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スイス「人口を1000万人に制限する国民投票」支持拡大、政府は反発

6月14日に実施される国民投票では、右派政党・スイス国民党(SVP)が主導する「持続可能性イニシアチブ」の賛否が問われる。
スイス、首都ベルンの通り(Getty Images)

スイスで人口増加への不満が高まり、「人口を1000万人以下に制限する構想」を巡る国民投票が注目を集めている。背景にあるのは、好調な経済成長と引き換えに深刻化した住宅不足やインフラ逼迫だ。特に低税率政策で企業や富裕層を呼び込んできた中部ツーク州周辺では、不動産価格の急騰が地元住民の生活を圧迫しており、移民流入への警戒感が広がっている。

6月14日に実施される国民投票では、右派政党・スイス国民党(SVP)が主導する「持続可能性イニシアチブ」の賛否が問われる。提案は2050年までにスイスの恒久居住人口を1000万人以下に抑えることを求める内容で、人口増加の主因とされるEUとの「人の移動の自由」協定の見直しも視野に入れている。現在の人口は900万人を超え、このままの増加ペースが続けば2050年を待たずに上限に達する可能性が高い。

象徴的な地域となっているのがチューリヒ州の小村クノナウだ。1990年以降、人口は150%増加し、現在は2500人余りとなった。スイス全体の人口増加率36%、EU平均8%を大きく上回る伸びである。背景には隣接するツーク州の経済発展がある。ツーク州は法人税や所得税が欧州主要国より大幅に低く、多国籍企業や高所得者を引き付けてきた。その結果、周辺地域でも住宅需要が急増し、開発ラッシュが続いている。

ロイター通信の取材に応じた住民の多くは、「人口増加が止まらない」「道路や学校が限界に近い」と不満を訴えた。かつて静かな農村だった地域には集合住宅が次々と建設され、景観が急速に変化している。公共交通機関や医療、教育などのインフラ整備も追いついていないとの声が強い。

なかでも深刻なのが住宅価格の高騰だ。地元メディアによると、ツーク市の住宅価格はジュネーブを上回り、ロンドンや東京、ニューヨークなど世界有数の大都市に匹敵する水準に達している。20年前に住宅を購入した住民は資産価値上昇の恩恵を受けた一方、若年層や中間所得層にとって持ち家取得は極めて困難になった。地元住民の中には、自宅が取り壊され高級マンションへ建て替えられるため、国外移住を検討している人もいるという。

一方で、政府や経済界は人口制限案に強く反対している。スイスはEU加盟国ではないが、EUとの自由移動協定を基盤に単一市場へのアクセスを確保しており、提案が可決されれば貿易関係に深刻な影響を与える可能性がある。政府は「スイス経済に打撃を与える」と警告し、企業団体も外国人労働者の受け入れ制限が人材不足を悪化させると懸念する。現在、スイス人口の4分の1以上が外国籍で、その大半はドイツ、イタリア、ポルトガル、フランスなど欧州出身者だ。

それでも世論調査では賛成派が拡大している。4月の調査では支持率が52%に達した一方、5月調査では賛否が拮抗した。住宅難や生活コスト上昇への不安が有権者の意識を左右している形だ。豊かな経済を維持するための「開放性」と、住環境や社会基盤を守るための「人口抑制」の間で、スイス社会は難しい選択を迫られている。

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