コロナウイルス、ロックダウンに苦しめられる航空産業と航空会社

一部の航空会社は、コロナウイルスの感染拡大を防ぐために、ミドルシートを空にして運行することを計画している。なお、小型機においても考え方は同じ。「2列シート・通路・2列シート」の場合は、左右それぞれの1席に搭乗する。すなわち、搭乗率は50%になる。

ロックダウンは航空産業、航空会社に強烈過ぎるほどのダメージを与えた。人の行き来が禁止されれば、飛行機を飛ばすことはできない。各国政府、そして航空会社の経営者たちは、いかにして会社を存続させるか、どうやって空の安全を確保するかに頭を悩ませている。

航空会社の経営破綻は国の経済活動に甚大な影響を与える。人の輸送はもちろん、多くの企業が貨物の運搬も担っており、鉄道と同じく「必要不可欠なインフラ」と言っても過言ではない。ただし、仮に経営破綻したとしても、大半の政府は公的資金を投入し、再建を図る。

イギリス、ツートンに本社を置くイージージェットは、ミドルシートの空席利用を「感染対策を徹底し、顧客の要望に応える運用方法」と表現した。同様の計画はアラスカ航空(アメリカ)、ウィズエアー(ハンガリー)などでも検討中だという。

ミドルシートに空きを設ければ、乗客はこれまで以上に「くつろぐ」ことができるだろう。肘がぶつかる心配もせずに済む。ゆったり背伸びしても良い。しかし、ミドルシートを空席利用にするだけで、WHOの推奨する「適切な社会的距離」を確保できるのだろうか?また、本当に現実的な計画と言えるのだろうか?

快適な空の旅?

航空関連の設計や支援を行うリフト・エアロ・デザインのマネージングディレクター、ダニエル・バロン氏は「現時点ではミドルシートを空席にしたとしても、飛行は認められないだろう。政府や関係当局の指示する社会的距離を確保できているとは言えず、顧客の安全も守れない」と述べた。

仮にミドルシートの空席利用が認められたとしても、航空会社は重い負担を強いられる。航空運賃の値下げ競争が激しくなる今、搭乗率の低下は会社の経営に大きな影響を与える。乗せたくても乗せられない。他の航空会社も同じ、各社がそれに見合う価格までチケットを値上げすれば、顧客は旅行を控えるかもしれない。

そもそも飛行機の設計に、社会的距離を保つ、という概念は存在しない。全く逆と言っても良いだろう。小さなスペースに人と荷物をコンパクトかつたくさん詰め込み、機器の性能を向上させることだけに予算を投じてきたのだ。この設計思想は100%正しい

現在の主流航空機、ボーイング777-300ER型(日本は国際線に投入)は10席シートである。座席と通路間が狭くなるのは当然だ。もちろん、安全性は格段に向上し、人と荷物もたくさん詰め込める。これ以上に素晴らしいことはない、コロナウイルスが世界中に拡散されるまでは。

コロナウイルス感染拡大を防ぐために推奨されている社会的距離は2m。飛行機の座席幅は約45cm、ミドルシートを空席にしても、横の乗客と45cmしか離れていない。いわゆる「密接」状態である。2mをクリアするためには4席以上空席を設けねばならない。さらに、前後のシートでも距離を確保する必要がある。

前後のシートは75cm~85cmの間隔で配置されている。2mを確保するためには、乗客の座る席の前後2列を開けねばならない。すなわち、ボーイング777-300ER型で社会的距離をクリアするためには、「26席ごとに4人」を搭乗させれば良い。搭乗率は約15%、航空会社が頭を悩ますのも当然であろう。

2019年、国際航空運送協会(IATA)は、世界全体の国際線平均搭乗率を84%と発表した。地域別に見ると、北米が89%、アフリカが71%などである。

航空会社は平均搭乗率66.7%以上を目指し、顧客集めに奔走している。理由は、それ以下になると会社の運営自体が困難になるためだ。

世界各国のフライト本数が減っていることは周知の事実である。現在飛行機に乗れば、余裕で社会的距離を確保できる(冗談ではない)。今飛行機に乗る人はごく一部の関係者のみ、シートはガラガラである。この状態があと数カ月続けば、財務体質の脆弱な航空会社から経営破綻することになるだろう。

しかし、航空会社もただ手をこまねいているだけではない。デルタ航空は航空機への搭乗方法を変更すると同時に、座席にスペースを設けている。もちろん、搭乗前の手の消毒、検温、マスク装着は必須である。

また、機内サービスを削減することで、客室乗務員と乗客の接触を減らす。搭乗時にペットボトル、軽食を配布する、といった対策も取られている。さらに、乗客を乗せない「貨物輸送時」に客室へ荷物を積み込み、輸送数をアップさせる航空会社も出てきた。一回当たりの輸送量を増やせば、収益のアップにつながるだけでなく、医療器具などを迅速かつ大量に届けることもできるだろう。

コロナウイルスは航空産業に計り知れない影響を与えた。しかし、それに順応・創意工夫し、問題を解決できれば、世界は新たな一歩を踏み出せるはずだ。飛行機、そして旅行のない世界など考えられない。航空会社は難しい課題をクリアすべく、歩を進めている。

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