肥満症治療薬の利用者、サプリメントに殺到、米国で市場拡大、成分の安全性と規制の不備に懸念
肥満症治療薬の普及が新たな消費市場を生み出す中、消費者の選択肢を確保しつつ、製品の安全性と広告の信頼性をどう担保するかが課題となっている。
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米国で、肥満症や2型糖尿病の治療に使われるGLP-1受容体作動薬の利用者が、吐き気や倦怠感、便秘などの副作用を軽減しようと、ビタミンや食物繊維、コラーゲンなどの栄養補助食品(サプリメント)を購入する動きが広がっている。
SNSを通じた商品紹介が需要を押し上げる一方、製品の成分や有効性、安全性を十分に確認できないとして、医師や規制当局が警戒を強めている。
米国では、ノボノルディスクの「オゼンピック」や「ウゴービ」など、GLP-1関連薬の普及が進む。金融大手JPモルガンの調査によると、米国での利用者は2025年に約1000万人に達し、2030年には2500万人に増える可能性がある。これらの薬は体重減少に加え、2型糖尿病の治療や心血管疾患リスクの低減にも効果が期待されているが、消化器系の不調や疲労感などに悩む利用者もいる。
フロリダ州在住の救急看護師アリソン・ベッキオ(Allison Vecchio、42歳)さんは、治療薬の使用後に消化器系の不調や爪がもろくなる症状、強い脱力感を経験した。食物繊維、コラーゲン、電解質を含むサプリメントを組み合わせて摂取するようになり、症状が和らいだと話す。月々の費用は200~300ドルに上る。ベッキオさんはTikTokで約2万5000人のフォロワーを持ち、複数のブランドと契約して商品を紹介している。
サプリメント市場は急拡大している。米業界誌「ニュートリション・ビジネス・ジャーナル」によると、米国のビタミン・サプリメント市場は2025年に740億ドルを超えた。TikTok Shopでのサプリメント販売額も同年に10億ドルを上回った。GLP-1薬の利用者を対象とした調査では、約半数が薬の使用開始後に新たなサプリメントを購入しており、プロバイオティクス、タンパク質、食物繊維などが人気を集めている。
小売業者も需要の取り込みを進める。米小売大手ターゲットはサプリメントの品ぞろえを拡充し、専門店ビタミン・ショップでは、GLP-1利用者にも需要がある食物繊維やクレアチンの売り上げが今年、2桁成長を記録したという。製薬・食品関連企業にとっても、治療薬の普及は新たな市場機会となっている。
しかし、米国ではサプリメントの販売前に、食品医薬品局(FDA)の承認を受ける必要がない。製品によっては成分の含有量や品質にばらつきがあり、宣伝される効果を裏付ける科学的根拠が不十分な場合もある。医療研究者らは、SNS上で影響力を持つインフルエンサーによる販売促進について、誇大な効能表示を防ぐ仕組みが必要だと指摘する。スタンフォード大学のジョナサン・ボネット(Jonathan Bonnet)准教授は、実際に何を摂取しているか分からなければ、健康上のリスクも判断しにくいと警告した。
こうした状況を受け、ケネディ・ジュニア(Robert F. Kennedy Jr.)保健福祉長官は規制強化を提唱している。FDAは新規の食品成分に対する監視を強めており、企業が成分を「一般に安全と認められる」と自己判断することで審査を回避できる仕組みの見直しも検討している。
業界内では規制強化への賛否が分かれる。不適切な成分配合や有効成分の含有量不足を防ぐため、発売前の審査を支持する企業がある一方、業界団体は審査の遅延やFDAの人員不足によって新製品の開発が停滞する恐れがあると主張する。
肥満症治療薬の普及が新たな消費市場を生み出す中、消費者の選択肢を確保しつつ、製品の安全性と広告の信頼性をどう担保するかが課題となっている。
