何もすることがない、という理由でアルコールをガブガブ飲む人が急増中

酒は飲んでも自分がそれに飲まれ酩酊状態になってはいけない。コロナウイルスの到来により、世界は不確実性の渦に突入、まんまと”それ”に飲み込まれてしまった

ロックダウンおよび緊急事態宣言の発令以降、アルコールの販売数が急増している。イギリスでは3月の売上高が22%増加、アメリカは昨年の同時期に比べ55%増加したという。

アメリカの有名シェフは、開店できない悲しみをネットで配信。ピッチャーに注いだコスモポリタンをオンライン上で共有した。それを見た参加者たちは各々グラスを手に取り乾杯したという。

コロナショックに直面している今こそ、自分のアルコール摂取レベルを見直してみてはいかがだろうか。いつ終わるかも分からない不安な状況の中、ついつい瓶(缶)に手が伸びてしまう方も多いはず(私を含めて)。わずか数カ月で感染者は400万人を超え、30万人近くが亡くなった。この受け入れがたい現実を少しの間だけでも忘れたいが・・・

医師、医療関係者、第一線でライフラインを守る方、皆が大きなプレッシャーにさらされており、働く者の多くが愛する人と離れて奮闘している。恐怖・欲求・不満・心配の考えが心に巣くうのは当然だろう。

我々はそれを取り除く、忘れたいという理由でアルコールを摂取する。また、ただ酒が好きな人も、元をたどれば同じところに行き着く。しかし、それを摂取しストレスを抑えるという行為は、生理学的、心理学的から見ても、効果は長続きしないことが分かっている。

もちろん、効果ゼロというわけではない。緩和は一過性のものに過ぎないのである。20分から30分後、身体がアルコールの処理を始める。体内を毒素がめぐり、臓器は一生懸命働く。結果、快楽と同時に不快感も発生し、ストレスを感じてしまう。それを忘れようとさらにアルコールを摂取すれば、堂々巡りである。

酒には不安を悪化させる一面もある

ニュー・サウス・ウェールズ大学、アルコール研究センターの責任者を務めるマイケル・ファレル氏は、「人々はアルコールを摂取し不安を解消しようとする。しかし、短期的にはそれを解消できたとしても、中期的、そして長期的な視点で見れば、体調だけでなく不安もさらに悪化するだろう」と述べた。

ただし、コロナウイルスだけをアルコールの摂取増と結びつけることもできない。実際、たくさんの人が普段からアルコール摂取を社会的対処戦略として生活に取り入れてきた。

アルコールの大量購入が世界中で報告されている。自室に引きこもらざるを得なくなり、悪い意味で時間に余裕ができたことも要因のひとつと言われている。トイレットペーパーやマスクも同様である。通販サイトでそれをクリックする、もしくは、スーパーマーケットで大量に買い込む。特に、アルコールは腐らないので、大量購入し自宅で保管できるのだ。

もう一つの要因は、ルーティン(日課)の崩壊であろう。通勤しオフィスで働くことがなくなった結果、オンとオフの境界が曖昧になった。”メリハリなし”、の状態は、知らず知らずのうちに精神を蝕んでいく。週末や月末に同僚たちとバーで飲む、という生活をしていた方がその機会を失った。ルーティン崩壊の行き着く先は混乱である。

コロナウイルスの影響で職場環境が悪化した場合も同様である。私が16時間連続で働き、疲れとストレスに苛まれる医療関係者だったら、休日の昼間にビールの一杯も飲みたくなる。同僚の半分が体調不良や家族の都合で休まざるを得ず、仕事量が激増したら・・・

飲み過ぎはダメ

過度のアルコール摂取が”害”であることは広く認知されている。アルコール依存症も非常に悩ましい問題のひとつだ。さらに、それを摂取することで免疫システムや体力、体調まで低下すれば、パンデミックと戦うことなどできない。

イタリアの研究者たちは、”過度な”アルコール摂取はコロナウイルスの感染リスクを高める可能性がある、と警告している。研究を主導したアルコール依存症地域センターのジャーニー・テスティノ氏は、「アルコールを摂取することで、呼吸器部位が細菌に感染すれば、コロナウイルスの感染リスクを増加させる」と述べた。

また、現在調査を進めている研究(実発表)によると、アルコールはコロナウイルスが身体の細胞に入る際使用する”AGE-2タンパク質”のレベルを増加させる可能性を示したという。

自宅に酩酊状態の者がいることも良くない。国連はロックダウンが始まって以降、世界中で家庭内暴力が急増していることを警告している。中国のアルコール問題対策ヘルプラインの相談件数は、昨年同時期の3倍に増加した。また、レバノンとマレーシアも2倍に増加したという。家庭内暴力およびそれに関連する死亡事件は、イギリス、フランス、スペイン、日本、イタリアなどで報告されている。

南アフリカ、インド、スリランカ、グリーンランドなどでは、ロックダウン中のアルコール販売を全面的に禁止している。素晴らしい対策だ、と思う方も多いだろう。しかし、深刻なアルコール依存症の人がそれを摂取できないことで、離脱状態、幻覚、発作などに襲われ死亡した、という事案も報告されている。
アルコールの輸送と販売をロックダウンした南アフリカの今

インドでは、アルコールを欲する人が、不凍液(冷却水の一種)やメチルアルコール(メタノール)を摂取し自殺した事案も数件発生している。それを摂取できない苦しみとコロナウイルスの不安に押しつぶされた結果であろう。

飲み過ぎはダメだ。しかし、”適度”な飲酒、ストレスを発散させる”軽い”飲み会、週末に家族と”楽しく”飲むワインまで奪われれば、辛い。人間、抑圧されると反発したくなる。仕事のストレスを何らかの手段で解消したいと考えるのは、至って普通のことだ。

アルコールを”健康的かつ自然に”100%断つことがベストである。ストレスの発散方法をスポーツや趣味に見出しても良い。しかし、それができない方(私も含めて)は、「適度・軽く・楽しく」を心掛けるしかない。酒に飲まれれば、コロナウイルスにも飲み込まれる。

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