ストレスを抑える「ボックス呼吸法」、なぜ効果があるのか、専門家が解説
ボックス呼吸法の特徴は、単にゆっくり呼吸するだけではなく、吸う、止める、吐く、再び止めるという4つの段階を同じ長さで繰り返す点にある。
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強い緊張や不安を感じたとき、呼吸を意識的に整えることでストレス反応を抑える「ボックス呼吸法」が注目されている。これは、息を4秒間吸い、4秒間止め、4秒間吐き、その後さらに4秒間止めるという呼吸を繰り返す方法だ。軍関係者やスポーツ選手、インフルエンサーなどにも利用されており、簡単に実践できるストレス対策として広がっている。
この方法を実践する米国在住のマリア・メディナ(María Medina)さんは、2020年にセラピストからボックス呼吸法を教わった。大学院で学びながらフルタイムで働いていた時期にコロナウイルスの流行が重なり、強いストレスを感じたことがきっかけだった。その後、故郷ベネズエラで大規模な地震が発生し、離れて暮らす家族や友人の安否を心配して眠れない夜を過ごした際にも、この呼吸法を繰り返したという。
ボックス呼吸法の特徴は、単にゆっくり呼吸するだけではなく、吸う、止める、吐く、再び止めるという4つの段階を同じ長さで繰り返す点にある。呼吸法の指導者スチュアート・サンダーマン(Stuart Thunderman)氏によると、4秒という時間は絶対的な決まりではなく、それぞれの時間を同じ長さに保つことが重要だという。数分間行うだけで効果を感じる人もいれば、15分程度続ける人もいる。
なぜ呼吸を変えるだけでストレスに作用するのか。その鍵の1つが二酸化炭素(CO2)だ。イギリスで医療従事者のメンタルヘルス支援に携わるヘレン・ガー(Helen Garr)医師は、特に「息を吐いた後に止める」最後の段階が身体的な変化を起こす重要な部分だと説明している。
息を止めると体内に二酸化炭素が徐々に蓄積する。脳が二酸化炭素濃度の上昇を検知すると、呼吸したいという強い欲求が生じる。これは身体が危険を察知した際の反応にも関係しており、場合によっては不安やパニックに近い感覚につながる。ボックス呼吸法では、この変化を安全な範囲で経験しながら、二酸化炭素濃度の変化に慣れることによって、ストレス反応をコントロールしやすくするという考え方だ。
実際、北米の研究者が行った最近の研究では、ボックス呼吸法が高いプレッシャーにさらされた人の心拍数やその他のストレス指標の大幅な上昇を抑える可能性が示された。この研究はテキサス州立大学とトロント大学ミシサガ校の研究者によって実施され、6月に「Comprehensive Psychoneuroendocrinology(コンプリメンシブ・サイコニューロエンドクリンオロジー)」に掲載された。ただし、呼吸法だけであらゆるストレスや不安が解消されると考えるべきではなく、効果の仕組みや長期的な有効性については今後も研究が必要だ。
ボックス呼吸法は軍事分野でも知られている。サンダーマン氏によると、米海軍特殊部隊SEALsが緊迫した状況に入る前などに呼吸を整える方法として利用していることで広く知られるようになった。また同氏はイングランドのサッカー代表チームにも呼吸法を指導したという。極度の緊張が予想される試験、プレゼンテーション、競技などの前に行うことで、注意を一点に集中させ、身体の過剰な緊張を抑えることが期待されている。
一方で、利用者の体験は一様ではない。カリフォルニア州に住むブリタニー・ラム(Brittany Lamb)さんは、朝起きたときに不安を感じた場合などにボックス呼吸法を実践している。呼吸に意識を向けることで頭の中の不安にとらわれる状態から離れ、自分の感情をコントロールできる感覚が得られるという。現在はライフコーチとして、クライアントとの面談開始時にも呼吸法を取り入れている。
重要なのは、ボックス呼吸法を「ストレスを消す魔法」と捉えないことだ。ストレスそのものをなくすのではなく、ストレスを感じた際に生じる心拍数の上昇や呼吸の乱れ、パニック感などに対して、自分で介入する手段の一つと考える方が適切である。呼吸は常に行っている身体機能であるため、特別な器具や場所を必要とせず、日常生活の中で実践しやすい点も利点となる。
現代社会では、仕事、人間関係、睡眠不足、災害や戦争など、個人では直接解決できないストレス要因も少なくない。だからこそ、呼吸という身近な身体機能を意識的に利用し、自律神経やストレス反応に働きかける方法には一定の意味がある。科学的な効果についてはさらなる検証が必要だが、ボックス呼吸法は強い緊張に直面したときに自分の状態を立て直すための、比較的簡単な選択肢の一つと位置付けられる。
