コンテンプト・オブ・コート 4-21
アンカレッジ連邦地方裁判所。
執務室。
マリベル・ヴァレンタイン裁判官は、机の前に座っていた。
向かいにはマイク・ハンターとエルマ・アトキンソン検事がいる。
机の上には、市長殺害事件の資料が広げられていた。
マリベルは一枚の書類を確認し、顔を上げた。
「弁護人が提出した証拠映像は不採用とします」
マイクはすぐに尋ねた。
「なぜですか?」
「裁判所の決定です」
マリベルは淡々と答えた。
「映像に映っている人物を、被告人と特定するのは困難です。映像の人物と被告人が同一人物であると確認できない以上、証拠として採用することはできません」
マイクは机の上の資料を見た。
「映像には撮影日時が記録されています。撮影場所も、証人の店です」
「それだけでは不十分です」
マリベルは書類を閉じた。
マイクは数秒、裁判官を見つめた。
「では、もう一つ。先日提出した、ロバート・ヘイズ裁判官の盗撮映像については?」
マリベルの表情は変わらなかった。
「裁判官の交代は認めません」
「理由は?」
「提出された映像だけでは、ヘイズ裁判官による行為だと断定できません。嫌疑を立証するには不十分です」
マイクは小さく息を吐いた。
「なるほど」
エルマが口を開いた。
「分かりました」
マリベルはエルマを見て、頷いた。
「以上です」
マイクは顔色を変えず、言った。
「専門家に映像を分析させても、無駄ですね」
マリベルがマイクを見る。
「どういう意味ですか?」
「最初から証拠として採用する気がない。専門家が何を証明しても、別の理由をつけて退けるんでしょう」
エルマが眉をひそめた。
「弁護人。裁判官の判断に従ってください」
マイクはエルマを見た。
「判断と決めつけは違いますよ、検事」
「何ですって?」
マリベルが指で机を叩いた。
「マイク・ハンター弁護士」
マイクはマリベルに視線を戻した。
「はい」
「警告します。虚偽の証拠や証言を使って、裁判を侮辱するようなことはやめなさい。後悔することになりますよ」
マイクは少し笑った。
「虚偽の証拠と証言ですか。まだ調べ終わっていないのに、勝手な判断ですね」
マリベルの目つきが変わった。
「今度は裁判官を侮辱するつもりですか?」
「事実を確認しているだけです」
「発言を取り消しなさい」
マイクは答えなかった。
マリベルが声を強める。
「ハンター弁護士。今すぐ発言を取り消しなさい」
マイクは椅子から立ち上がった。
「分かりました」
マリベルは表情を緩めなかった。
「よろしい」
マイクは机の上の資料をまとめた。
そして、ドアへ向かう前に振り返った。
「ただし、次の公判で提出する証拠は、絶対に棄却させません」
マリベルは黙ってマイクを見た。
マイクは続けた。
「お楽しみに」
それだけ言って、執務室を出た。
扉が閉まる。
室内には、マリベルとエルマだけが残った。
エルマが小さく息を吐く。
「馬鹿な男」
マリベルは机の上の書類に目を落とした。
「あなたも裁判に集中しなさい」
マリベルは証拠映像に関する書類を引き寄せた。
映像の人物がカーターだと特定できない。
それが、今回の不採用理由だった。
マリベルは書類を閉じた。
「次の公判までに、ほかの証拠も確認しておきなさい」
「分かりました」
エルマが執務室を出る。
マリベルは一人になった。
しばらくして、机の上の書類に手を置く。
次の公判。
マイク・ハンターは何を持ち出すつもりなのか。
それを考えながら、マリベルは窓の外へ目を向けた。
