抗議活動はアメリカ全土に拡大。トランプ大統領は事態の沈静化を図るべく、軍の投入を発表した

ミネアポリスの警察官に殺害されたジョージ・フロイド氏を巡る事件は、アメリカ全土に抗議活動(暴動)となって飛び火し、収拾のつかない事態に発展した。

これを受けトランプ大統領は、州政府が抗議活動の管理に失敗し、住民を守ることができなかった時点で軍隊を配備(派遣)すると発表。問題を迅速に解決すると述べた。

フロイド氏殺害を巡る本案件は日に日に激しさを増し、アメリカ中の都市が怒号と炎に包まれている。ホワイトハウス周辺でも抗議活動が行われており、大統領が記者会見を行う際には、抗議者たちの集まったエリアに催涙ガス弾とゴム弾が打ち込まれ、人々は強制排除された。

現在数十の都市で夜間外出禁止令が発令中。ニューヨーク市は2日まで完全に閉鎖され、ワシントンD.C.でも禁止令の期間延長が決定した。

しかし、抗議活動は一向に収まる気配を見せていない。フロイド氏を殺害した「デレク・ショービン容疑者」は第三級殺人罪で起訴され、来週法廷に出廷する予定である。なお、殺人現場に立ち会ったとされる警察官三名は解雇されたが、起訴されるか否かは不明。

トランプ大統領はフロイド氏の死について、「アメリカ国民はフロイド氏の残酷な死に怒り、抗議活動を行った。それは当然の権利である。しかし、暴力と略奪行為に溺れたことで、それは無意味なものになった。私は何千人もの重武装した兵士、軍人および法執行官を派遣し、暴動、略奪、破壊行為、暴力を阻止するだろう」と述べた。

抗議活動に乗じた暴力、破壊、略奪行為は同国および国民に対する「テロ行為」である。平和的に抗議活動を行っている者たちを横目に、一部の犯罪者たちが罪のない商店を襲い、物を奪い、火を放っている。

アメリカ炎上/ジョージ・フロイドの死とそれに乗じたテロ行為
ジョージ・フロイドの死/爆発する警察車両と怒れる抗議者たち
トランプ大統領vsバイデン前副大統領/罵り合いの夜明け

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責任の所在

まず、以下の3例を見ていただきたい。

A市役所の市民課で100万人分の個人情報(住所、氏名、電話番号など)流出事案が発生。個人情報を誤って流出させた担当者Bは即日解雇された。本案件を受け市長ならびに解雇された担当者Bの上司は「大変遺憾である」とコメントした。なお、A市役所では昨年および一昨年にも大規模な個人情報が流出事案が発生。それらの事案も担当者によるミスが原因だった。

例1

国営のC電力会社管内で発生した大規模停電(約500万軒)は、担当者の操作ミスにより発生したことが判明した。同社は担当者Dを懲戒解雇とし、起訴する方針を固めた。同社の社長ならびに解雇された担当者Dの上司は「責任は全て担当者Dにある」とコメントした。なお、同社では、昨年および一昨年にも大規模な停電事故が発生。それらの事案も担当者による操作ミスが原因だった。

例2

E警察の警部補が勤務中の痴漢行為により逮捕された。これを受けF警察署長は、「大変遺憾であり、全責任は上司の私にある」とコメント。事件を受け、行政長官は署長ならび副署長ら幹部に対し、3ヶ月間賃金月額50%カットの減給処分と、再発防止対策の策定を指示した。

例3

3例に共通していることは、ミスを犯した担当者が”公僕”であるということ。フロイド氏の殺人容疑で起訴されたショービン容疑者と同じである。

例1は、担当者Bが100万件の個人情報を誤って流出させた事案。Bは即日解雇され、市長ならびにBの上司がコメントを発表、事態の沈静化を図ったという流れである。

例2も同様。しかし、担当者Dのミスに対し社長と上司は「全責任はDにある」とコメント、自分たちには責任がないことを強調している(ように聞こえる)。

例3は、職務中の警部補が犯した罪に対し、当日の業務を指示、許可した署長がその責任を認めている。そして警察機構のトップが署長他幹部に対し処分を行ったうえで、再発防止対策の策定を指示した。

職務中の公僕、すなわち公務員が致命的なミスを犯し、それが原因で第三者に被害を与えたとしたら、誰かが責任を取らなければならない。なお、この時担当者が混乱を招く目的で意図的にミスしたと認めれば、恐らく逮捕されるだろう。

例1と例2を見て、「担当者は解雇されたんですね。良かった良かった」と満足する方は恐らくいないはずだ。原因は間違いなく担当者にある。しかし、担当者に業務を指示したのはあくまで上司(責任者)。しかも、責任者たちは”自分たちに過失があるとは思ってもいない”ようなコメントを発信している。

フロイド氏を殺害したショービン容疑者は公務員である。彼にパトロールを指示した上司。上司を監督する署長は、同容疑者が今回のような事件を起こすとは夢にも思っていなかったはずだ(恐らく)。しかし、事件は発生した。彼らにも監督責任があると考えるのは当然だろう。

アメリカ国民は、警察官による黒人への非人道的な行為を「何十年も前から放置」し、再発防止対策も考えず、実行犯にだけ責任を負わせる連邦政府、州、警察署の姿勢に怒っている

同国の警察機構を統括するのは連邦捜査局局長、その上に立つのはトランプ大統領である。全国に広がった抗議活動を沈静化させるためには、責任の所在を明確にし、ミネアポリス警察の幹部たちに処分を下す。そのうえで黒人に対する差別的行為を防止する”何か”を考えなければならない。

それでも国民の怒りは恐らく収まらないだろう。ここから先は警察機構の手に余る問題なので、最高責任者が「彼らのケツを拭く」しかない。まずは、”抗議者たちの気持ちを逆なでしない”メッセージを発信すべきだろう。

同国で発生した今回の悲惨な事件は、責任の所在が全くもって不明確である。もしかすると、ミネアポリス警察は上司や長に対して処分を行っているのかもしれない。しかし、少なくとも抗議者たちの耳には届いておらず、報道もされていない。

今、誰かがケツを拭いた(責任を取った)としても、事態が沈静化するとは到底思えない。黒人に対する非人道的な扱いを何十年にも渡って放置した結果、抗議者たちの怒りは大爆発したのだから、その怒りはマラリア海溝並みに深い。

次の山場はショービン容疑者の出廷。そして、現場で容疑者の暴挙を止めなかった警察官三人(解雇済み)の処遇にかかっている。三人が逮捕された場合、抗議活動は下火になるかもしれない。しかし、動きがなければさらに酷い事態を招く可能性もあるだろう。

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