人工知能研究者の10%以上が、人類を滅ぼすと考えている
2026年9月時点で、「AIがすべての人間を殺す可能性が10%以上ある」という主張をそのまま事実として断定することはできない。

現状(2026年9月時点)
2026年9月現在、人工知能をめぐる議論は「便利な道具が人間の仕事を奪うのか」という段階から、より根本的な問いへ移りつつある。それは、将来の人工知能が人間をはるかに上回る知的能力を獲得した場合、最終的に人間がその行動を制御できなくなる可能性はどの程度あるのか、という問題である。
この議論を一気に注目させたのが、2026年9月に報じられたアンソロピックの研究者らによる警告である。同社のアラインメント研究者エヴァン・ハビンガーは、今後10年以内に人工知能によって人類が絶滅する可能性について、10%を超えるとの見方を示したと報じられている。さらに、元アンソロピック研究者のジェイコブ・コクソンが、人工知能研究企業が自己改善する超知能の開発競争を安全対策より優先しているとして退社し、この問題を公に批判したことで議論が拡大した。
ただし、「人工知能研究者の10%以上が、人類を滅ぼすと考えている」という表現には注意が必要である。実際には、研究者全体の一定割合が「人工知能によって人類絶滅級の結果が発生する確率」に10%以上を割り当てているという調査結果と、特定の研究者が自分自身の主観的な確率を10%以上と評価しているという事実が混在しているからである。
この違いを無視すると、「研究者の大半が人工知能による人類絶滅を予言している」という誤った印象につながる。逆に、「10%という数字は単なる空想だから無視してよい」と片付けることも、現在の専門家の間で実際に存在する重大な懸念を過小評価することになる。
AIの存亡リスクの概要
ここでいう人工知能の存亡リスクとは、人工知能によって人類の文明そのものが破壊されたり、人類が絶滅したり、将来世代が存在できなくなるほど重大な被害を受けたりする可能性を指す。単純な誤作動や失業問題とは異なり、対象となるのは人類社会の存続そのものに関わるリスクである。
想定される経路はいくつかある。一つは、人間が人工知能を悪用して大規模なサイバー攻撃、生物兵器開発、情報操作などを行う経路であり、もう一つは、人工知能そのものが人間の意図から外れた目的を持ち、人間の監督を回避しながら自律的に行動する経路である。
後者が特に難しいのは、現在の人工知能が単独で社会を支配しているという話ではない点にある。問題は、将来的に人工知能が高度な推論能力、計画能力、プログラム作成能力、説得能力、自己改善能力などを同時に獲得した場合、人間がその能力を十分に理解できないまま利用することになる可能性にある。
つまり、問題の核心は「人工知能が人間を嫌うかどうか」ではない。人間に敵意を持っていなくても、与えられた目標を達成するための手段が人間の利益と衝突し、その衝突を人間側が止められなければ、重大な結果につながる可能性があるという考え方である。
主な発言者と背景
この問題を語る際に重要なのが、人工知能研究の第一人者であるジェフリー・ヒントンと、現在の安全研究の中心人物の一人であるエヴァン・ハビンガーである。両者には共通している部分がある一方、警告の根拠や時間軸には違いがある。
ヒントンは、ニューラルネットワークを利用した人工知能研究の発展に大きく貢献した人物であり、一般には「AIのゴットファーザー」と呼ばれることがある。2024年には人工知能分野への貢献などを背景としてノーベル物理学賞を受賞し、人工知能の可能性だけでなく、その制御不能性についても積極的に発言するようになった。
ヒントンは2024年12月、人工知能が今後30年間に人類絶滅を引き起こす確率について10~20%という評価を示した。これは「20%の確率で必ず人類が滅びる」という予言ではなく、極めて不確実な将来について、専門家自身が無視できない大きさの確率を設定していることに意味がある。
一方、2026年9月に注目を集めたハビンガーの発言は、時間軸がより短い点で衝撃が大きい。報道によれば、ハビンガーは今後10年以内に人工知能によって人類が絶滅する可能性について10%以上と評価しており、これは2024年に公表された大規模な研究者調査とも関連して議論されている。
ここで重要なのは、ハビンガーが人工知能の危険性を外部から批判している人物ではなく、人工知能企業の内部でアラインメント研究に携わっている人物だという点である。開発側に近い研究者自身が、将来の高度な人工知能について10%以上という確率を口にしていることが、今回の問題を単なる外部の悲観論とは異なるものにしている。
ジェフリー・ヒントン(「AIのゴットファーザー」、ノーベル物理学賞受賞者)
ヒントンの警告で特に重要なのは、彼が人工知能そのものを否定しているわけではないことである。むしろ自身が人工知能技術の発展に大きく貢献してきたからこそ、その進歩速度が当初の予想を上回っていることに危機感を抱いている。
ヒントンが繰り返し指摘しているのは、人類がこれまで「自分たちより知的な存在」を管理した経験を持っていないという問題である。人間より知能の高い存在が登場した場合、人間が従来の道具と同じような方法でそれを完全に制御できるという保証は存在しないという考え方である。
さらにヒントンは、人工知能の開発を企業の利益追求だけに委ねることへの懸念も示している。開発競争では、ある企業が安全性を理由に速度を落とした場合、別の企業が先行する可能性があるため、個々の企業が安全を優先したくても競争圧力によって開発を加速させる構造が生まれるからである。
この問題は、人工知能の危険性をめぐる議論において非常に重要である。仮に一社だけが慎重になっても、世界全体の競争が続けば技術開発そのものを止めることはできないため、最終的には企業単位ではなく国家間、さらには国際社会全体の調整が必要になる。
そして、ヒントンの10~20%という数字を評価する際には、その数字自体を科学的に確定した値とみなしてはならない。人工知能が人類を絶滅させるという事象には過去の統計データが存在せず、確率を厳密に計算できる対象ではないため、これは専門家による主観的なリスク評価として理解する必要がある。
しかし、そのことは数字に意味がないことを意味しない。むしろ重要なのは、人工知能研究の最前線にいた人物が、極端な結果についてさえ無視できない確率を設定するほど、技術の進歩と制御問題を深刻に見ているという事実である。
