夜間外出禁止令

ブレオナ・テイラー氏射殺事件に関する州当局の決定後、ケンタッキー州ルイビルの混乱は加速し、少なくとも28人が一夜で逮捕された

白人警察官に射殺された黒人女性のテイラー氏をめぐる事件は、大陪審が殺人罪による起訴を拒否したことでBlack Lives Matter(ブラック・ライブズ・マター)抗議者たちの怒りが爆発、ケンタッキー州最大の都市は異常事態に陥った。

当局によると、夜間外出禁止令発令後の取り締まり強化に伴い、指示に従わない一部の抗議者を逮捕したという。

ルイビルメトロ警察(LMPD)の当局者は、夜間外出禁止令が始まる直前、抗議者たちにダウンタウンエリアのジェファーソンスクエアパークから立ち去るようスピーカーを使って命じたとツイッターに投稿した。

ルイビルメトロ警察の当局者:
「抗議者の一部が配備された警察官に攻撃を仕掛けてくる可能性があった」

「我々はシールドなどで武装し、夜間外出禁止令のルールに従い行動した。また、メディアの報道などをチェックし、抗議者による攻撃への懸念が高まったため、スピーカーを使って解散命令を出した」

9月26日 Getty Images/ケンタッキー州ルイビル、黒焦げになった車と消防士

LMPDの警告後、大半の抗議者はジェファーソンスクエアパーク周辺から退去した。

しかし、グループから離脱した者たちが公園から数ブロック離れた第1ユニテリアン教会近くに移動し、抗議活動を継続した。

LMPDによると、教会近くに集まった抗議者の一部は深夜直前に退去したものの、残った者たちが警察への攻撃を開始、車両や施設の破壊につながったという。

一連の攻撃で、私立のカトリック校であるスポルディング大学とプレンテーションアカデミーの窓や外壁が破壊された。

LMPDはヘリコプターから撮影された監視映像を公開、スポルディング大学構内の駐車車両に手作り焼夷弾で攻撃を仕掛けた2人の姿が写っていた。

9月26日 Getty Images/ケンタッキー州ルイビル、警察官が抗議者と思われる男性を拘束

FBIルイビル支局は、LMPDと協力し、焼夷弾による車両爆破の実行犯を特定したとツイート。翌日午前2時頃に、28人を逮捕したと再ツイ―トした。

FBIルイビル支局のツイート

9月23日夜、抗議活動中に2人のLMPD警察官を銃撃したラリンゾ・ジョンソン容疑者(26歳)が逮捕された。

銃で武装したガンマン抗議者は、警察官に対する2件の暴力行為、その他の危険行為14件で起訴されている。

3月のテイラー氏射殺事件以降、ルイビルでの抗議活動は120日を超えた。そして23日、ケンタッキー州のダニエル・キャメロン検事総長が「テイラー氏を射殺した警察官に殺人罪は適用されない」と発表。抗議活動にガソリンが投下され、大爆発した。

大陪審によって起訴されたのは、テイラー氏への銃撃に関与した警察官のひとり、ブレット・ハンキソンのみだった。

LMPDの方針に違反したとして6月に解雇されたハンキソンと他の警察官たちは事件当日、テイラー氏のアパートドアを吹き飛ばし、室内に突撃。テイラー氏を射殺した。

なお、ハンキソンは違法な銃撃により周辺住人3名を危険にさらした3件の罪で起訴された。

キャメロン検事総長は大陪審の発表後に行った記者会見で、ハンキソン、マイルズ・コスグローブ、ジョナサン・マッティグリーは、テイラー氏のアパートで計32発発砲したと述べた。

キャメロン検事総長は、テイラー氏のボーイフレンドであるケネス・ウォーカー氏が、突然現れた私服警察官3人に”防衛”射撃し、銃撃戦が始まったと主張した。

ダニエル・キャメロン検事総長の記者会見

キャメロン検事総長によると、パジャマを着た無防備状態のテイラー氏は、コスグローブとマッティグリーの発射した銃弾6発を浴び、その中の1発が致命傷になったという。

FBIによる弾道分析の結果、テイラー氏に致命傷を負わせた1発はコスグローブの40口径から放たれた銃弾だと判明した。

なおキャメロン検事総長は、ハンキソンが放った銃弾は1発もテイラー氏に当たっていないと強調した。

調査の結果、ウォーカー氏が突然ドアをぶち破って現れた私服警察官3人に”先制攻撃”を仕掛けたことで、ハンキソンたちは身を守るために反撃せざるを得なくなり、テイラー氏をハチの巣にしたコスグローブとマッティグリーの射撃は正当防衛と認められた。

ダニエル・キャメロン検事総長:
「正当防衛が成立した結果、殺人罪での起訴を断念した」

「ハンキソンたちはドアノック不要の突撃捜査令状を持っており、さらにドアを破壊する前、室内のテイラー氏とウォーカー氏に警察官であることを告げていた。この事実は、独立した証人から得たものである」

9月26日 ズマプレス/ケンタッキー州ルイビル、炎上する車両

9月25日、テイラー家と家族を代表するベン・クランプ弁護士は、キャメロン検事総長に対し、大陪審の記録を公開するよう求めた

これに対し検事総長の事務所は、テイラー氏射殺に関する証拠がほとんどなかった結果、銃弾を浴びせた現職警察官2名は起訴されなかったと主張した。

一方、クランプ弁護士はキャメロン検事総長が発表した「ドアノック前にハンキソンたちが警察官であることを告げた」という主張に異議をとなえた。

ベン・クランプ弁護士:
「ウォーカー氏はドアの向こうに警察官がいることを知らず、その瞬間まで何が起こったか全く理解できなかったと述べている」

「近くに住んでいた住人たちも、ハンキソンたちが警察官であることを宣言したとは認識しておらず、静寂状態から突然銃撃戦になったと説明した

テイラー家の記者会見

テイラー氏の母、タミカ・パーマー氏は、4月にルイビル市を訴え、今月始めに和解金1,200万ドルで和解に合意した。

クランプ弁護士によると、和解条件の中には「LMPDを改革する」という市との約束も含まれていたという。

FBIは、ドアノック不要の突撃捜査令状の取得経緯を現在も調査中である。

なお、クランプ弁護士は、「テイラー氏の元ボーイフレンドが麻薬密売に関わっているため、突撃調査を決行した」という当局の発表に異議を唱え、宣誓供述書が正しく運用されていないと主張した

キャメロン検事総長は、ワラントを調査しなかったと認めている。

一方、司法省はテイラー氏への銃撃が公民権侵害にあたるかどうかを調査している。また、事件発生につながった元ボーイフレンドの麻薬密売事件とテイラー氏を結び付けた警察関係者、計6人の判断が違法であった可能性も含め、内部調査を開始した。

テイラー家の記者会見に同席した活動家のタミカ・マロリー氏(ルイビルでの抗議活動を主導してきた)は、ケンタッキー州初の黒人検事総長に任命されたキャメロン氏に対し、「黒人コミュニティを裏切り、警察の違法捜査を擁護した」と非難した。

タミカ・マロリー氏:
「私たちは家に戻らない。ルイビルは白人至上主義という不快な空気に覆い尽くされている。そして、私たちはそれを支持するキャメロンの考えに同意しない」

「テイラー氏の射殺と捜査に関わった全ての警察官が解雇、起訴されるまで、私たちはルイビルの通りで抗議し続ける」

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