◎ニコル・パシニャン首相は、ティラン・ハチャトリアン中将(副長官)の解任命令に反発したオニーク・ガスパリアン准将も解任したが、命令を実行するためにはアルメン・サルキシャン大統領の承認が必要だった。
2021年2月27日 AP通信/Hrant Khachatryan/アルメニア、首都エレバン、ニコル・パシニャン首相の辞任を求める抗議者たち

2月27日、アルメニアのアルメン・サルキシャン大統領は、軍のトップに対して出された解任命令を却下した。

この解任命令はニコル・パシニャン首相が出したものである。軍のオニーク・ガスパリアン准将(参謀長)はこの命令に強く反発し、パシニャン首相の辞任を求めたうえで、「我慢の限界を超えた」と発言した。

パシニャン首相は昨年発生したナゴルノ・カラバフをめぐるアゼルバイジャンとの紛争を終結させる和敬協定に署名した。しかし、アルメニアの一部の市民はこれを「敗北宣言」と嘲笑し、ナゴルノ・カラバフの主要な町をアゼルバイジャンに明け渡したパシニャン首相の辞任を求めている。

ナゴルノ・カラバフ(アルツァフ共和国)は公式にはアゼルバイジャンの領土と認められているが、1994年の紛争終結以来、アルメニア人の土地として管理されてきた。

パシニャン首相は、ティラン・ハチャトリアン中将(副長官)の解任命令に反発したガスパリアン准将も解任したが、命令を実行するためにはサルキシャン大統領の承認が必要だった。

サルキシャン大統領はパシニャン首相に解任命令を送り返したうえで、「命令の一部が憲法に違反していると考えたため、承認できなかった」と述べた。現地メディアによると、パシニャン首相が解任命令を修正するかどうかは現時点では分からないという。

27日に首都エレバンで開催された抗議集会に約15,000人が参加し、パシニャン首相が所有する新聞社でジャーナリストとして活躍したナイラ・ゾグラビアン氏が熱烈な演説を行った。

ナイラ・ゾグラビアン氏:
「パシニャン首相は軍将校の反発を軍事クーデターと呼びました。しかし、それはクーデターではありません。思考、理性、愛の革命です。私たちは勝つでしょう!」

南コーカサス地域で強い影響を誇るロシアとトルコは、アルメニアの混乱を注意深く見守っている。

南コーカサス地域はヨーロッパとアジアを結ぶ戦略的に重要な地点であり、アゼルバイジャンの石油を西側に輸送するパイプラインがこの地域を通過している。

一部のアルメニア人は和平協定を厳しく非難しているが、トルコの支援を受けるアゼルバイジャン軍は一連の戦闘で圧倒的な軍事力を示しており、仮に野党が政権を奪取したとしても、ロシアとトルコが主導する和平協定が修正される可能性は低いと考えられている。

2021年2月25日 ロイター通信/アルメニア、首都エレバン、ニコル・パシニャン首相(中央)

和平協定(2020年11月10日01:00発効)

・アゼルバイジャンは、紛争中に奪取したナゴルノ・カラバフの一部地域を保持。

・アルメニアはナゴルノ・カラバフのいくつかの地域から撤退する

・ロシアの平和維持軍約2,000人をナゴルノ・カラバフ周辺に配備し、違法行為を防ぐ。

・トルコの平和維持軍も監視プロセスに加わる。

・ナゴルノ・カラバフの「解放エリア」にロシアとトルコの統制センターを設置する。

アゼルバイジャンの大統領がアルメニアの危機に言及

ナゴルノ・カラバフについて知っておくべきこと

・2021年2月25日、ニコル・パシニャン首相が軍将校を解任すると発表。

・2021年1月11日、ロシア、アゼルバイジャン、アルメニアによる3カ国首脳会談。ナゴルノ・カラバフをめぐる紛争で麻痺した地域の輸送ルートの再開について話し合う。

・2020年12月13日、アゼルバイジャンの国防省、アルメニア軍の攻撃で兵士4人が殺害されたと発表。

・2020年12月12日、アルメニアとアゼルバイジャン当局、ナゴルノ・カラバフ紛争の和平協定に違反したとお互いを非難。

・2020年12月5日、アルメニア、ニコル・パシニャン首相の辞任を求める大規模な抗議活動が行われる。

・2020年12月1日、アゼルバイジャン政府、アルメニア軍から取り戻したナゴルノ・カラバフの一部地域の開拓を完了したと宣言。

・2020年11月16日、トルコ議会、アゼルバイジャンとアルメニアの和平協定を監視する平和維持軍派遣を承認

・2020年11月16日、アルメニアのゾラブ・ムナサカニャン外相、辞任。

・2020年11月11日、アルメニア市民がアゼルバイジャンとの和平協定に抗議。国会を占領し、首相の辞任を求めた。

・2020年11月9日、アルメニア、アゼルバイジャン、ロシアがナゴルノ・カラバフの紛争を終結させる和平協定に調印

・2020年11月9日、アゼルバイジャンの領土であるナヒチェヴァン自治共和国付近を飛行していたロシアの軍用ヘリ「Miー24」がミサイル攻撃を受け墜落。アゼルバイジャンはロシアに対し、誤った撃墜したと謝罪した。

・2020年11月8日、アゼルバイジャン軍がナゴルノ・カラバフの戦略的に重要な町、シュシャをアルメニア軍から奪取。

・2020年11月、中東の過激派勢力2,000人が紛争に加わったと伝えられている。アルメニアはアゼルバイジャンの同盟国、トルコが関与したと非難。

・2020年10月28日、アゼルバイジャンのバルダ県への空爆(クラスター爆弾)で民間人21人が死亡。

・2020年10月25日、アメリカの仲介による停戦合意が破綻。戦闘再開。

2020年10月25日、アメリカの仲介でアルメニアとアゼルバイジャンが停戦に合意

ロシアのプーチン大統領によると、9月末からの戦闘で少なくとも5,000人が死亡。.

2020年10月17日。10月9日の停戦合意は破綻し、民間人13人が死亡、40人以上が負傷した。

・約4,400平方キロメートルの山岳地帯。

・キリスト教のアルメニア人とイスラム教徒のトルコ人が生活していた。

・ソビエト連邦時代、ナゴルノ・カラバフはアゼルバイジャンの自治区に加えられた。

公式にはアゼルバイジャンの領土と認められているが、人口の大部分はアルメニア人で構成されている

・現在、ナゴルノ・カラバフは分離主義勢力(自称当局)に占領されている。

・ナゴルノ・カラバフの大統領(自称)はアライク・ハルチュニヤン。

自称当局は、アルメニアを含む全ての国連加盟国に認められていない

・1988年から1994年の紛争で約3万人が死亡、推定100万人が避難を余儀なくされた。

・1994年の停戦合意後も膠着状態は続いていた。

・アルメニアは分離主義勢力(自称当局)を認めていない。

・アゼルバイジャンは「分離主義勢力=アルメニア軍」と認識している。

・トルコはアゼルバイジャンを積極的に支援している。

・ロシアはアルメニアに軍事基地を持っている。

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