勝つか負けるか

カリフォルニア州上院議員のカマラ・ハリス女史は、ジョー・バイデン氏が選ぶと思われた女性候補者(ランニングメイト)3名の中で、最も優位な位置に立っていた。

彼女の現在の立ち位置は、民主党にとって最も実用的なものだった。2019年時点では、次の民主党大統領候補者争いを演じていたが、バイデン氏に敗北。しかし、民主党幹部は彼女の年齢を考え、4年後もしくは8年後に来たるべき時が来る、と想定しているのかもしれない。

ハリス上院議員自身も、自分の立ち位置を十分理解していた。この1カ月間、「他の候補者ではなく、自分を選んでほしい」と思われる発言を繰り返し、まずは副大統領の席を確保、経験を積みたいと思っていたようだ。

バイデン氏のランニングメイト候補者争いは、次の大統領候補を決める最初の戦いだった。野心に満ちたハリス上院議員は、他の候補者との差を広げたのである。

しかし、「次期女性大統領」候補者を決定する前に、やらねばならないことがある。2020年11月3日、ハリス上院議員はランニングメイトになったバイデン氏を男にしなければならない

バイデン氏が共和党の現職、トランプ大統領に敗れれば、民主党幹部およびハリス上院議員の目論見は雲散霧消し、4年後もしくは8年後の女性大統領誕生に黄色信号が灯る。

バイデン氏はハリス上院議員の何に期待したのか?

まずは「多様性」である。

ハリス上院議員とバイデン氏は両者ともアメリカ人だが、同じではない。彼女は移民二世である

アメリカの人種差別問題は、ジョージ・フロイド氏殺害事件によって大爆発した。「Black Lives Matter(ブラック・ライブズ・マター)」はアメリカの今を象徴する運動である。

大統領になりたければ、ありとあらゆる民族から票を集めねばならない。恐らく、ジャマイカ出身の父とインド出身の母の間に生まれたハリス上院議員の民族的多様性は、バイデン氏の大きな武器になる。

さらに、ハリス上院議員は55歳と非常に若い。77歳のバイデン氏と比較すると、圧倒的にパワフルかつ元気である。

8月11日、バイデン氏がランニングメイトを発表する直前、ハリス上院議員は民主党内における多様性の必要性についてツイートした。

「黒人女性と有色人種の女性は政治家として不当に過小評価されている。11月3日には、その誤った評価方法を変えなければならない」

米副大統領に求められる伝統的な役割のひとつが「攻撃性」である。これは野党に対し発揮するものであり、時には汚い仕事もこなさねばならない。

大統領が高潔な道を突き進んでいる時、№2はそれを邪魔する者に拳を叩き込むのである。

2019年7月、民主党の第一次討論会においてバイデン氏を最も熱心に追いかけ、強烈な攻撃を仕掛けたのはハリス上院議員だった。

ハリス上院議員は非常に攻撃的かつ並外れた頭脳を持つ尋問者である。トランプ大統領は、連邦最高裁判所陪席判事に任命したブレット・カバノー氏に対し、「カマラ・ハリスは並外れて厄介だ」と述べている。

副大統領の席に着いた者は、冷静、冷徹に攻撃を放ち、大統領をありとあらゆる面でバックアップしなければならない。バイデン氏が最も必要とするものをハリス上院議員は持っている。

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弱点は?

ハリス上院議員は2020年民主党候補者レースで敗北。その際、他の候補(サンダース氏やウォーレン氏など)よりも早くレースから脱落した。

2019年1月、数万人の支持者に向けてキャンペーン開始を表明した時、彼女は民主党を代表する候補者のひとりとして扱われた。

事実、ハリス上院議員の攻撃的なかつ頭脳をフル活用したディベートパフォーマンスは群を抜いており、主要世論調査ではトップ争いを演じていた

しかし、ヘルスケア部門の対策でちぐはぐな発言を繰り返し、炎上も経験。結果、レースから脱落したのである。

ハリス上院議員は、指名権争いの難しさ(ツイッターでの炎上含む)を肌で体感している。ただし、多くの民主党有権者たちが新時代の女性大統領は彼女しかいないと考えていた

民主党有権者たちは、バイデン氏をサポートするランニングメイトの潜在能力に期待している。彼女の多様性は圧倒的な武器になり、誰にでも臆せず発言する攻撃性は副大統領にピッタリ、と皆が信じているのだ。

ハリス女史に弱点はあるのか?

ある。

ハリス上院議員は「法執行機関」出身である。

彼女は過去から何度も何度も繰り返されている警察の残虐行為に対し、警察機構の抜本的見直しだけでなく、人種差別に関連する様々な問題も同時に改善したいと述べている。

これに対し敵対する勢力は、「ハリスは警官である」という悪質な非難を行った。

サンフランシスコでの地方検察官時代、そしてカリフォルニア州での検事総長時代。彼女は容疑者が不法に有罪判決を受けていた場合でも、警察の味方をしたと言われている

また、「個人的には死刑制度に反対する」と述べつつも、検事総長在籍期間中、容疑者に死刑判決を下している。

ジョージ・フロイド氏の死後、ハリス上院議員は法執行改革を率先して提唱し、一部の進歩主義者から称賛を受けた。しかし、これまでの行為に対する疑念が払拭されたわけではない。

民主党の指名権争いに参戦したハリス上院議員は、バイデン氏他のライバル候補を持ち前の攻撃性と知性で叩き伏せた。

彼女は「大学教育無料化」「グリーンニューディール環境プログラム」「ユニバーサルヘルスケア(国民皆保健)」などの政策を提唱した。しかし、ただ理想を述べているようにしか思えず、予算などの現実的な問題点については言及できずじまい。説得力は皆無だった。

ハリス上院議員は、民間保険を禁止すべきか否かの問題で大きくつまずいた。この問題は進歩主義者たちには受け入れられたが、一般的な民主党有権者たちは胸やけを起こした。

彼女はインタビューの中で開口一番、「民間保険を排除しましょう」と述べ。次の話題に移れと指示した。

民間保険に入っている民主党有権者は頭が混乱した。国民皆保健が実現されれば素晴らしい。しかし、なぜ民間を排除せねばならないのか?

一部の超富裕層と呼ばれる者たちを攻撃し、貧しい人々を助けたい気持ちは理解できる。しかし、実現性、予算、そしてアメリカという世界一の自由民主主義国でそれを達成することは非常に難しい。なお、民間を排除する前にもっとすべきことがあるだろう、と多くの有権者は感じた。

トランプ大統領は保守的な共和党有権者から支持を得て大統領になった。

トランプ大統領は、アメリカの企業、貿易、軍事、交渉などをより強くすることに特化し、「利益を得たい」「金持ちになりたい」「富を守りたい」と考える者たちから圧倒的な支持を得ている。

ハリス上院議員は穏健派から極左、そしてバイデン派と立ち位置をコロコロ変えている。民主党有権者は、彼女が何をしたいのか、何を狙っているのかを判断できずにいる、かもしれない。

実現性に乏しい政策をディベートパフォーマンスでフォローしても、いずれ必ずボロが出る。

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