ブランドへの信頼を低下させる傾向が報告されている。
閉じられない広告の類型と仕組み
閉じられない広告にはいくつかの典型的パターンが存在する。
第一は「UI偽装型」である。閉じるボタンが存在するように見せかけながら、実際には広告リンクとして機能する。
第二は「時間遅延型」である。一定時間経過するまで閉じる操作を認めない。
第三は「視認性阻害型」である。ボタンを極端に小さくしたり背景と同化させたりする。
第四は「システム偽装型」である。OS警告やセキュリティ通知を装い、ユーザーの危機感を利用する。
これらは単独で使用される場合もあるが、実際には複数の手法が組み合わされることが多い。ユーザーが誤操作する確率を最大化するためである。
「×」ボタンの偽装(UI偽装広告)
UI偽装広告は現在最も悪質とされる広告形態の一つである。
典型例として、画面右上に表示された×マークをタップすると広告が閉じるのではなく、アプリストアや広告主サイトへ遷移するケースがある。ユーザーは閉じたつもりで操作しているため、実質的には誤クリックを誘発する設計である。
また「Skip」「Close」「Continue」など一般的なUI要素を広告画像内に描き込む手法も広く確認されている。見た目はシステムボタンだが、実際には広告クリエイティブの一部である。
Google PlayはOS警告やシステムUIを模倣する広告やアプリを禁止している。特にOSの警告画面やシステム通知を装う行為は明示的なポリシー違反とされている。
「×」ボタンの不可視化・極小化
近年増加しているのが×ボタンを意図的に見えにくくする手法である。
例えば白背景に薄灰色の×を表示する、ボタンサイズを数ピクセルまで縮小する、広告画像の中に埋没させるといった方法が用いられる。
高齢者や視力の弱い利用者にとっては事実上発見不能なケースもある。ユーザーコミュニティでは「虫眼鏡が必要な×ボタン」「1ピクセル広告」などと揶揄されることもある。
UI設計の専門家からは、これはアクセシビリティ原則に反するとの指摘がなされている。ユーザーが合理的に認識できない操作要素は、本来のユーザビリティ設計の理念に反するからである。
カウントダウンタイマーによる遅延
動画広告で多く見られるのがカウントダウン型広告である。
広告開始後に「5秒後にスキップ可能」「15秒後に閉じるボタン表示」などの仕組みが導入される。この方式自体は業界標準として一定の合理性が認められている。
しかし近年は終了後さらに別画面が表示されるケースも増えている。例えば動画終了後にアプリ紹介画面が出現し、その後さらにストア画面へ誘導する構造である。
ユーザーから見ると「広告を最後まで見たのにまだ閉じられない」という状況になるため、強い不満の原因となる。
ダミーのシステム警告
極めて問題性が高いのがシステム警告偽装である。
「ウイルスが検出されました」「ストレージが破損しています」「バッテリーが危険です」などの警告を表示し、ユーザーを特定アプリやサービスへ誘導する。
この手法はユーザーの恐怖心を利用する典型的なダークパターンである。Google PlayではOS警告を模倣する表示が禁止されている。
セキュリティ研究者の間でも、こうした広告は単なる迷惑広告を超え、フィッシングや詐欺的行為への入口になり得ると警告されている。
日本国内における法的問題点
日本法には「フェイク×ボタン禁止法」のような直接規制は存在しない。
しかし複数の法律を組み合わせて評価すると、一定のケースでは違法性が認められる可能性がある。
特に問題となるのは、消費者を誤認させる表示、契約誘導、詐欺的勧誘、虚偽表示などである。個別事案によっては行政処分や民事責任、さらには刑事責任の対象になり得る。
景品表示法
景品表示法は消費者を誤認させる表示を規制する法律である。
広告であるにもかかわらず広告でないように見せる行為や、ユーザーを誤認させる表示は規制対象となる可能性がある。近年はステルスマーケティング規制も導入され、広告表示の透明性が重視される傾向が強まっている。
フェイク×ボタン自体を直接規制する条文はないが、誤認を誘発する表示として問題視される余地は十分存在する。
特定商取引法
特定商取引法は通信販売やオンライン取引における消費者保護を目的としている。
広告を閉じるつもりの操作が契約申込みや課金導線につながる場合、表示義務や誤認防止義務との関係が問題となる。
特に定期購入やサブスクリプション誘導においては、近年規制強化が進んでいる。
電子消費者契約法
電子消費者契約法はオンライン契約における誤操作から消費者を保護する法律である。
ユーザーが契約意思を持たず誤クリックした場合、契約の有効性が争われる可能性がある。
フェイクUIが誤操作を誘発したと認定されれば、消費者保護の観点から重要な論点となる。
刑法(軽犯罪法)
単なる迷惑広告が直ちに刑法違反になることは少ない。
しかし、虚偽警告によって金銭を騙し取る場合には詐欺罪が成立する可能性がある。また悪質な誘導や業務妨害行為が伴う場合には別の犯罪類型が問題となり得る。
軽犯罪法との直接的関連は限定的であるが、社会的迷惑行為として評価される余地は存在する。
行政・民間・プラットフォームによる規制の現状
実務上、最も強力な規制主体は国ではなくプラットフォームである。
行政による法執行は時間がかかる。一方、GoogleやAppleは規約違反を理由に即時配信停止やアプリ削除を行える。
そのため閉じられない広告への対策は「法律」よりも「プラットフォーム規約」が中心となっている。
① プラットフォームによる規約規制(最も実効性が高い)
現在の規制構造では、プラットフォームによる自主規制が最も実効性を持つ。
広告主はGoogle、Apple、Metaなど巨大プラットフォームへの依存度が高い。そのため配信停止処分は非常に大きな経済的打撃となる。
結果として多くの事業者は法律違反よりもプラットフォーム規約違反を恐れている。
Google(Google Play / Google広告)の規制
Google Playは欺瞞的行為を明確に禁止している。OS警告の模倣、誤認を誘うUI、虚偽表示などは削除対象となる。
また広告ネットワークでも、誤クリック誘導やシステム通知偽装は原則禁止されている。
近年はアドフラウド(広告詐欺)対策も強化されており、違反アプリの大量削除事例も報告されている。
Apple(App Store)の規制
Appleもユーザー体験を損なう広告や誤認誘導を厳しく取り締まる傾向がある。
App Store審査ガイドラインでは、ユーザーを欺くUIや誤解を与える設計は禁止されている。特にシステム機能を模倣する行為は審査通過が困難である。
Appleの審査は事前審査型であり、Google Playより厳格と評価されることも多い。
② 行政(消費者庁)の動向
消費者庁は近年、インターネット広告表示の監視を強化している。ウェブ上の表示が消費者の主要な情報源であることを踏まえ、誤認表示や不当表示への対策を継続している。
また景品表示法改正やステルスマーケティング規制の導入など、デジタル広告に対する規制強化が進んでいる。
現時点ではフェイク×ボタン単独を対象とした規制はないが、今後ダークパターン規制の一環として議論される可能性が高い。
③ 民間団体(ダークパターン対策協会など)の啓発
民間レベルでもダークパターン問題への関心が高まっている。
研究機関やNPO、業界団体は、ユーザーを欺くUI設計の類型化やガイドライン策定を進めている。
学術研究でもダークパターンの自動検出や分類手法の研究が活発化している。
ユーザー側の防衛策
現状では完全な制度的解決が実現していないため、利用者自身による対策も重要である。
特に高齢者やITリテラシーの低い利用者は被害を受けやすいため、基本的な防衛知識の普及が求められる。
ブラウザの「戻る」やタブ削除の徹底
広告が閉じられない場合、×ボタンを探し続ける必要はない。
ブラウザの戻る機能やタブ自体の削除を利用する方が安全である。
特にシステム警告を装う広告では、広告内ボタンを押さないことが重要である。
広告ブロック機能(Ad Blocker)の活用
広告ブロッカーは現時点で最も効果的な自衛手段の一つである。
ブラウザ拡張機能やDNSフィルタリングを利用することで、多くの悪質広告を事前に遮断できる。
ただし一部サイトでは機能制限が発生するため、利用環境に応じた選択が必要である。
OS・アプリの最新化
悪質広告の中には古いOSやブラウザの脆弱性を悪用するものも存在する。
OS、ブラウザ、セキュリティソフト、アプリを最新状態に保つことで、多くのリスクを低減できる。
公式ストア以外からアプリをインストールしないことも基本的対策である。
今後の展望
今後は「閉じられない広告」問題がダークパターン規制の中心的テーマの一つになる可能性が高い。
欧米では既にダークパターンを消費者保護法の観点から規制する議論が進んでいる。日本でも同様の流れが強まると予想される。
またAIを用いた広告審査技術の発展により、フェイク×ボタンやシステム偽装UIの自動検出が進む可能性がある。研究分野でも既に検出技術の開発が進展している。
長期的には、アクセシビリティ基準と広告基準を統合した新たなUI規制が導入される可能性もある。
まとめ
閉じられない広告は単なる迷惑広告ではなく、ユーザーの意思決定を歪めるダークパターンの一種である。
フェイク×ボタン、不可視化ボタン、カウントダウン遅延、システム警告偽装など、多様な手法が利用されている。これらは法的にはグレーゾーンも多いが、景品表示法や消費者保護法制との関係で問題視される余地がある。
現時点で最も実効性が高いのはGoogleやAppleなどプラットフォームによる規約執行である。一方で行政規制や民間団体による啓発活動も進展しており、今後はダークパターン全般に対する社会的規制が強化される可能性が高い。
ユーザー側としては、広告ブロッカーの活用、戻るボタンの利用、OS更新などの基本的対策を講じることが現実的な防衛手段となる。デジタル社会におけるUIの信頼性を維持するためには、事業者・プラットフォーム・行政・利用者の全てが役割を果たす必要がある。
参考・引用リスト
- 消費者庁「インターネット上の広告表示」 消費者庁 インターネット上の広告表示
- 消費者庁「景品表示法」 消費者庁 景品表示法
- 消費者庁「令和5年10月1日からステルスマーケティングは景品表示法違反となります」 消費者庁 ステルスマーケティング規制
- Google Play Console Help, “Deceptive Behavior Policy” Google Play Deceptive Behavior Policy
- Hasan Mansur et al., “AidUI: Toward Automated Recognition of Dark Patterns in User Interfaces”, arXiv, 2023
- Gregory M. Dickinson, “Dark Patterns and Consumer Protection Law for App Makers”, arXiv, 2026
- Phil Cuvin et al., “DECEPTICON: How Dark Patterns Manipulate Web Agents”, arXiv, 2025
- Singh et al., “Erasing Labor with Labor: Dark Patterns and Lockstep Behaviors on Google Play”, arXiv, 2022
- 消費者庁「表示対策」 消費者庁 表示対策
- 学術文献・HCI(Human Computer Interaction)研究におけるダークパターン研究群
- プラットフォーム各社(Google、Apple)の広告・アプリ審査ポリシー文書
- 国内外の消費者保護法およびUIデザイン倫理に関する研究資料・業界レポート・専門家分析資料
ハイリスクなのに「閉じられない広告」がなくならない理由
一見すると、閉じられない広告やフェイク×ボタン広告は利用者の反感を買いやすく、プラットフォーム規約違反や法的リスクも伴うため、事業者にとって合理性がないように見える。しかし実際には2026年現在でも広範に残存している。
最大の理由は「期待収益が制裁コストを上回る」構造が存在するためである。広告業界では一般にCTR(クリック率)やCVR(コンバージョン率)が収益を左右するが、UI偽装広告は通常広告より高い誤クリック率を生み出す傾向がある。
広告主から見れば、100万人中数%が不快感を持って離脱しても、数千件のアプリインストールや課金契約が発生すれば利益が残る場合がある。そのため短期利益を重視する事業者ほどリスクを取る誘因が存在する。
さらに問題なのは、広告主・広告代理店・アドネットワーク・アフィリエイト事業者・海外事業者が多層構造を形成していることである。
利用者が問題広告を発見しても、実際に誰が責任主体なのか特定しにくい。広告配信経路が複雑であるため、責任追及コストが高くなる。
特に海外事業者が関与するケースでは、日本国内で行政処分を行っても実際の執行が困難な場合がある。
また「グレーゾーン活用」も重要な要因である。
例えば「×ボタンが存在しない」こと自体を直接禁止する法律は存在しない。そのため事業者は法規制の空白部分を利用しながら、規約違反にならないギリギリの設計を試みる。
結果として「法律上は明確に違法と言い切れないが、多くの利用者は不快と感じる」という領域が形成される。
行政処分(措置命令・課徴金)の実効性
日本の消費者保護法制において中心となる行政処分は措置命令と課徴金命令である。
措置命令は不当表示や誤認表示の停止、再発防止策の実施、公表などを命じる制度である。
一方、課徴金制度は違反行為によって得た売上の一定割合を金銭的に徴収する仕組みである。
理論上は強力な制度である。
特に上場企業や大手企業の場合、措置命令が公表されるだけで株価や企業評価に影響するため、抑止効果が期待できる。
また近年はSNSやニュースサイトによる拡散速度が速いため、行政処分によるレピュテーションリスクは過去より大きくなっている。
しかし、閉じられない広告問題に対する実効性には限界も存在する。
第一に、行政手続は時間がかかる。
消費者庁や関係機関が調査を開始し、証拠を収集し、法的評価を行い、処分を決定するまでには相当期間を要する。
その頃には問題広告が既に終了していることも少なくない。
第二に、処分対象の特定が困難である。
広告制作会社、配信事業者、広告主、アフィリエイト事業者のどこに責任を帰属させるかは必ずしも明確ではない。
第三に、海外事業者問題が存在する。
処分対象が海外法人である場合、日本国内の行政機関が実質的な執行力を持たないことも多い。
そのため理論上は違反であっても実際には制裁が機能しないケースがある。
行政処分の限界
閉じられない広告問題は従来型の消費者保護法制との相性が必ずしも良くない。
景品表示法は「表示内容の真偽」を主な規制対象として発展してきた。
しかしフェイク×ボタン問題の本質は「表示内容の虚偽」ではなく「UI設計そのもの」にある。
つまり従来の広告規制は「何を表示したか」を問題にするが、ダークパターン規制は「どう表示したか」を問題にする。
ここに法制度上のギャップが存在する。
実際、欧米のダークパターン規制論でも、従来法だけでは十分対応できないとの議論が続いている。
今後はUI設計そのものを規制対象とする法制度への移行が課題になると考えられる。
なぜプラットフォーム規制の方が強いのか
閉じられない広告問題において、実際にはGoogleやAppleの方が行政機関より強い影響力を持っている。
理由は即時性にある。
Googleはポリシー違反を検出すると広告配信停止やアカウント停止を行うことができる。
AppleもApp Storeからアプリを削除できる。
これらは数時間から数日単位で実施可能であり、数か月から数年かかる行政手続とは比較にならない。
また事業者にとってGoogle PlayやApp Storeからの排除は死活問題である。
行政罰よりもアプリ削除の方が実質的ダメージが大きい場合も少なくない。
そのため2026年現在、閉じられない広告問題の主戦場は法律ではなくプラットフォーム規約になっている。
「Web標準UIを歪める行為」への包囲網はどう強まるか
今後最も注目されるのは「Web標準UI保護」という考え方である。
現在の規制は広告の内容や表示方法を個別に評価している。
しかし近年は「UIそのものの信頼性を守るべきだ」という発想が強まっている。
例えば×ボタン、戻るボタン、通知アイコン、ダウンロードボタンなどは、利用者が長年の経験によって意味を学習した標準UIである。
もし広告事業者がこれらを自由に偽装できるなら、インターネット全体の信頼性が崩壊する。
実際に研究者の間では、ダークパターンを単なる消費者問題ではなく「デジタル公共空間の汚染」とみなす考え方が広がっている。
今後は以下の方向で包囲網が強化される可能性が高い。
第一に、UI偽装の明文化である。
現在は欺瞞的行為として包括的に規制されているが、将来的には「閉じるボタンの偽装禁止」「システム警告偽装禁止」などがより具体的に規定される可能性がある。
第二に、自動検出技術の発展である。
AIによる画像認識技術の向上により、広告内のフェイクボタンや疑似UIを自動検出する研究が進んでいる。
第三に、アクセシビリティ規制との統合である。
極小×ボタンや低コントラスト表示はアクセシビリティ問題でもある。
今後は消費者保護とアクセシビリティが統合的に議論される可能性が高い。
第四に、デザイン監査制度である。
金融機関や医療機関の監査制度と同様に、重要サービスのUIを第三者が評価する仕組みが検討される可能性もある。
これからの予測
2026年から2030年頃にかけて、閉じられない広告は徐々に減少する可能性が高い。
ただし完全には消滅しないと考えられる。
その理由は、規制が強化されるたびに新しい回避手法が登場するためである。
例えば過去にはポップアップ広告が問題となったが、その後はインタースティシャル広告へ移行した。
さらにフェイクボタン広告、疑似通知広告、システム警告広告へと変化してきた。
今後も形式は変わるが、本質的な誘導行為そのものは残り続ける可能性が高い。
一方で大手企業は閉じられない広告から距離を置く傾向が強まると予想される。
ESG経営、ブランド保護、消費者信頼の観点から、悪質UIを利用するメリットが減少しているためである。
結果として将来的には「閉じられない広告」は大手広告市場から排除され、海外の小規模事業者や低品質アプリ市場へ集中していく可能性が高い。
閉じられない広告がなくならない最大の理由は、短期利益が制裁リスクを上回る経済構造にある。
行政処分は一定の抑止効果を持つが、執行の遅さ、責任主体の不明確さ、海外事業者問題などの限界も抱えている。
そのため現状で最も実効性が高いのはGoogleやAppleなどプラットフォームによる規約執行である。
今後は単なる広告規制ではなく、「Web標準UIの信頼性保護」という観点から規制が強化される可能性が高い。フェイク×ボタン問題は広告の問題にとどまらず、インターネット社会全体の操作体系とユーザー信頼を守るための課題として位置付けられるようになると考えられる。
総括
本稿では、「閉じられない広告」「×ボタンが見つからない広告」を中心に、その技術的仕組み、ユーザーへの影響、法的問題点、規制動向、そして将来展望について総合的に検証した。
2026年現在、閉じられない広告はインターネット利用者にとって極めて身近な問題となっている。特にスマートフォンアプリ、ゲームアプリ、動画広告、ニュースサイト、無料サービスなどにおいて、広告そのものよりも「閉じられないこと」への不満が大きな社会問題となっている。利用者は本来、広告を閲覧するか否かを自ら選択する自由を持つべきである。しかし実際には、広告を閉じるための操作が意図的に妨害され、誤タップや意図しないページ遷移へ誘導される事例が数多く確認されている。
その代表例がUI偽装広告である。UI偽装広告では、本来システムやブラウザが提供する操作部品である「×」「閉じる」「スキップ」「戻る」などの標準的なUI要素が広告側によって模倣される。利用者はそれを本物の操作ボタンと誤認し、結果として広告主サイトやアプリストアへ誘導される。さらに、×ボタンを極端に小さくする、背景色と同化させる、一定時間表示しないなどの手法も広く用いられている。これらは単なる広告技術ではなく、利用者の認知的特性や行動心理を利用したダークパターンの一種として位置付けられる。
近年の研究では、ダークパターンは単なる不快なデザインではなく、利用者の意思決定を歪める設計であると評価されている。従来の広告は商品やサービスの魅力を訴求するものであったが、閉じられない広告は利用者の選択行動そのものを制御しようとする点で本質的に異なる。つまり問題の核心は広告内容ではなく、「操作の自由」を侵害するUI設計にある。
また、システム警告を偽装する広告の問題性も大きい。「ウイルスが検出されました」「端末が危険な状態です」「ストレージが破損しています」といった表示は、利用者の不安や恐怖を利用して特定アプリやサービスへの誘導を行うものである。このような手法は情報セキュリティ分野においても問題視されており、場合によっては詐欺的行為やフィッシング行為の入り口となる危険性を有している。
法的観点から見ると、日本には現時点で「フェイク×ボタン」や「閉じられない広告」を直接禁止する法律は存在しない。しかし、景品表示法、特定商取引法、電子消費者契約法などの既存法体系との関係では、一定の場合に違法性が認められる可能性がある。特に利用者を誤認させる表示や契約誘導が行われた場合には、消費者保護法制との関係が問題となる。
もっとも、現在の法制度には限界も存在する。従来の消費者保護法は主として「何を表示したか」を規制対象として発展してきた。一方、閉じられない広告問題の本質は「どのように表示したか」にある。つまり虚偽表示や誇大広告ではなく、UI設計そのものが問題となっている。この点において、既存法制とダークパターン問題との間には一定のギャップが存在している。
行政規制についても同様である。消費者庁による措置命令や課徴金制度は一定の抑止効果を持つが、その実効性には限界がある。行政調査や処分には相当な時間を要するため、問題広告が既に終了している場合も少なくない。また、広告主、広告代理店、アフィリエイト事業者、海外事業者などが複雑に関与する広告エコシステムにおいては、責任主体の特定そのものが困難である。特に国外事業者に対しては、日本の行政機関が十分な執行力を発揮できないケースも存在する。
こうした状況の中で、最も強い実効性を持つ規制主体となっているのがGoogleやAppleなどのプラットフォーム事業者である。Google PlayやGoogle広告は欺瞞的行為を禁止しており、システムUIの模倣や誤認誘導型広告に対してアプリ削除や広告停止などの措置を実施している。AppleもApp Store審査ガイドラインを通じて同様の規制を行っている。これらの措置は行政処分と比較して迅速であり、事業者に対する経済的影響も大きい。そのため現実の規制構造においては、「法律による規制」よりも「プラットフォーム規約による規制」の方が高い実効性を持っている。
しかし、それにもかかわらず閉じられない広告が完全になくならない理由も存在する。最大の理由は経済的誘因である。UI偽装広告やフェイク×ボタン広告は高い誤クリック率を生み出すため、短期的には利益をもたらす場合がある。特に低品質なアプリ市場や一部の広告市場では、利用者の不満や将来的なブランド毀損よりも短期収益が優先される傾向が存在する。また、広告規制が強化されるたびに新たな回避手法が生まれるため、規制と回避のいたちごっこが継続している。
今後の展望として最も重要なのは、「Web標準UI保護」という考え方の拡大である。×ボタン、戻るボタン、通知アイコンなどのUIは、インターネット利用者が長年にわたり学習してきた共通言語である。もしこれらの意味が広告事業者によって自由に改変されるならば、利用者はインターネット上のあらゆる操作に不信感を抱くことになる。その結果、問題は個別広告の不快さにとどまらず、デジタル社会全体の信頼性低下へと発展する。
そのため今後は、ダークパターン規制、アクセシビリティ規制、消費者保護法制が相互に連携しながら、「標準UIの信頼性保護」を目的とする新たな規制枠組みが形成される可能性が高い。さらにAIによる広告審査技術や自動検出技術の発展によって、フェイクボタンやシステム偽装UIの発見精度も向上すると予想される。
総じて言えば、閉じられない広告問題は単なる迷惑広告の問題ではない。それは利用者の選択の自由、情報環境への信頼、そしてデジタル社会における基本的な操作体系の維持に関わる問題である。今後の規制議論は「広告をどう規制するか」という段階から、「利用者が安心して操作できるUI環境をどう守るか」という段階へ移行していくと考えられる。閉じられない広告との闘いは、消費者保護の問題であると同時に、インターネットの公共性と信頼性を守るための取り組みでもあると言える。
