コンテンプト・オブ・コート 5-22
アンカレッジ。
マイクの事務所。
ローリーは事務所に入ると、室内を見回した。
マイクの姿はなかった。
奥の机では、ジムがノートパソコンに向かっている。窓際には、エイダンの部下が一人、椅子に座っていた。
ローリーはコートを脱ぎ、空いている机に置いた。
「ジム、ちょっといい?」
ジムが顔を上げる。
「どうした?」
「マイクのことを聞きたいの」
「マイク?」
「そう。あの人、ニューヨークから来たのよね?」
「ああ」
「どうしてアンカレッジに?」
ジムは少し考えた。
「故郷に戻ってきたんだよ」
「それは分かってるわ。どうして戻ってきたのかって聞いてるの」
ジムは椅子の背にもたれた。
「市民のために働きたいんだとさ」
ローリーは眉を寄せた。
「市民のために?」
「ああ。故郷に戻って、弁護士として人を助けたい。そう言ってたよ」
「……そう」
ローリーは机の端に手を置いた。
「それ、本気で言ってたの?」
「俺にはそう見えたけどな」
「マイクが?」
「そうだよ」
ジムは笑った。
「何かおかしいか?」
「おかしいというか……」
ローリーは言葉を選んだ。
「彼、普通の弁護士には見えないのよ」
「俺もそう思う」
ジムはあっさり答えた。
「でも、本人が何を考えてるかまでは知らない。あいつは昔から、必要なことしか話さないから」
「ニューヨークでは、どんな仕事をしていたの?」
「さあな。詳しくは聞いてない」
「一緒に働いていたんでしょう?」
「仕事で顔を合わせることはあった。でも、昔の経歴を全部知ってるわけじゃない」
ローリーはジムを見つめた。
「本当に何も知らないの?」
「知ってたら話してるよ」
ジムはノートパソコンに視線を戻した。
「悪いな。力になれなくて」
「ううん。ありがとう」
ローリーは小さく頷いた。
ただ、市民のために働きたい。
ローリーは、その言葉を頭の中で繰り返した。
そのとき、エイダンの部下が立ち上がった。
「ブルックスさん」
ローリーが振り返る。
「何?」
「俺にも何か聞きたいことがあるんじゃないですか?」
ローリーは部下を見た。
「そうね。一つ聞いてもいい?」
「どうぞ」
ローリーは部下の向かいに座った。
「あなた、マイクとはここで初めて会ったのよね?」
「ああ。そうですよ」
「どんな状況だったの?」
部下は少し笑った。
「驚きましたよ。まさか弁護士が、貸金業者の事務所を訪ねてくるとは思いませんでしたから」
ローリーの目が細くなる。
「マイクは、何をしに来たの?」
「詳しいことまでは知りません。ただ、いきなり入ってきて、話を始めたんです」
「あなたたちに会いに?」
部下は首を横に振った。
「いいえ。この事務所に用があったようです」
ローリーは少し身を乗り出した。
「どういうこと?」
「俺たちに用があったわけじゃない。事務所に来て、ここを使いたいと言った。それだけです」
「そのとき、マイクは一人だった?」
「いいえ。ジムも一緒でしたよ」
「何を話していたか、覚えてる?」
「少しは。でも、俺に関係のない話だったんで、細かいことは覚えてません」
ローリーは黙った。
「ただ……」
部下が続けた。
「マイクは、最初から何かを探しているように見えました」
ローリーが顔を上げる。
「何かって?」
「さあ。人なのか、情報なのか。それとも、昔のことなのか」
部下は肩をすくめた。
「でも、ただ仕事を探しに来た人間には見えませんでしたね」
ローリーはしばらく部下を見つめた。
「……そう」
ジムが二人の会話に口を挟んだ。
「何か分かったか?」
ローリーは首を横に振った。
「まだ何も」
ジムは少し考えてから言った。
「本人に聞いた方が早いんじゃないか?」
「聞いても答えないから、あなたたちに聞いてるの」
ジムは苦笑した。
ローリーは立ち上がり、机の上の鞄を手に取った。
マイクは故郷に戻り、市民のために働きたいと言っている。
しかし、エイダンの部下の話では、この事務所に来た当初から何かを探していたらしい。
二つの話は、どこかでつながっているのだろうか。
「ありがとう。二人とも」
ローリーはそう言って、奥の小さな部屋へ向かった。
ジムが声をかける。
「仕事か?」
「ちょっと調べもの」
ローリーは振り返らずに答えた。
ドアを開け、部屋に入る。
机の上にはノートパソコンが置かれていた。
ローリーは椅子を引き、電源を入れた。
マイク・ハンター。
ニューヨークから戻ってきた弁護士。
そして、二十年前の事件。
ローリーは検索画面を開いた。
今度は、本人の口からではなく、記録に残された過去を調べるつもりだった。
ジムはノートパソコンを見つめるローリーを見ていた。
マイクの過去を調べている。
ジムは携帯を取り、マイクに電話をかけた。
