◎エチオピア政府はティグライ地域の医療サービスは復旧したと主張している。
2021年3月/エチオピア、ティグライ地域、昨年の紛争で破壊された医療機関(国境なき医師団)

国境なき医師団(MSF)の報告によると、エチオピアのティグライ地域の病院を含む医療機関は、昨年11月に発生した紛争とその後の混乱で大半が破壊されたという。

MSFは声明の中で、ティグライ地域の医療機関は意図的に破壊され、大半が機能していないと述べ、「この状況を放置すれば、壊滅的な人道的危機を引き起こす」と警告した。

一方、エチオピア政府はティグライ地域の医療サービスは復旧したと主張している

昨年11月から約1カ月間続いた紛争は、ティグライ地域を支配していたティグレ人民解放戦線(TPLF)が政府の軍事基地を占領した日から始まった。

アビィ・アハメド首相は11月末に勝利を宣言したが、TPLFのリーダーは活動を続けており、各地で小規模な衝突が続いていると伝えられている。

国連の人道問題調整事務所 (OCHA)は先週、ティグライ地域の状況は改善しておらず、国内外避難民は紛争の影響で増え続けていると述べた。

現地で支援活動を行っている団体などによると、ティグライ地域の一部エリアにはアクセスできるようになったが、紛争や混乱の影響で近づけない地域にかなりの数の市民がとどまっており、支援物資を届けることは困難だという。政府はこれらの地域への立ち入りを禁止している。

一連の紛争で犠牲になった民間人の正確な数は不明。少なくとも数万人が隣国スーダンの難民キャンプに非難し、数十万人が国内避難民になった。

人権団体アムネスティ・インターナショナルは先月、都市アクスムに侵攻したエリトリア軍が数百人を処刑したと報告したが、エリトリア政府は関与を否定し、エチオピア政府もエリトリア軍の侵攻を事実無根と却下している。

エリトリアは世界で最も情報統制された国のひとつであり、30年近くエチオピアを支配したTPLFとは激しく対立していた。

2021年2月23日/エチオピア、ティグライ地域、シャイアエンバダンソ学校の仮設キャンプ(AP通信/国際救助委員会)

国境なき医師団(MSF)によると、昨年12月から3月上旬の間にティグライ地域の医療機関106カ所を調査した結果、稼働している施設は13%だけだったという。

MSFの調査チームは報告の中で、「施設の運用に必要なありとあらゆる医療機器が破壊されていました」と述べた。

「中心部セベヤの町の病院はロケット弾で破壊されました。そして、残念なことに、医療機関の破壊と略奪はまだ続いています」

ロンドンのエチオピア大使館はBBCニュースの取材に対し、「ティグライ地域の病院の75%は正常に稼働し、10%が部分的に稼働しています」と述べた。また当局者によると、地域の医療従事者の90%が医療サービスの提供を継続し、コロナワクチンの集団予防接種も始まっているという。

MSFはエチオピアとエリトリアの兵士がいくつかの病院を占拠したと報告しているが、両国は関与を否定している。

MSF緊急コーディネーターのケイト・ノーラン氏は報告の中で、「軍はティグライ中央部にある病院を軍事基地として使用し、負傷した兵士を治療していました」と述べている。

「(病院が)軍事基地として利用されていた時、市民は立ち入りを禁じられていました。設備が整っている病院は少なく、負傷した市民は町の保健センターに助けを求めましたが、輸血や銃創の治療を受けることはできませんでした」

MSFによると、ティグライ東部のムグラットにある医療機関はエリトリア軍に占拠されたままだという。しかし、エチオピア政府はエリトリア軍の関与を認めておらず、一連の略奪と破壊は全てTPLFが関わっていると主張している。

2021年3月/エチオピア、ティグライ地域、昨年の紛争で破壊された医療機関(国境なき医師団)

ティグライについて知っておくべきこと

・2021年2月26日、国際人権NGOアムネスティ・インターナショナルがレポートを公表。

・2021年2月19日、エリトリア政府、エチオピアのティグライ地域でエリトリア軍が市民数百人を虐殺したと報じたAP通信のレポートを却下。

・2021年2月1日、ティグレ人民解放戦線(TPLF)の元リーダー、デブレツィオン・ゲブレミチャエル氏は声明で、「政府軍はティグライの市民を虐殺した」と述べた。

・2021年1月、ティグライ緊急調整センター(ECC)、ティグライ地域で「数十万人が餓死する可能性がある」と警告。

・2020年12月23日、ベニシャングル・グムズ地域(民族境界線沿い)で虐殺事件が発生し、100人以上が死亡。

・2020年12月、エチオピア国防軍は、ティグレ人民解放戦線(TPLF)の指導者の所在に関する情報に約25万ドル(2,600万円)の懸賞金をかける。

・2020年12月11日、エチオピア政府、北部ティグライ地域の難民キャンプから逃れた「エリトリア難民数千人」を元の難民キャンプに戻すと発表。

・2020年12月8日、エチオピア政府、ティグライ地域の検問所を突破しようとした国連職員に発砲

・2020年12月、国連とエチオピア、ティグライ地域への援助を許可する協定に署名

・2020年12月1日、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)、難民の栄養失調と飢餓を警告。

・2020年11月29日、赤十字病院、医療用物資が「危険なほど不足」していると警告。

・2020年11月28日、アビィ・アハメド首相、州都メケレを「完全に支配した」と宣言。

・2020年11月25日、政府軍、州都メケレへの攻撃を開始

・2020年11月22日、国連、エチオピア政府軍によるティグライ地域への「最後通告」について、市民を巻き込む致命的な戦争犯罪につながると懸念を表明。

・2020年11月22日、アビィ・アハメド首相がティグレ人民解放戦線(TPLF)に降伏する機会を与える。

・2020年11月、国連のアントニオ・グテーレス事務総長、「即時の一時停戦」を求める。

・2020年11月、国連、「本格的な人道的危機」が発生していると警告。

・2020年11月14日、TPLFが、近隣地域の空港などをロケット弾で攻撃

・2020年11月13日、国連はマイカドラの町で発生したと伝えられている大量殺戮について、事実であれば「戦争犯罪」の可能性もあると述べた。

・2020年11月、ティグライ地域、南西エリアに位置するマイカドラの町で、数百人が刺されるなどして死亡した。

・2020年11月4日、TPLFが政府軍の軍事キャンプを攻撃。TPLFは関与を否定している。

・2020年9月、アハメド政権はコロナウイルスへの対応として国内での選挙活動を禁じ、TPLFはこれに猛反発した。TPLFはこの制限を、「中央政権の独裁体制を強化する違法行為」と見なしている。

・国内最大の民族グループはオロモ民族。TPLFはこれに属する。

・オロモ民族グループとソマリア民族グループの衝突が長年続いてる。

・1970年代~1980年代、政府の崩壊、干ばつ、飢饉で100万人以上が死亡、約800万人が影響を受けたと伝えられている。指導者はマルクス主義の独裁者、メンギスツ・ハイレ・マリアム。

・1989年、TPLFは他の反政府組織と合併、エチオピア人民革命民主戦線(EPRDF)を結成。

・1991年、EPRDFの軍事攻勢により、メンギスツ・ハイレ・マリアム政権崩壊

・1991年7月、EPRDF、オロモ解放戦線(OLF)などが87名の国民議会を形成。エチオピア暫定政府(TGE)を設立。

・2018年4月2日、アビィ・アハメドが首相に就任。

・2018年7月、エチオピアとエリトリア国の首脳が20年ぶりに会談、和平協定に署名

・2018年10月25日、サーレ・ワーク・ゼウデが大統領に就任。エチオピア初の女性大統領。

・2018年の避難民数は推定140万人。

・2019年、アハメド首相がノーベル平和賞を受賞。

・政府とTPLFの緊張関係は年々悪化している。

・TPLFはエリトリア国との和平を認めていない。

オロモ民族グループによる虐殺(数十人規模)が横行。オロモに属するアハメド首相はこれを非難している。

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