ワクチンを巡る憶測と政治利用

コロナウイルスから世界を救うCOVID-19ワクチンは、ホワイトハウスの権力を巡る戦いの争点になりつつある。

世界中で猛威を振るうコロナウイルスを阻止するワクチンの見通しは、不透明である。しかし、ドナルド・トランプ大統領はそれの完成および接種を国民に約束し、大統領選の切り札にしたいと考えているようだ。

これに対し民主党は、「嘘つき」「米疾病予防管理センター(CDC)やアンソニー・ファウチ博士の発言であれば信用するが、ドナルドの言うことは信用しない」など、根拠のないデタラメをキャンペーンに使うなと猛反発した

9月7日、トランプ大統領は記者会見で、「コロナウイルスは非常に危険な存在である。しかし、それに打ち勝つワクチンが誕生すれば、ウイルスを効果的に封じ込めることができるだろう。その日は近い」と約束した。

民主党の副大統領候補に指名されたカマラ・ハリス上院議員は、トランプ大統領、共和党、キャンペーンチームなどが発信するCOVID-19ワクチンについて、「彼の言葉だけは絶対に信用しない」と述べた。

カマラ・ハリス上院議員:
私は公衆衛生の専門家や科学者の言葉は信頼するが、ドナルド・トランプの発言だけは絶対に信用しない」

民主党大統領候補のジョー・バイデン氏は、コロナウイルスを封じこめるワクチンの開発および入手についてどう思うかと記者に尋ねられ、ハリス上院議員と同じく、トランプ大統領を厳しく非難した。

またバイデン氏は、ワクチンの開発が完了するか否かについて、専門家や科学者の意見を聞きたいと付け加えた。

ジョー・バイデン氏:
「真実か否か分からない情報が広まり、国民は本当に優れたワクチンを入手できるのか、本当に開発されているのか不安に感じている」

「コロナウイルスに対するトランプ大統領の発言は二転三転している。ウイルスは消えてなくなる、パンデミックなど起こらない、 ヒドロキシクロロキンを摂取すればよい、といった発言はいずれもデタラメだった」

「彼はアメリカ合衆国大統領の発言の重さを全く理解していない。明日、ワクチンが手に入ると100%断言できるなら、そう言えばいい。本当に優れたワクチンを100%提供できる場合も同じだ。今、アメリカはワクチンを必要としている。根拠のない発言はいらない

キャンペーンの本格始動日にあたる労働者の日、COVID-19ワクチンを巡る両党の罵り合いは激しさを増した。

同日、ハリス上院議員とマイク・ペンス副大統領はウィスコンシン州でキャンペーンを開き、バイデン氏はペンシルベニア州にいた。なお、トランプ大統領は記者会見を予定していなかったが、急遽「ワクチンは完了するだろう会見」を開催、国民の注目を一身に集めた。

ハリス上院議員は6日に放送されたCNNのインタビューで、「COVID-19ワクチンが年末までに完成する」というトランプ大統領の発言は信用できないと語った。

さらに、「トランプはワクチン開発に成功したというデタラメで、キャンペーンのリードを狙っている」と主張。コロナウイルスに関連する嘘とデタラメにはウンザリすると語り、「トランプの口から出てくる言葉ほど信用できないものはない」と切り捨てた。

ホワイトハウスの記者会見でハリス上院議員の批判について質問されたトランプ大統領は、「無謀な反ワクチン抗議運動。民主党はCOVID-19ワクチンを望まず、国民の死を望んでいる」と述べた。

ドナルド・トランプ大統領:
「カマラ・ハリスはCOVID-19ワクチン開発の成果を中傷し、国民のために戦っている科学者たちの奮闘を否定し、傷つけた」

「民主党は好き放題言う。しかし、彼らはこれまで何もしてこなかった。デタラメを言うだけなら、誰でもできる」

トランプ大統領は年末までにCOVID-19ワクチンの準備が完了すると発言していた。しかしこの日、事態はさらに良くなると主張した。

トランプ大統領は記者団に対し、「私は年末までにCOVID-19ワクチンを準備できると言ったが、さらに早まるかもしれない」と政権の成果を強調。「もしかすると10月末、11月初めには準備を終えているかもしれない」と発言した。

トランプ大統領が「オペレーション・ワープスピード」と呼んでいる開発プログラムの目標は、2021年1月までに3億回分のCOVID-19ワクチンを備蓄することである。

ワクチン開発には通常数年かかるため、トランプ大統領は何千億ドルもの巨額予算をベットし、ビッグディールを狙ってきた。

トランプCOVID-19ワクチンは10月末に誕生する

ワクチンと大統領選挙

ホワイトハウスコロナウイルス対策チームの最高顧問を務めるアンソニー・ファウチ博士は、先週CNNの取材に応じ、「COVID-19ワクチンは、11月ではなく10月中に”承認”される可能性も十分あり得る」と語った。

またファウチ博士は、「ワクチンの安全性および効果が確実でない限り、承認されないだろう」と付け加えた。

米食品医薬品局(FDA)のスティーブン・ハーン局長はファイナンシャル・タイムズの取材に対し、「ワクチン評価に手を抜くことはない。しかし、その作業の迅速化は目指す」と述べた。

さらに、利益がリスクを上回った場合は、臨床試験(フェイズ3)完了前にワクチンを承認するかもしれないと言及した。

一方、ケイリー・マケナニー ホワイトハウス報道官はトランプ大統領のワクチン発言について、「安全性を犠牲にすることはあり得ない」と断言した。

そして、国内トップ5の製薬会社幹部は、COVID-19ワクチンの用途に関わらず、「安全性および効果が証明されるまでは承認されない」と誓約した。

しかし、8月27日付の書簡は、ワクチンに対する懸念の一部を浮き彫りにした。

それによると、CDCのディレクターを務めるロバート・R・レッドフィールド博士は、政府の請負業者であるマッケソン社および全米50州と準州全ての保健当局者に対し、「COVID-19ワクチン配布施設が11月1日までに稼働できるようサポートしろ」と要請したという。

つまり、CDCは11月1日までにCOVID-19ワクチン配布”準備”を進め、予防接種などに対応できるよう要請したのである。なお、レッドフィールド博士は、それまでにワクチンが準備できるとは明言していない。

政権から事実上独立した形で運営されているCDCは、トランプ大統領およびキャンペーンチームから「大統領選当日までにワクチンを配布するよう圧力をかけられている」可能性がある。

現在、アメリカで開発中のCOVID-19ワクチン(計3種類)は最終試験段階、臨床試験フェーズ3に入っており、各研究に対し約3万人が被験者として登録されている。

被験者は3週間おきに計2回ワクチンを接種し、効果および副作用の状態をチェックする。なお、監視期間はワクチンによって大きく異なり、短いものは1週間程度、長くなると2年近く監視するものもある。

9月4日、トランプキャンペーンチームは、「グレートアメリカン・カムバック」と呼ばれる新しい広告をリリースした。その内容はCOVID-19ワクチンに大きく言及しており、「ワクチン開発競争でアメリカは勝利する」と謳っている。

トランプ大統領は新たなキャンペーン広告について、「近い将来、目覚ましい成長が見られると思う。私たちはコロナの成長を抑えた。次はワクチンだ」と語った。

そして、「ワクチンは間もなく発売される。治療法の研究も順調に進んでおり、アメリカの製薬会社は世界から羨望のまなざしを向けられるだろう」と付け加えた。

トランプ大統領はワクチンに関する政府のスケジュールが大統領選挙と合致していること、そして、ワクチンをキャンペーンに利用しているという批判に対し、「国民をひとりでも多く救うことが最優先事項であり、それ以外に興味はない」と断言した。

9月3日、トランプ大統領はペンシルベニア州ラトローブで行われたキャンペーン集会に出席。有権者に対し、「私の考えでは、遅くとも年末までにCOVID-19ワクチンを皆の元に届けられる。しかし、試験は順調に進んでおり、10月末の配布もあり得るようだ。あなたたちはどうしてほしい?」と語った。

ドナルドJ.トランプ:史上最高の大統領

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