◎国際人権NGOアムネスティ・インターナショナルはレポートの中で、「エリトリアの兵士は路上でティグライの民間人を撃ち、組織的に家宅捜索を行い、男性と少年を処刑し、女性をレイプした」と述べた。
Getty Images/エチオピア、アクムス

国際人権NGOアムネスティ・インターナショナルのレポートによると、昨年11月下旬にエチオピアのティグライ地域の北部に位置するアクスム市で数百人が組織的に虐殺されたという。

AP通信も同様のレポートを先日発表しており、エリトリア軍が大量虐殺に関与したと報じた。

エチオピア軍とティグレ人民解放戦線(TPLF)による紛争終結後に設立されたエチオピア人権委員会はアムネスティの調査結果について、「真剣に受け止めるべき」と述べた。委員会も予備調査の結果を公表しており、アクスム市でエリトリアの兵士が民間人を大量に殺害した可能性が高いと報告している。

アムネスティはレポートの中で、「エリトリアの兵士は路上でティグライの民間人を撃ち、組織的に家宅捜索を行い、男性と少年を処刑し、女性をレイプした」と述べた。報告によると、棒などで武装したティグライの住民がエリトリア兵に攻撃を仕掛けたため、虐殺に発展したという。

エリトリアは世界で最も情報統制された国のひとつであり、30年近くエチオピアを支配したTPLFと激しく対立していた。エリトリア政府は先日公表されたAP通信のレポートを「法外な嘘」と嘲笑し、却下している。

しかし、エチオピア政府にティグライ地域の管理を任された暫定地方政府の高官たちも、エリトリア軍の兵士が昨年の紛争中にティグライ地域に侵攻し、略奪と虐殺を行ったと認めている。

エチオピア政府は2月25日の声明で、「エチオピア人権委員会と独立した専門家のチームがアクスム市の事件に関する申し立てを調査している」と述べた。

エチオピアとエリトリアの歴史的な和平協定を実現したアビィ・アハメド首相が就任する前にエチオピアを30年近くに渡って支配してきたTPLFは、昨年のティグライ紛争で数百から数千人の民間人を殺害したと伝えられているが、独立した調査は行われておらず、戦地の状況もほとんど明らかになっていない。

支援団体の当局者はAP通信の取材に対し、「ティグライへのアクセスは少しずつ改善されているが、制限されたままの地域も多く、元々支援を必要としていた人々に食糧を届けることができないため、恐ろしい数の市民が餓死しているかもしれない」と述べた。

2021年2月 AFP通信/エチオピア、ティグライ地域

アメリカは昨年、ティグライ地域でエリトリア軍が活動していると繰り返し警告し、速やかに撤退するよう呼びかけていた。

アクスム市の虐殺を目撃した住民はアムネスティに、「エチオピア軍とエリトリア軍は共同でティグライ地域を支配し、エリトリアの兵士はアクスム市で虐殺に移行した」と述べた。

目撃者によると、11月28日と29日に現地でおびただしい数の遺体を確認したという。

ある女性はアムネスティに、「エリトリアの兵士は死者の移送と埋葬を許可しませんでした」と語った。女性によると、病院は破壊され、医療従事者もほとんど逃亡していたため、重傷者は適切な治療を受けることができず、多くが死亡したという。

アムネスティは遺体を集めて葬式を行うだけで数日かかったと報告している。目撃者の証言によると、11月28日と29日に虐殺された人々の遺体は30日までにほとんど埋葬できたが、数日後に新たな遺体を発見したという。

別の目撃者はアムネスティに、「馬車に遺体を積み上げ、教会に移動しました」と述べた。また、エリトリアの兵士がいつ襲ってくるか分からず、埋葬中も気が抜けなかったという。

AP通信はアクスム市の聖マリア教会の神父のコメントをレポートに掲載している。神父は遺体を数え、犠牲者の身分証明書を確認し、埋葬を手伝ったと述べた。

神父はAP通信の取材に対し、「エリトリア軍が虐殺したティグライの市民の数は800人以上にのぼると信じています。遺体は1日から2日放置された影響で一部が腐り、遺族や関係者はさらに傷つきました」と述べた。

エチオピア、ティグライ地域

ティグライについて知っておくべきこと

・2021年2月19日、エリトリア政府、エチオピアのティグライ地域でエリトリア軍が市民数百人を虐殺したと報じたAP通信のレポートを却下。

・2021年2月1日、ティグレ人民解放戦線(TPLF)の元リーダー、デブレツィオン・ゲブレミチャエル氏は声明で、「政府軍はティグライの市民を虐殺した」と述べた。

・2021年1月、ティグライ緊急調整センター(ECC)、ティグライ地域で「数十万人が餓死する可能性がある」と警告。

・2020年12月23日、ベニシャングル・グムズ地域(民族境界線沿い)で虐殺事件が発生し、100人以上が死亡。

・2020年12月、エチオピア国防軍は、ティグレ人民解放戦線(TPLF)の指導者の所在に関する情報に約25万ドル(2,600万円)の懸賞金をかける。

・2020年12月11日、エチオピア政府、北部ティグライ地域の難民キャンプから逃れた「エリトリア難民数千人」を元の難民キャンプに戻すと発表。

・2020年12月8日、エチオピア政府、ティグライ地域の検問所を突破しようとした国連職員に発砲

・2020年12月、国連とエチオピア、ティグライ地域への援助を許可する協定に署名

・2020年12月1日、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)、難民の栄養失調と飢餓を警告。

・2020年11月29日、赤十字病院、医療用物資が「危険なほど不足」していると警告。

・2020年11月28日、アビィ・アハメド首相、州都メケレを「完全に支配した」と宣言。

・2020年11月25日、政府軍、州都メケレへの攻撃を開始

・2020年11月22日、国連、エチオピア政府軍によるティグライ地域への「最後通告」について、市民を巻き込む致命的な戦争犯罪につながると懸念を表明。

・2020年11月22日、アビィ・アハメド首相がティグレ人民解放戦線(TPLF)に降伏する機会を与える。

・2020年11月、国連のアントニオ・グテーレス事務総長、「即時の一時停戦」を求める。

・2020年11月、国連、「本格的な人道的危機」が発生していると警告。

・2020年11月14日、TPLFが、近隣地域の空港などをロケット弾で攻撃

・2020年11月13日、国連はマイカドラの町で発生したと伝えられている大量殺戮について、事実であれば「戦争犯罪」の可能性もあると述べた。

・2020年11月、ティグライ地域、南西エリアに位置するマイカドラの町で、数百人が刺されるなどして死亡した。

・2020年11月4日、TPLFが政府軍の軍事キャンプを攻撃。TPLFは関与を否定している。

・2020年9月、アハメド政権はコロナウイルスへの対応として国内での選挙活動を禁じ、TPLFはこれに猛反発した。TPLFはこの制限を、「中央政権の独裁体制を強化する違法行為」と見なしている。

・国内最大の民族グループはオロモ民族。TPLFはこれに属する。

・オロモ民族グループとソマリア民族グループの衝突が長年続いてる。

・1970年代~1980年代、政府の崩壊、干ばつ、飢饉で100万人以上が死亡、約800万人が影響を受けたと伝えられている。指導者はマルクス主義の独裁者、メンギスツ・ハイレ・マリアム。

・1989年、TPLFは他の反政府組織と合併、エチオピア人民革命民主戦線(EPRDF)を結成。

・1991年、EPRDFの軍事攻勢により、メンギスツ・ハイレ・マリアム政権崩壊

・1991年7月、EPRDF、オロモ解放戦線(OLF)などが87名の国民議会を形成。エチオピア暫定政府(TGE)を設立。

・2018年4月2日、アビィ・アハメドが首相に就任。

・2018年7月、エチオピアとエリトリア国の首脳が20年ぶりに会談、和平協定に署名

・2018年10月25日、サーレ・ワーク・ゼウデが大統領に就任。エチオピア初の女性大統領。

・2018年の避難民数は推定140万人。

・2019年、アハメド首相がノーベル平和賞を受賞。

・政府とTPLFの緊張関係は年々悪化している。

・TPLFはエリトリア国との和平を認めていない。

オロモ民族グループによる虐殺(数十人規模)が横行。オロモに属するアハメド首相はこれを非難している。

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