12月5日、アルメニアの首都エレバンに集まった数万人の抗議者は、ナゴルノ・カラバフ紛争の和平協定で領土を奪われたニコル・パシニャン首相の辞任を求めた。
11月10日にロシアが仲介した和平協定は約6週間にわたって繰り広げられた激しい戦闘を終結させ、アゼルバイジャンはアルメニアに占領されていた領土の一部を取り戻した。
アルメニアの野党は12月8日正午までにパシニャン首相が辞任しなければ、全国規模の抗議活動に発展するだろうと警告した。
これに対しパシニャン首相は辞任を拒否し、アゼルバイジャン軍によるナゴルノ・カラバフ全土の制圧を防ぐためには、和平協定を締結する以外に道はなかったと反論した。
首都エレバンの共和国広場周辺に集まった抗議者たちは、「ニコル、あなたは裏切り者だ!」と唱え、首相官邸に向けて行進した。
野党指導者のひとり、元国家保安局長のアートゥ・ベーネツィヤン氏は抗議者たちに、「首相の座に死体が座っている。パシニャンは今すぐ退くべきだ」と語った。
また、アルメニア使徒教会の司祭数人も抗議に加わり、聖地として崇められてきた土地と施設の一部を手放した首相に抗議した。
ナゴルノ・カラバフは公式にはアゼルバイジャンの領土と認められているが、1994年に終結した紛争以来、アルメニア民族軍の支配下に置かれていた。
12月1日、アゼルバイジャンは奪還した領土の開拓を完了したと発表、政府と市民は勝利を祝った。また、イルハム・アリエフ大統領はナゴルノ・カラバフの主要都市シュシャの奪還日(11月8日)を「勝利の日」と名付け、国民の祝日に設定した。
アルメニアの野党指導者はパシニャン首相に、より有益な条件で交渉しなかった責任を負うべきだと述べた。ただし、野党も和平協定を破棄するつもりはないと補足している。
17の野党グループが首相候補に任命したワズゲン・マヌキャン氏は5日の抗議集会で、「新政権は和平協定の見直しを求め、アゼルバイジャンと再交渉する」と述べた。
アゼルバイジャンの国防省は、3日に今回の紛争の最新情報を発表した。それによると、死亡した軍人は2,783人、行方不明者は100人以上。民間人の死亡者は94人、400人以上が負傷したという。
アルメニアの保健相も2日に最新情報を公開した。現時点で判明している軍人の死亡者は2,718人、民間人の死亡者は55人だった。
ナゴルノ・カラバフおよびその周辺に配備されたロシア軍は、少なくとも5年間、約2,000人体制で現地の治安維持にあたる。
和平協定(11月10日01:00発効)
・アゼルバイジャンは、紛争中に奪取したナゴルノ・カラバフの一部地域を保持。
・アルメニアはナゴルノ・カラバフのいくつかの地域から撤退する。
・ロシアの平和維持軍1,960人を最前線に配備し、違法行為を防ぐ。
・トルコの平和維持軍も監視プロセスに加わる。
・ナゴルノ・カラバフの「解放エリア」にロシアとトルコの統制センターを設置する。
ナゴルノ・カラバフについて知っておくべきこと
・2020年12月1日、アゼルバイジャン政府、アルメニア軍から取り戻したナゴルノ・カラバフの一部地域の開拓を完了したと宣言。
・2020年11月16日、トルコ議会、アゼルバイジャンとアルメニアの和平協定を監視する平和維持軍派遣を承認。
・2020年11月16日、アルメニアのゾラブ・ムナサカニャン外相、辞任。
・2020年11月11日、アルメニア市民がアゼルバイジャンとの和平協定に抗議。国会を占領し、首相の辞任を求めた。
・2020年11月9日、アルメニア、アゼルバイジャン、ロシアがナゴルノ・カラバフの紛争を終結させる和平協定に調印。
・2020年11月9日、アゼルバイジャンの領土であるナヒチェヴァン自治共和国付近を飛行していたロシアの軍用ヘリ「Miー24」がミサイル攻撃を受け墜落。アゼルバイジャンはロシアに対し、誤った撃墜したと謝罪した。
・2020年11月8日、アゼルバイジャン軍がナゴルノ・カラバフの戦略的に重要な町、シュシャをアルメニア軍から奪取。
・2020年11月、中東の過激派勢力2,000人が紛争に加わったと伝えられている。アルメニアはアゼルバイジャンの同盟国、トルコが関与したと非難。
・2020年10月28日、アゼルバイジャンのバルダ県への空爆(クラスター爆弾)で民間人21人が死亡。
・2020年10月25日、アメリカの仲介による停戦合意が破綻。戦闘再開。
・2020年10月25日、アメリカの仲介でアルメニアとアゼルバイジャンが停戦に合意。
・ロシアのプーチン大統領によると、9月末からの戦闘で少なくとも5,000人が死亡。.
・2020年10月17日。10月9日の停戦合意は破綻し、民間人13人が死亡、40人以上が負傷した。
・約4,400平方キロメートルの山岳地帯。
・キリスト教のアルメニア人とイスラム教徒のトルコ人が生活していた。
・ソビエト連邦時代、ナゴルノ・カラバフはアゼルバイジャンの自治区に加えられた。
・公式にはアゼルバイジャンの領土と認められているが、人口の大部分はアルメニア人で構成されている。
・現在、ナゴルノ・カラバフは分離主義勢力(自称当局)に占領されている。
・ナゴルノ・カラバフの大統領(自称)はアライク・ハルチュニヤン。
・自称当局は、アルメニアを含む全ての国連加盟国に認められていない。
・1988年から1994年の紛争で約3万人が死亡、推定100万人が避難を余儀なくされた。
・1994年の停戦合意後も膠着状態は続いていた。
・アルメニアは分離主義勢力(自称当局)を認めていない。
・アゼルバイジャンは「分離主義勢力=アルメニア軍」と認識している。
・トルコはアゼルバイジャンを積極的に支援している。
・ロシアはアルメニアに軍事基地を持っている。