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ハンタウイルス、クルーズ船「MVホンディウス号」の避難始まる

船は先週、西アフリカ沖のカーボベルデに寄港したが、大規模な隔離体制を整えることができず、紆余曲折の末、スペインが受け入れを決定した。
2026年5月10日/スペイン領カナリア諸島、テネリフェ島の港、MVホンディウス号の乗客と当局者(AP通信)

南大西洋を航行していたクルーズ船「MVホンディウス号」で発生したハンタウイルス感染拡大を受け、アフリカ北西部・スペイン領カナリア諸島テネリフェ島沖で乗客らの避難作業が始まった。スペイン当局と世界保健機関(WHO)は厳重な隔離措置の下で各国への帰還を進めているが、船内ではすでに複数の死者が確認されており、国際的な警戒が続いている。

オランダ船籍のMVホンディウスには乗客乗員合わせて140人以上が乗船していた。船は南極クルーズを終えてアルゼンチンを出港した後、航海中にハンタウイルス感染が確認された。これまでにオランダ人夫婦とドイツ人乗客の計3人が死亡し、少なくとも6人の感染が確認されている。感染源は「アンデスウイルス」とみられており、この型は極めてまれながらヒトからヒトへの感染例が報告されている。

船は先週、西アフリカ沖のカーボベルデに寄港したが、大規模な隔離体制を整えることができず、紆余曲折の末、スペインが受け入れを決定した。テネリフェ島では港湾区域を封鎖したうえで専用の隔離スペースが設置され、防護服を着た医療関係者や警備隊が待機した。乗客は小型船で少人数ずつ岸へ運ばれ、その後バスで隔離施設や空港に移送された。

最初に下船したスペイン人乗客らは首都マドリードの軍病院へ空輸され、経過観察下に置かれた。フランスやイギリス、米国、オランダなども専用機を派遣し、自国民を本国へ搬送している。WHOは10日、イギリスやアイルランド、トルコ向けの便も順次到着すると明らかにした。現時点で、船内に残る乗客乗員に新たな症状は確認されていないという。

一方で、テネリフェ島住民の間では不安も広がった。コロナウイルス流行時の記憶が残る中、大規模な隔離輸送が行われることへの懸念が高まり、これに対しWHOのテドロス(Tedros Adhanom Ghebreyesus)事務局長は「これは新たなコロナではない」と異例の声明を出して住民に冷静な対応を呼びかけた。WHOはハンタウイルスについて、主にネズミなどげっ歯類を介して感染し、ヒトからヒトへの感染は限定的だとして、一般市民へのリスクは低いとの認識を示している。

欧州疾病予防管理センター(ECDC)は予防的措置として、船内にいた全員を「高リスク接触者」と位置づけている。各国政府は帰国後も数週間にわたり健康観察や隔離を継続する方針で、フランスでは乗客を病院で72時間監視した後、自宅隔離に移行させる計画が示された。米国は乗客をネブラスカ州の専用隔離施設へ移送する予定だ。

なお、一部の乗員と死亡した乗客の遺体は船内に残り、MVホンディウスは今後オランダ・ロッテルダムへ向かい、船内消毒や調査を受ける予定となっている。今回の事態は国境を越えた感染症対応の難しさと、クルーズ船における集団感染対策の課題を浮き彫りにした。

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