金獅子賞はノマドランド

コロナウイルスの大流行を背景に開催された今年のヴェネツィア国際映画祭で最優秀作品賞、金獅子賞を獲得したのは、クロエ・チャオ監督、フランシス・マクドーマンド主演による不況時代のロードトリップドラマ、「ノマドランド(原題:Nomadland)」だった。

今年の同映画祭は、例年に比べるとかなりスリム化され、参加者は社会的距離の確保およびマスク着用を徹底し本番に臨んだ。

9月12日、クロエ・チャオ監督のノマドランドが金獅子賞を獲得した。

なお、監督のクロエ氏とマクドーマンド氏はコロナウイルス関連の旅行規則に基づき、アメリカからオンラインで参加した。

マクドーマンド氏は、会場の聴衆および関係者に対し、以下のように述べた。

フランシス・マクドーマンド氏:
「ノマドランドを受け入れてくれた人々、観客の皆さん、ヴェネツィア国際映画祭関係者、そして、奇妙で不思議な本作の世界を作り上げたスタッフ、監督、俳優たちに心から感謝する」

「本作を見てくれて本当にうれしい。またお会いしましょう」

ノマドランドはヴェネツィアの他に、トロント、ニューヨーク、テルライドフェスティバルなどで上映される予定、各部門の最有力候補のひとつに挙げられている

主演女優賞を獲得したのはイギリスの人気女優、ヴァネッサ・カービー氏。「女性のワンピース(原題:Pieces of a Woman)」で出産中に我が子を失った女性を演じた。

主演男優賞は、「パドレノストロ(原題:Padrenostro)」に主演したイタリアのピエルフランチェスコ・ファヴィーノ氏が獲得した。

ヴァネッサ・カービー氏:
「この映画および映画祭で主演女優賞を獲得できたことは、私の人生の中で最高の名誉」

「本作は私に素晴らしいものを与えてくれた。作品に関わった全スタッフ、関係者、サポートしてくれた人々に心から感謝する。この作品に関われたことを誇りに思う」

日本の黒沢清監督は、「スパイの妻」で監督賞にあたる銀獅子賞を受賞。同じく、メキシコのミシェル・フランコ監督のディストピアドラマ「ヌエボオーデン(原題:Nuevo Orden)」も同賞を受賞した。

また、1960年代の旧ソビエト連邦虐殺事件を描いたロシア映画「Dear Comrades!」が審査員特別賞を。そして、チャイタニヤ・タームハネー監督の「The Disciple」が脚本賞を受賞した。

当初、ヴェネツィア国際映画祭は開催を危ぶまれていた。しかし、厳格な制限および安全最優先の開催計画を実行することで、10日間におよび世界的な映画祭のひとつは、芸術や文化がコロナウイルスに勝ることを証明した。

期間中、関係者は屋内外を問わず、マスクの着用を求められた。また、劇場の収容人数は社会的距離を確保すべく半分以下に抑えられた。

残念ながら、観客はレッドカーペットに参加できなかった。しかし、その映像はリアルタイムでオンライン中継され、世界を沸かせた。

対策が有効だったか否かはまだ判断できない。しかし、期間中にコロナウイルスの症例が報告されることはなく、社会的距離の確保およびマスク着用の遵守率も高く見えた。

同映画祭のディレクターを務めるアルベルト・バルベラ氏は以下のように述べた。

アルベルト・バルベラ氏:
「開催前、そして開催中は心配の連続だった」

「私たちは安全対策を策定、実行し、それはうまく機能したようだ。そして、参加者たちはルールに従いながらも、イベントを盛り上げてくれた

香港の映画監督、アン・フイ氏は、コロナウイルスの規則の影響で現地入りできなかったが、今大会で栄誉賞にあたる栄誉金獅子賞を受賞。競争外の映画として「愛の後の愛(原題:Love After Love)」が初演され、オンラインで受賞の喜びを語った。

Nomadland | Official Teaser Trailer

コロナ禍のヴェネツィア国際映画祭

上映作のひとつ、「マカルソ・シスターズ(原題:The Macaluso Sisters)」を監督したイタリアのエマ・ダンテ氏は以下のように述べた。

エマ・ダンテ氏:
「今年のヴェネツィア国際映画祭は、映画、文化、芸術の再生を世界に知らしめた」

「このイベントが規範を持ち、全ての安全対策に従い実行されたことで、他のイベントも同じように開催できることが証明された。誰もがレッドカーペットや劇場に集まり、映画を観賞できる日は必ず戻ってくる」

映画作家のエマ・ジョーンズ氏は、オンライン予約システムのトラブル等も別のイベントで活かすことができると指摘。「会場の安全対策は徹底されており、誰もが社会的距離を意識していた。私は現地がとても安全に見えた」と同映画祭の成功を称えた。

一方、映画のラインナップにはハリウッドで数億ドルを稼ぐ大作が欠けていた。現在、コロナウイルスの影響で映画制作の遅延が相次ぎ、この影響は来年以降も続くものと思われる。

上映された作品はヨーロッパのものが大半を占めた。なお、イラン、インド、オーストラリアの作品も上映されている。

2020年のヴェネツィア国際映画祭がコロナウイルスに振り回されたことは間違いない。

しかし、予防対策を徹底すれば「これらのイベントは開催できる」と証明した意味は非常に大きい。映画館や劇場が軒並み閉鎖される中、世界の映画関係者はヴェネツィアの成功に希望の光を見出した。

ジョーンズ氏はヴェネツィアの成功を称え、以下のように述べた。

エマ・ジョーンズ氏:
2020年の映画祭はコロナウイルスと共存しなければならない。昨年までのように行えると考えるべきではない」

「少なくとも今年は、レッドカーペットにファン、俳優、メディア、関係者が集まることはない。しかし、やり方を変えれば実行できるとヴェネツィアは証明した」

「そして上映された映画は、コロナ禍の中でより注目されるになった多様性を強く意識し、世界にメッセージを発信した」

アルベルト・バルベラ氏は、「私たちは世界中からたくさんの素晴らしい作品を受け取ることができた。ハリウッドの主要スタジオの作品はコロナウイルスの影響で上映できなかったが、ラインナップの質は非常に高く、文句のつけようがない」と語った。

【2020年ヴェネツィア国際映画祭公式賞一覧(抜粋)】

金獅子賞:ノマドランド(原題:Nomadland)
銀獅子賞:スパイの妻
銀獅子賞:ヌエボオーデン(原題:Nuevo Orden)
主演男優:ピエルフランチェスコ・ファヴィーノ/パドレノストロ(原題:Padrenostro)
主演女優:ヴァネッサ・カービー/女性のワンピース(原題:Pieces of a Woman)
審査員特別賞:Dear Comrades!
脚本賞:The Disciple
栄誉金獅子賞:アン・フイ

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