インド入試問題流出、落胆する医学生たち「真面目に勉強してきたのに...」
NEETはインド国内で医学部進学を希望する学生にとって事実上唯一の登竜門であり、毎年200万人を超える受験生が挑む超難関試験である。
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インドで医師を目指す若者たちの間に、深い失望と怒りが広がっている。発端となったのは、医科大学入学のための全国統一試験「NEET(National Eligibility cum Entrance Test)」を巡る問題だ。今月初めに実施された試験で問題の流出疑惑が浮上し、試験制度そのものへの信頼が大きく揺らいでいる。
NEETはインド国内で医学部進学を希望する学生にとって事実上唯一の登竜門であり、毎年200万人を超える受験生が挑む超難関試験である。わずかな医学部定員を巡り、学生たちは長期間にわたり厳しい受験勉強を続けてきた。しかし今回、一部地域で試験問題が事前に漏洩していた疑いが発覚し、公平性が損なわれたとして全国的な騒動へと発展した。
捜査当局によると、東部ビハール州などで受験生や仲介人らが拘束され、試験前日に問題用紙を入手していた可能性があるという。地元テレビ局は一部の受験生が高額な金銭を支払い、事前に問題を暗記していたとされる。捜査は中央捜査局(CBI)に引き継がれ、組織的な不正の実態解明が進められている。
こうした事態に対し、真面目に勉強を続けてきた受験生たちからは強い不満が噴出している。多くの学生は地方都市や農村部の出身で、家族総出で学費や予備校費用を工面してきた。中には数年間、他の進路を断念して受験勉強だけに人生を捧げてきた者も少なくない。それだけに、「努力が水の泡になった」「公平な競争ではなかった」との声が相次いでいる。
英BBCの取材に応じた受験生の1人は、「毎日10数時間勉強してきたのに、不正をした人間と同じ土俵で評価されるのは耐えられない」と語った。別の学生は、「地方出身者にとって、医学部進学は人生を変える唯一の機会だ」と訴え、試験制度への不信感をあらわにした。
問題は試験漏洩疑惑だけではない。5月のNEETでは満点取得者が前年から急増したことや、採点結果に不自然な点数が見られたことでも批判が高まった。SNS上では「本当に公正な試験だったのか」という疑問が拡散し、大規模な抗議デモへと発展した。最高裁判所も審理に乗り出し、「試験の神聖性が損なわれた」との認識を示した。
背景には、インド社会における過酷な受験競争がある。人口14億人を超えるインドでは、高収入と社会的地位を得られる医師は依然として人気職業であり、医学部の座席数は需要に対して圧倒的に不足している。そのため、一発勝負の試験に人生が左右される構造が生まれ、不正行為を助長する温床になっている。
近年、インドでは公務員試験や大学入試などでも「ペーパーリーク」と呼ばれる問題流出事件が相次いでいる。試験問題を印刷所や輸送段階で盗み出し、SNSやメッセージアプリを通じて販売する犯罪組織も存在するという。専門家は巨額の利益を生む「教育マフィア」が背後にいる可能性を指摘している。
中央政府は再発防止に向け、試験運営体制の見直しを進めている。問題用紙輸送時のGPS監視や監視カメラの設置、さらにはコンピューター方式試験への移行などが議論されている。しかし、受験生の間では「制度改革だけでは信頼は回復しない」との冷ややかな見方も強い。
今回の騒動は単なる不正にとどまらず、インド社会が抱える教育格差や過度な競争社会の歪みを浮き彫りにした。医師を夢見て努力を続けてきた若者たちにとって、失われたのは試験の公平性だけではない。自らの努力が正当に評価されるという、社会への信頼そのものなのである。
