イギリスの超名門、オックスフォード大学

7月19日、イギリスの超名門、オックスフォード大学の研究チームは、新たに開発したコロナウイルスワクチンが、安全に免疫反応を引き起こしたと発表した。

ChAdOx1 nCoV-19」と呼ばれるワクチンが同大学の試験に参加した1,077人に投与され、ウイルスと戦うことのできる中和抗体とT細胞を作り出した。

ただし、研究チームは、「調査結果は非常に有望だが、確実に免疫反応を引き起こすか否かについては、より大規模な試験を行い、証明しなければならない。現在、新たなフェーズの準備が進められているので、大喜びするのは時期尚早だ」と語った。

なお、イギリス政府は既にオックスフォードワクチン1億回分を注文済みである。

オックスフォードワクチンこと「ChAdOx1 nCoV-19」は、前例のない速度で開発が進められている。このワクチンは、チンパンジーに風邪を引かすことのできる遺伝子組み換えウイルスから作られた。

遺伝子組み換え前のウイルスは、人間に感染せず、ワクチンとはかけ離れたものだという。科学者チームは、コロナウイルスのスパイクタンパク質(人間の細胞を侵す際に使われる成分)の遺伝子成分を、遺伝子組み換えによって作り出したChAdOx1 nCoV-19に組み込んだ。

結果、ChAdOx1 nCoV-19はコロナウイルスと似た働きをするようになる。感染前の患者にこれを投与すると、コロナウイルスに似た症状が免疫系にもたらされる。つまり、コロナウイルスの攻撃を事前に学習することができるのである。

これまでコロナウイルスワクチン開発の焦点に当てられてきたものは、「抗体」だった。ただし、ChAdOx1 nCoV-19は抗体を作り出すというより、人間の免疫機能の防御力を上げる手助けをする、と考えた方がよいかもしれない。

このワクチンが人間の体内にもたらすT細胞(白血球の一種)は、免疫システムを調整し、何かしらのウイルスに感染した身体の細胞を特定、破壊する。

ほぼすべての効果的なワクチンが、人間の体内でT細胞と中和抗体を作り出すのである。

オックスフォード研究グループを率いるアンドリュー・ポラード教授はBBCの取材に対し、「T細胞のレベルはChAdOx1 nCoV-19接種から14日後、中和抗体(免疫反応レベル)は28日後にピークに達した。ただし、免疫反応がどれくらいの期間継続するかは不明。これからさらに研究を進めることで判明するだろう。我々は中和抗体とT細胞の両方を生み出せたことにとても満足している」と述べた。

オックスフォード大学が開発したワクチンは有望であり、人々をウイルスから保護する一手になるかもしれない。ただし、誰もが知りたい主要課題、「ワクチンは本当に機能するのか」「摂取すれば大丈夫なのか」「いつ提供されるのか」の回答が得られる日はもう少し先の話である。

この研究では、参加者の90%が1回目の投与後に中和抗体を作りだした。また、残り10%の人々も、2回目の投与で中和抗体が確認できたという。

ポラード教授は、「感染を確実に予防できるレベルかはまだ分からないが、2回目の投与で中和抗体を生み出し、免疫反応が確立されたことは確かだ」と述べた。

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ワクチン開発競争

オックスフォードワクチンことChAdOx1 nCoV-19には副作用がある。

ただし、命に危険を及ぼすレベルの副作用ではない。このワクチンを接種した参加者の約70%が発熱またはそれに伴う頭痛を発症した。

研究チームは、解熱鎮痛薬アセトアミノフェン(パラセタモール)を使用することで副作用のコントロールは可能と述べた。

オックスフォード大学のサラ・ビルバート教授はBBCの取材に対し、「ワクチンがコロナウイルスの管理に役立つか否かを確認するためには、まだまだたくさんの工程を通過しなければならない。しかし、今回もたらされた初期結果は非常に素晴らしく、興奮している」と述べた。

ワクチンの有効性を実証するためには、より多くの人々を対象とした臨床試験を行わねばならない。イギリスでは10,000人を超える人々が、次のフェーズに参加する予定である。

ただし、同国内の感染者数は4月頃に比べると大幅に減少しており、被験者集めに苦労する可能性もある。

アメリカでは約30,000人、南アフリカは2,000人、ブラジルでは5,000人が参加する大規模なワクチン開発試験の実施が既に決まっている。

現在、20歳代の健康な若者にコロナウイルスを投与し、ワクチン開発研究の促進を図る「COVID-19チャレンジトライアル」の実行が強く求められている。しかし、治療方法が100%確立していない状態でウイルスに感染すれば死を招く恐れもあり、一部の関係者たちは「倫理的に問題あり」、と懸念を表明している。

ChAdOx1 nCoV-19の有効性が年末までに実証される可能性は高い。ただし、人々に広く提供できるまでには、もう少し時間がかかると思われる。

効果を実証できれば、ワクチンの増産が始まる。まずは、重症化しやすい高齢者や基礎疾患を持つ人々、医療関係者への提供が優先されるだろう。

計画が順調に進むと、インフルエンザの予防接種と同じく、ワクチンは世界に普及する。一部の関係者は、遅くとも来年には予防接種として提供できるレベルに達する、と予想しているようだ。

オックスフォード大学による公式発表後、ボリス・ジョンソン首相は記者団に対し、「素晴らしい結果がもたらされた。しかし、年末、または来年の初め頃までにワクチンが手に入るかは分からない。世界最高の科学者たちが結果を出すまで、我々はやるべきことをやる。ゴールに到達したと勘違いしてはいけない」と述べた。

アメリカの科学者チームも、ChAdOx1 nCoV-19と同様の効果が得られるワクチン開発に成功している。

同じく、中国で開発されたワクチンも同様の効果が確認されたという。

ただし、既に述べた通り、これらのアプローチは全て現在進行形であり、確実に機能することはまだ証明されていない。

現在世界中で合計23のコロナウイルスワクチン候補が臨床試験を行っている。さらに、140を超えるワクチンが初期研究段階にあるという。

英国ワクチン・タスクフォースの責任者を務めるケイト・ビンガム氏はBBCの取材に対し、「私たちは、様々なカテゴリーまたはタイプのワクチンの中から、最も有望なものを特定するために戦っている。オックスフォードワクチンは安全かつ効果的であることが確認された。しかし、万人に効果を発揮するワクチンが開発される可能性は低い。私たちは、グループ(年齢、基礎疾患の有無など)ごとに異なるワクチンを必要とするかもしれない」と述べた。

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