最新トレンドの服を着こなしたい?

ファストファッション(ユニクロ、ZARA、H&Mなど)は、毎年大量の衣服を消費者に提供してくれる。その規模は世界で数億トン。そして、新しい服を購入した時、恐らく多くの人が”お古”を廃棄するはず。では、不要になった衣服はどこに行くのか?

クローゼットを開いた時、いつ着たか分からない衣服が”山盛り”になっていれば、あなたは”比較的”環境を破壊していないと言える。しかし、毎年最新トレンドを必ずチェックし、流行の衣服を大量に購入、「お古は迷わず捨てるもしくはリサイクル」という方は、恐らく地球に優しくない方である。

ちなみに、「クローゼットに服が収まらない」「一度も来たことのない服、アイテムがある」という方は、生活を見直してほしい。スーパーマーケットでは必ずマイバックを利用し、マイカーは電気自動車、電化製品の待機電力に気を使っているとしても、だ。

マンチェスター大学、社会学者のソフィー・ウッドワード女史が行った調査によると、女性のワードロープ内の平均12%が「活動的でない(ほとんど着ていない)」衣服だという。

出番のなくなった衣服はどうするべきか。恐らく大半の方がビニール袋に押し込み、燃えるゴミ(付属品等がついていれば燃えないゴミ)として処理するはず。

アメリカで廃棄される繊維ゴミの約85%(2017年は1,300万トン)は、埋め立て地に投棄もしくは焼却されている。平均的なアメリカ人が毎年捨てる衣服の量は推定約37kg。アメリカ国内だけで毎年1,500万~2,000万トン規模の繊維ゴミが発生しているのだ。

そして、地球が毎年遺棄している繊維ゴミの量は推定1億トン超、その他のゴミや布製品などを含めると、毎年恐ろしい量の繊維ゴミが埋め立てられる、もしくは二酸化炭素を排出しながら燃やされるのである。

イギリスのラフバラ大学で持続可能な繊維を研究しているシェトナ・プラジャパティ氏はBBCの取材に対し、「現在のファッションシステムは、石油を含む大量の再生不可能資源に依存しており、短期間しか使用しないファストファッションの衣服はその最たる例である。また、大変残念なことに、昨年もしくはそれ以前に作られた服の多くが、埋め立てるか焼却によって処理されている」と述べた。

ファストファッションは、これまでの常識を覆す価格と質で世界を席巻してきた。しかし、地球環境の面でみると、年間1億トン近い衣服が捨てられる原因を作り、水などの貴重な資源を汚染する張本人になってしまった、と言える。

さらに、世界のファッション業界が占める温室効果ガス排出量の割合は、地球全体の10%を占める。繊維製品だけで、毎年12億トンもの温室効果ガス(推定)を大気中に放出しているという。

また、衣服の製造時に使われる大量の水も環境破壊を引き起こす。ファッション業界が生み出す廃水は、世界の総排出量の20%(推定)を占めているのだ。

現代の衣服は、「売れば売るほど」「作れば作るほど」環境を破壊する。なお、一人当たりの衣服購入量は、15年前より60%増加したことが分かっている。欧州最大の衣服消費国、イギリスでは、1分当たりに2トン以上の衣服が購入されている。

職人が丁寧に作った服は、基本長持ちする。しかし、トレンドは毎年変化するものであり、それに伴い消費者の好みも変わる。業界の統計によると、現代のアウター全般の寿命は2年~10年、下着とTシャツは1年~2年、スーツとコートは4年~6年程だという。

廃棄ではなく、リサイクルすればいいじゃないか?」と大半の方が思うはず。しかし、世の中そんなに甘くないのである。

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小売、ファッション業界の未来

アメリカの場合、廃棄された衣服や靴の13.6%がリサイクル処理されている。決して多いとは言えないが、環境保護を進めるためには、小さな努力を積み上げるほかないだろう。

なお、衣服には再利用できない材料も大量に混ざっている。現在、衣服に使用されている素材の12%が、一般的な方法で再利用可能。つまり、処理コスト等が膨らむ複雑なプロセス(装置など)を使うより、投棄もしくは焼却処理した方が安上がりなのである。

衣服の素材の88%が、簡単にはリサイクルできない。ファストファッションおよびファッション業界は、リサイクル率の低さに頭を悩ませつつ、毎年新しいアウターを発表しなければならないのだ。そして、それを怠れば、入れ替わりの激しい小売業界で生き残ることはできないだろう。

現代の衣服は、繊維、固定具(ファスナーやボタンなど)、アクセサリーなどを組み合わせ、作られている。そして、その素材の大半がプラスチック、ポリエステル、金属などのブレンド化学繊維を用いている。

石炭発電所の削減や車の排気ガス問題は、全世界の注目を集めている。しかし、私たちの生活に欠かせない合成繊維の環境破壊問題は、思いのほか重要視されていない。プラジャパティ氏は、「たとえば、綿100%のTシャツであっても、ラベルやミシン糸、ワッペン等はポリエステルなどの別素材で作られている。ジーンズのボタン、ステッチなども同様。さらに、大量の染料(石油誘導体)を使い、布を染色している」と述べた。

つまり、衣服を完璧に分離したうえでリサイクルすることは非常に難しいのである。なお、綿100%のTシャツであっても、付属品にポリエステルが使われていれば、焼却処理は好ましくない。

イギリス、ヨークシャー州バトリーのWastesaver洋服選別・リサイクル工場では、毎週80トンの古着を取り扱っている。同社のマネジャーを務めるロレーン・ニーダム・リード氏は、衣服を構成する素材の問題に悩まされてきた。

同社に届く衣服の3分の1は、手を加えたのち、系列店で販売。3%ほどはイギリス国内の同社直営店へ流れる。そして、その他は何らかの方法でリサイクルされるという。なお、品質の悪い古着でも、産業用のクリーニング服やマットレス、カーシートの詰め物として利用可能

ポリエステルやナイロンなど、1種類の材料で作られた布地の化学繊維リサイクル手法は確立されている。しかし、問題は複数の化学繊維で作られた衣服である。リード氏曰わく、「大半の古着に複数の化学繊維が使われている。そして、それのリサイクルには、複雑かつ高価な工程が必要であり、割に合わない」という。

天然(1種類)とブレンド(複数)の化学繊維を、全く同じ工程でリサイクルできる手法も一応存在する。しかし、手間とコストがかかり過ぎることから、商業として成り立つ規模の処理機械は開発できていない

香港市立大学の化学エンジニアとして活躍するキャロル・リン氏の研究グループは、綿とポリエステルの混紡糸で作られた布を「菌類」でリサイクル処理する技術を開発した。

リン氏によると、「クロコウジカビ(Aspergillus niger)」で綿をブドウ糖に分解、その後、様々な工程を経て、新しい衣服の材料となるポリエステル繊維だけを抽出できるそうだ。

石油誘導体で作られる安価な合成染料も、複雑なリサイクル処理プロセスを必要とする原因のひとつである。リサイクル方法は確立されているものの、手間、時間、コストを考慮すると、安価な投棄、焼却処理がベターな選択肢になってしまう

ファッション業界を牽引してきた主要ブランドは、より持続可能な製品、材料に目を向け始めている。アディダス社は、海洋プラスチックで作られたトレーナーの商品化を発表したばかりである。

若者に大人気のZARAは、持続可能な材料だけを使う新生産体制(2025年目途)に移行すると発表した。

リサイクル技術が100%確立し、一昨年に購入したファストファッションの古着から化学繊維だけが抽出され、それを使った新しい衣服や建設材料資材、その他様々な製品が誕生する。一度生成したポリエステルなどの化学繊維を半永久的に使い回す日が来た時、人類は次の一歩を踏み出すことになる(かもしれない)。

しかし、夢のような話ばかりしていても仕方がない。まずは、今、自分がすべきこと、できることを考えてほしい。最新トレンドのアウターを購入したい気持ちも理解できるが、投棄する服のことを念頭に置き、爆買いは控えた方がよいだろう。

とはいえ、衣服が売れなければ小売、ファッション業界は滅んでしまう。クローゼットに空きスペースのある方は、コロナウイルスでガタガタになった同業界に救いの手を差し伸べて欲しい。

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