メキシコ・ゲレロ州カルテル抗争、各地で避難相次ぐ、ドローン空爆も
メキシコでは失踪者が13万人を超え、各地でカルテルによる支配が広がっている。
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メキシコ南部ゲレロ州で麻薬カルテルによる激しい武力衝突が住民を追い詰め、大規模な国内避難民を生み出している。AP通信によると、爆発物を搭載したドローンや高火力の銃器を使った攻撃が相次ぎ、先住民コミュニティーを中心に数千人規模の住民が故郷を離れざるを得なくなった。しかし、政府の統計は実態を十分に反映しておらず、専門家は「見えない避難民危機」が進行していると警鐘を鳴らしている。
APによると、ゲレロ州チルパンシンゴ市近郊の集落では74歳の女性マリア・カブレラ(Maria Cabrera)さんが、自宅を襲った空爆のような攻撃から逃れるため、夜の山中へ避難した。カルテルの戦闘員とみられる武装兵がドローンから爆発物を投下し、銃弾が家屋を貫通する中、住民たちは着の身着のままで逃走したという。後日戻ると自宅は焼け落ち、冷蔵庫や家具は溶け、生活の痕跡はほとんど残っていなかった。
攻撃を仕掛けたのはゲレロ州で勢力を拡大している麻薬カルテル「ロス・アルディジョス(Los Ardillos)」とみられる。同州では長年、複数のカルテルが麻薬密輸ルートや山岳地帯の支配権を巡って争ってきた。近年は組織の武装化が急速に進み、軍用並みの銃器に加え、ドローンを改造した簡易爆撃まで行われるようになった。こうした戦術は中東やウクライナ戦争で使われた手法にも似ており、メキシコ国内でも「戦場化」が進んでいるとの指摘がある。
今回の衝突では、800〜1000世帯が避難を余儀なくされたと地元の人権団体は説明している。被害地域には先住民コミュニティーが多く、住民の多くは農業で生計を立てていた。しかし、カルテルは住民にアヘン用ケシ栽培への協力を迫り、従わない村には襲撃を繰り返してきたとされる。住民側は自警団を組織して抵抗してきたが、ドローン攻撃の前では十分な防衛手段を持たない。
避難した住民たちは教会や運動場、山中の仮設施設などで生活している。中には首都メキシコシティや他州へ移住する家族もいるが、多くは財産や仕事を失い、将来の見通しを持てないままだ。子どもの通学も途絶え、高齢者や女性への支援も十分ではない。だが中央政府は公式には限定的な避難しか認めておらず、政府の発表と人権団体の数字には大きな隔たりがある。
専門家によると、メキシコには国内避難民を包括的に把握する制度が存在しない。このためカルテル暴力によって住居を追われても、公的支援を受けられない。2025年の調査では、暴力から逃れるため約25万世帯が国内避難を余儀なくされたと推計されている。実際にはさらに多い可能性もある。
背景には麻薬戦争の長期化がある。政府はこれまで「キングピン(要となる大物)戦略」と呼ばれるカルテル幹部摘発を進めてきたが、そのたびに組織分裂や報復抗争が起き、暴力が地方へ拡散してきた。研究者の中には、軍事作戦中心の対策だけでは問題は解決せず、貧困や若者の失業といった構造問題への対処が不可欠だと指摘する声も強い。
シェインバウム政権は軍や国家警備隊約1200人をゲレロ州に派遣し、安全回廊の設置を進めている。しかし、住民の間では「軍がいても襲撃は止まらない」という不信感が根強い。地元団体は一部の当局者とカルテルの癒着も疑っている。
メキシコでは失踪者が13万人を超え、各地でカルテルによる支配が広がっている。ゲレロ州で起きている避難民危機は、その暴力が単なる治安問題ではなく、人々の暮らしと共同体そのものを崩壊させる人道危機へ発展していることを示している。空から爆弾が降り注ぐ村々は、もはや観光地として知られたメキシコのイメージとはかけ離れた現実を映し出している。
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