イナゴハンターたちは、イナゴの大侵略から植物、作物、放牧地を守るために戦っている

ケニアの広大な砂漠に生息する数百、数千万ものイナゴは、毎日自分の体重と同じ量の植物を食べる。この昆虫を放置すると国中の植物、農作物を食い荒らされてしまう。

春の繁殖期が終わりに近づく頃、「イナゴハンター(Locust Hunter)」たちはイナゴの卵が孵化(ふか)する前に駆除すべく、戦いを開始する。

昆虫の追跡はプロフェッショナルの仕事である。芸術と言っても過言ではない。全国に展開するLHたちは、監視活動(パトロール)を継続し、標的に狙いを定める。

専用の散布用航空機で農薬を散布する前に、標的の正確な座標を確認しなければならない。それを見誤ればイナゴの卵を駆除することはできず、それらが孵化、成虫に農作物を食い荒らされる悲惨な1年が訪れるのだ。

国連食糧農業機関(FAO)のアンブローズ・エン・ゲティッチ氏とイルタセーオン・ニープ船長は、毎朝ヘリコプターに乗り込み、ケニア北中部に生息するイナゴの群れを追いかけている。

イナゴは風に乗って一気に移動する習性を持っている。小さな身体で1日150km以上移動することもあるというから驚きである。ここ数カ月、家畜のエサになる植物や農作物に深刻な被害が出ており、住人たちは頭を抱えていた。

ゲティッチ氏の仕事は、サンブル郡、イシオロ、ライキピア、そしてメルの広大な平原で活動するイナゴの駆除活動を管理すること。これらの地域の砂質土壌は、イナゴが産卵、孵化するのに最も適した環境である。

FAO当局は、「太陽が昇り暖かくなると、イナゴたちは一斉に動き出す。数千万のイナゴが宙を舞うと、巨大なドラゴンのように見えることもある。それらは100km以上移動し、農作物を食い荒らす。我々は国民の生活に欠かせない農作物を守らねばならない」と述べた。

コロナウイルスによるパンデミックが発生する以前、東アフリカ地域に住む約2,500万人以上が”イナゴの大侵略”によって食料不足に陥ると予測されていた。

先月、世界銀行(WBG)は同国のイナゴ対策費として4,200万ドル(約46億円)相当の緊急融資を承認した。

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生存をかけた戦い

毎朝パトロールを行っているゲティッチ氏とニープ船長は、コミュニティの住人たちと話し、イナゴの情報収集も行っている。

コミュニティの住人たちは、当該エリアを監視するために欠かせないキーパーソンである。FAOはイナゴの動きを地上から注意深く観察する「監視者」を選び、訓練してきた。

監視者たちはイナゴの動きを注視し、イナゴハンターと情報を共有する。コミュニティの住人たちも指をくわえてイナゴの侵略を見ているだけではない。監視者からもたらされた情報は、FAOの活動をバックアップする重要なスキームのひとつである。

サンブル郡に住むティアン・パティ・レレティット氏は、イナゴの襲来を受け80頭のヤギを失った。同氏はヤギの他にトウモロコシ、豆、その他の作物などで家族を養っていたが、イナゴはそれらも全て食い尽くたという。

レレティット氏は、「イナゴは私の大切なものを奪い去った。今、新しい苗を植え育てている。イナゴが二度と現れないことを願う」と述べた。

ケニア北部牧畜民コミュニティの急性栄養失調問題に取り組んでいるカトリック救済サービスのレーン・バンカーズ氏は、「砂漠に生息するイナゴは人間の監視をかいくぐり、数を増やしている。それらが一斉に侵略を開始すると、農作物はもちろん、植物を必要とする畜産業も甚大な被害を受ける。今後数カ月で食料不安はさらに高まるかもしれない」と述べた。

トゥルカナでコミュニティを形成するエルペ・ロブン氏は、砂漠を往来するイナゴの群れの影響で、ヤギに与える植物の量が減少している、と説明した。

母ヤギは植物を食べ、子ヤギは母乳を吸う。しかし、周辺の植物が食い荒らされた結果、そのサイクルは崩れてしまった。ロブン氏は、「家畜を失えば、私と家族は生活の糧を失う。食料を失えば、生きることはできない」と述べた。

ノーザン・レンジランズ・トラストの平和構築コーディネーターを務めるジョセフィン・イキル氏は「私を含めたケニアの人々の多くが家畜に依存している。植物が失われ牧草地が枯れ果てると、対立や紛争に発展する可能性もある。イナゴを駆除するイナゴハンターたちは、国民の生命を守るケニアの守護者たちだ」と述べた。

イナゴに悩まされているケニア北部と中央部のコミュニティによると、この事態は近年急速に悪化しているという。深刻な干ばつと土地の砂漠化が、イナゴの産卵と孵化に適した環境を作った結果だろう。

イナゴハンターたちが散布する環境(植物)に優しい農薬は、日本、オランダ、モロッコなどから供給されている。しかし、コロナウイルスによるパンデミックの影響でフライトが制限され、貨物のサプライチェーンが機能不全に陥り、農薬価格は高騰した。それらの問題に対処すべく、WBGはケニアへのイナゴ対策費として4,200万ドル(約46億円)の緊急融資を決めた。

イナゴを放置すれば、ケニアとアフリカの大地は食い荒らされる。人々は深刻な温暖化だけでなく、イナゴの大侵略からも身を守らなければならない。

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