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米ドロップボックス、独自の完全遠隔型勤務体制を維持

ドロップボックスは2020年、パンデミックを機に「Virtual First(バーチャル・ファースト)」制度を導入した。
リモートワークのイメージ(Getty Images)

コロナ禍を契機に急速に広がったリモートワークは、近年になって転換点を迎えている。米アマゾンやJPモルガン・チェース、グーグルなど多くの大企業が社員の出社回帰を進める一方、米クラウドサービス大手ドロップボックスは「バーチャル・ファースト」と呼ばれる独自の完全遠隔型勤務体制を維持し続けている。ドロップボックスの最高人事責任者(CPO)であるメラニー・ローゼンワッサー(Melanie Rosenwasser)氏はAP通信のインタビューで、、オフィス回帰の流れに逆行しながらも、リモートワークを成立させるための組織運営の実態を明らかにした。

ドロップボックスは2020年、パンデミックを機に「Virtual First(バーチャル・ファースト)」制度を導入した。従来型のオフィス中心主義を見直し、社員の大半が原則として在宅勤務を行う体制へ移行したのである。ローゼンワッサー氏は「対面でなければ生産性は上がらないという前提を、パンデミックが覆した」と説明し、柔軟性と自主性こそが現代の労働市場における新たな価値になっていると強調した。実際、同社は制度導入後も財務目標を達成し続けており、人材確保や離職率低下、コスト削減の面でも成果を上げているという。

同社が特徴的なのは、「ハイブリッド勤務」を明確に否定している点にある。多くの企業では週数日の出社を義務づける方式が採用されているが、ドロップボックスはこれを「最悪の形態」と位置づける。社員が長時間通勤したにもかかわらず、結局はオンライン会議に参加するだけという状況が発生するためだ。ローゼンワッサー氏は「公平な環境を作るには、全員が同じ条件で働く必要がある」と説明している。

その代わり、同社はオンライン前提の働き方を徹底的に設計している。基本は「非同期型コミュニケーション」であり、意思決定や議論の多くを文章ベースで行う。会議時間も厳格に制限され、「コア・コラボレーション・アワー」と呼ばれる4時間の共通時間帯のみをミーティングに充てる。残りの時間は各自が集中作業やメール対応に充てられる。さらに会議では「議論する」「討論する」「決定する」の3要素が存在しない限り開催しないというルールを設け、不要な会議削減を進めている。

また、社員の働く時間帯にも柔軟性を認めている。育児や介護に合わせて昼間に中断し、夜間に再開する働き方も容認されている。チームごとに勤務スケジュールを共有することで、互いの生活事情を踏まえた協力体制を構築しているという。こうした制度は家庭生活と仕事の両立を求める若い世代を中心に支持を集めている。

一方で、完全リモート勤務には課題も存在する。ローゼンワッサー氏は、「在宅勤務では私生活と仕事の境界が曖昧になり、燃え尽き症候群につながりやすい」と指摘した。また、長時間座り続けることによる健康問題も深刻化している。このため同社では「Meet & Move」という制度を導入し、会議中に歩行や軽運動を行う取り組みも進めている。さらに、会議が細切れに配置されることで集中力が失われる問題にも対応するため、曜日ごとに会議の種類を整理する運用改革を進めている。

リモート勤務では同僚との一体感をどう維持するかも重要課題となる。同社は少なくとも四半期ごとに対面のオフサイト会議を開き、戦略共有や交流の場を設けている。新人にはメンター制度を導入し、地域単位での交流イベントも開催している。オンライン中心でも組織文化を維持するため、人間関係づくりに意図的な投資を続けている形だ。

近年の研究では、リモートワークが地方在住者や低所得層にも高賃金職へのアクセスを広げる可能性があるとの指摘も出ている。一方で、都市部や高度技能労働者への集中を強める恐れもあり、社会的影響はなお議論が続いている。

コロナ禍後、多くの企業がオフィス回帰へ舵を切る中、ドロップボックスは「出社しない組織」を前提にした経営モデルを模索し続けている。働き方をめぐる実験は、依然として世界の企業社会の大きなテーマであり続けている。

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