コンテンプト・オブ・コート 5-21
アンカレッジ。
マイクの事務所が入る建物の向かいに、古びた古本屋があった。
色あせた看板。
曇った窓ガラス。
入口の脇には、古本を詰めた段ボール箱が積まれている。
ローリーは店の前で足を止めた。
マイクの事務所に通うようになってから、何度もこの店の前を通っていた。
だが、立ち寄ったことはなかった。
ローリーはドアを開けた。
小さなベルが鳴る。
店内には、古い紙と埃の匂いが漂っていた。
壁際には背の高い本棚が並び、通路には段ボール箱が置かれている。
カウンターの奥で、白髪交じりの店主が本を読んでいた。
「いらっしゃい」
店主が顔を上げる。
ローリーは軽く頭を下げた。
「すみません。少しお話を伺いたいんですが」
「本を探してるのかい?」
「いえ、この向かいの建物について聞きたくて」
ローリーは窓の外を指した。
店主は窓の向こうを見た。
四階建ての古い建物。
その四階に、マイクの事務所がある。
「ああ、あそこか」
店主は本を閉じた。
「何か用でもあるのかい?」
「今、あそこの四階にある弁護士事務所で働いているんです」
「そうかい」
店主は少し考えた。
「ずいぶん古い建物だからね。昔も弁護士事務所だったよ」
ローリーはカウンターへ近づいた。
「以前も、弁護士事務所が入っていたんですか?」
店主の手が止まった。
「ああ。ずいぶん昔だけどね」
「どんな事務所だったんですか?」
店主は椅子に座り直した。
「女性の弁護士が一人でやっていたよ。真面目な人だったと聞いている」
ローリーは顔を上げた。
「女性弁護士……」
「ああ。確か、息子が一人いたはずだ」
店主は記憶をたどるように、天井を見た。
「もう二十年くらい前になるかな」
ローリーの表情が変わった。
「二十年前?」
「そう。ある日突然閉まったんだ」
「突然?」
「ああ。何の知らせもなくね」
店主はカウンターの上に手を置いた。
「しばらくして、あの弁護士は自殺したと聞いたよ」
ローリーは息を止めた。
「……自殺?」
「そう聞いた。詳しいことまでは知らないがね」
店主は肩をすくめた。
「それから、息子も行方不明になったらしい」
ローリーは何も言えなかった。
二十年前。
女性弁護士。
一人息子。
そして、突然の死と失踪。
偶然にしては、引っかかることが多すぎた。
「その方の名前は、覚えていますか?」
店主は眉を寄せた。
「名前か……。悪いね、覚えていない」
「どんな人だったか、ほかに何か知りませんか?」
「直接話したことはないんだ。店に本を買いに来る客から聞いた話ばかりでね」
店主は窓の外を見た。
「ただ、あの事務所には、ときどき男たちが出入りしていたらしい」
ローリーは店主を見た。
「男たち?」
「ああ。スーツを着た連中だったそうだ。弁護士の仕事に関係していたのかもしれないが、そこまでは分からない」
「警察は来なかったんですか?」
「さあね。私は見ていないよ」
店主は申し訳なさそうに首を振った。
「役に立てなくて悪いね」
「いえ……。ありがとうございます」
ローリーは小さく頭を下げた。
窓の向こうに、マイクの事務所が見える。
なぜ、彼はアンカレッジに戻ってきたのか。
ローリーは店を出た。
ベルが鳴り、背後でドアが閉まる。
冷たい風が頬を撫でた。
ローリーは向かいの建物を見上げた。
四階の窓には明かりがついている。
二十年前、あの場所には女性弁護士がいた。
店主の話が正しければ、その弁護士は自殺し、息子は行方不明になったという。
ローリーはしばらく建物を見つめていた。
