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メキシコ国境の町ティフアナのイラン系住民、W杯で特別な一体感

国境の街ティフアナで暮らす小さなイラン人コミュニティは政治的立場や歴史認識の違いを超え、サッカーという共通言語の下で束の間の連帯を見せている。
メキシコ、バハカリフォルニア州ティファナ(Getty Images)

メキシコ北部バハ・カリフォルニア州ティフアナで数十人ほどしかいないイラン系住民たちがサッカーを通じて特別な一体感を見せている。政治や宗教、祖国イランの将来像をめぐって激しく意見が対立する彼らだが、2026FIFAワールドカップに出場するイラン代表を応援するという点だけは共通している。

ティフアナは米カリフォルニア州との国境に位置する都市である。近年は中東やアジアからの移民も流入しているが、イラン系住民の数は極めて少ない。それでも彼らは互いの存在を認識し合い、小規模ながら独自のコミュニティを形成している。

その中心人物の一人が、市郊外でペルシャ料理店を営むサイード・アサディ(Saied ​Assadi)さんだ。店内には1979年のイスラム革命以前に使用されていた旧イラン国旗が掲げられている。この旗は革命で失脚した王朝を象徴するものとして知られ、現在のイラン政府を支持する人々からは反発を招くことも少なくない。

実際、ティフアナのイラン系住民の間でも祖国の政治体制をめぐる意見の隔たりは大きい。現政権に批判的な人もいれば、複雑な事情から政治的立場を明確にしない人もいる。革命前の体制を懐かしむ声もあれば、そうした考え方に強い違和感を示す人もいる。移住の経緯や世代、宗教観の違いが重なり、同じイラン人同士でも見解は容易に一致しない。

しかし、ワールドカップが始まると状況は変わる。彼らは政治的主張をいったん脇に置き、祖国代表への声援という共通の目的の下で集まる。アサディさんロイター通信の取材に対し、「どのような政治的立場であっても、代表チームは応援するべきだ」と語り、サッカーが人々を結び付ける力を強調する。

今回の大会でイラン代表は当初、米アリゾナ州に拠点を置く予定だった。しかし、米国とイランを取り巻く緊張関係やビザ(査証)発給問題などを背景に、最終的にティフアナへ拠点を移した。チームは市内の施設で調整を続け、ロサンゼルスやシアトルで行われる試合に備えている。関係者の一部には米国ビザが発給されず、政治情勢が大会運営にも影響を及ぼしている。

それでもティフアナの住民たちは温かく代表チームを迎え入れた。公開練習には多くのファンが集まり、選手たちもサインや写真撮影に応じた。イラン系住民だけでなく、地元メキシコ人も歓迎ムードを盛り上げ、異文化交流の場ともなっている。

イラン代表を取り巻く環境は決して平穏ではない。中東情勢の不安定化や外交問題が常に影を落とし、海外在住のイラン人社会もまた政治的分断を抱えている。それでも、国際舞台で戦う代表チームの存在は、多くの人々にとって祖国とのつながりを再確認する機会となっている。

国境の街ティフアナで暮らす小さなイラン人コミュニティは政治的立場や歴史認識の違いを超え、サッカーという共通言語の下で束の間の連帯を見せている。祖国をめぐる議論では一致できなくとも、代表を応援する瞬間だけは、彼らは同じ方向を向いているのである。

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