大人向けに復活したバンド合宿、青春時代の音楽を通じた仲間との絆
米国では近年、こうした大人向け音楽キャンプが急増している。
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子どもの頃に夢中になった吹奏楽や合唱、オーケストラの時間を、大人になってからもう一度体験したい。そんな願いをかなえる「大人向け音楽キャンプ」が米国各地で人気を集めている。退職後の趣味として楽器演奏を再開する高齢者だけでなく、仕事や子育てを終えた世代が参加し、音楽を通じた交流や自己表現の場として注目されている。
メーン州シドニーで開かれる「ニューイングランド・アダルト・ミュージック・キャンプ」はその代表例だ。1970年代に高校生として同地の音楽キャンプへ参加していた女性(71歳)は、数十年を経た現在も毎年参加を続けている。かつてはオーボエ奏者だったが、大人向けプログラムに参加したことをきっかけにトランペットにも挑戦したという。湖畔に囲まれた自然豊かな環境の中で、同じ趣味を持つ仲間と演奏する時間は「人生の雑事を忘れられる精神的な体験だ」と語る。
米国では近年、こうした大人向け音楽キャンプが急増している。AP通信によると、内容も多彩で、吹奏楽やジャズ、室内楽、オペラ、フォーク、ロックなど幅広いジャンルがそろう。初心者向けから上級者向けまでレベル別のコースが設けられており、学生時代に楽器経験がある人だけでなく、「昔やりたかったが機会がなかった」という未経験者でも参加できるのが特徴だ。
ワシントン州ワラワラで開催される「ミッドサマー・ミュージカル・リトリート」は1983年から続く老舗イベントで、オーケストラや合唱団、ジャズバンドなど複数の編成を用意している。主催団体は「競争ではなく、楽しみながら音楽を学ぶ環境づくり」を掲げ、毎年多くの愛好家が全米から集まる。
ペンシルベニア州サスケハナ大学で開かれる「バンド・キャンプ・フォー・アダルト・ミュージシャンズ」も人気を集める。創設のきっかけは、主催者が子どもの吹奏楽キャンプに感銘を受け、「大人にも同じ体験の場が必要だ」と考えたことだった。現在では退職者や会社員、医師、弁護士など多様な職業の参加者が集まり、中には「大学時代にチューバを売ってソファを買ったが、20年後にまた楽器を始めた」という人もいるという。
こうしたキャンプでは、単なる演奏指導だけでなく、参加者同士の交流も重視される。夕食会やキャンプファイヤー、コメディーイベント、オープンマイク企画などが恒例行事となっており、カヤックやヨガなど音楽以外の活動も充実している。参加者の多くは「学生時代の部活動や夏合宿のような一体感を再び味わえる」と魅力を語る。
専門家は音楽活動が心身に与える効果にも注目している。精神科医キャロル・リーバーマン(Carol Lieberman)氏は「音楽演奏は創造性を刺激し、気分を高める」と指摘。さらに楽器演奏によって脳の神経回路が活性化し、認知症予防につながる可能性もあるとしている。心理療法士のジョナサン・アルパート(Jonathan Alpert)氏も「子どもの頃に習った楽器を再び始めることは、記憶や集中力、運動機能を刺激し、精神的な満足感をもたらす」と分析する。
背景には、コロナ禍以降に深まった孤独感や社会的分断もあるとみられる。ニューハンプシャー州で地域音楽センターを運営するラス・グレージア(Russ Grazier, Jr.)氏は、高齢者の合奏参加者が近年倍増したと説明。「共通の趣味を持つ人と直接つながる場が、多くの人の人生から失われつつある。音楽キャンプはそれを取り戻す貴重な空間になっている」と話す。
