カナダ軍への入隊希望者急増、知っておくべきこと
カナダ軍は近年、深刻な人員不足に苦しんできた。
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カナダで軍への入隊を希望する人が急増している。国防省によると、2025年度に正規軍へ入隊した人数は7310人に達し、過去30年間で最多を記録した。応募者数も約4万4800人と前年度から大幅に増加しており、長年続いてきた人員不足に改善の兆しが見え始めている。
背景には、世界情勢の悪化と安全保障への不安の高まりがある。ロシアによるウクライナ侵攻や中東情勢の緊迫化、中国の軍事的台頭などを受け、カナダ国内でも「国家主権や安全を守る必要性」が強く意識されるようになった。特にトランプ(Donald Trump)米大統領がカナダを「米国の51番目の州」と繰り返し発言したことは、国内で強い反発を招き、愛国意識や防衛意識を刺激したとの見方も出ている。
カナダ軍は近年、深刻な人員不足に苦しんできた。2024年には当時のブレア(Bill Blair)国防相が、軍の状況を「死のスパイラル」と表現し、志願者不足と退役者増加によって部隊維持が困難になっていると警告していた。実際、正規軍は依然として定員を約3600人下回っており、特に技術職や海軍関連職種では不足が続いている。
こうした状況を受け、政府と軍は採用制度の大幅な見直しを進めてきた。給与引き上げや医療審査基準の緩和に加え、オンライン申請システムの刷新やデジタル採用システムの導入を進め、応募から入隊までの手続きを簡素化した。また、永住権保持者の受け入れも拡大し、2025年度には1400人の永住者が入隊した。これは制度開始以来で最多となる。
さらに、軍に対する社会的イメージの変化も大きい。カナダ軍は従来、国連平和維持活動(PKO)を中心とする「平和維持国家」の象徴として認識されてきた。しかし近年は、北極圏防衛やNATO任務への関与拡大、大規模災害への出動など、より実戦的で多様な役割が求められている。若者の間では「国に貢献したい」「安定した職と教育機会を得たい」という理由で入隊を希望するケースが増えているという。
一方で、課題も残る。当局によると、2022年から2025年にかけて応募した人のうち、実際に基礎訓練へ進んだのは13人に1人程度にとどまった。多くの応募者が途中で離脱しているが、軍側はその理由を十分把握できていないと指摘されている。応募手続きの長さや審査の複雑さ、訓練環境への不安などが背景にあるとみられる。
また、女性や先住民、少数民族の採用拡大も依然として課題だ。2025年度の女性比率は17%で過去10年では最高だったが、軍が掲げる多様化目標には届いていない。軍内部でのハラスメント問題も過去に批判を受けており、組織改革の継続が求められている。
それでも、30年ぶりの採用増加はカナダ軍にとって重要な転換点となっている。政府は2026年度の採用目標を8200人へ引き上げ、防衛費増と合わせて軍再建を本格化させる方針だ。国際情勢が不安定化する中、カナダ社会における軍の存在感はこれまで以上に高まりつつある。
