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豪州シドニー銃乱射、王立委員会の公聴会始まる、ユダヤ系住民が証言

この委員会は15人が死亡した同事件の背景と国内の反ユダヤ主義の広がりを調査するために設置されたもので、初日の証言にはユダヤ系オーストラリア人が出席し、日常生活の中での差別や脅迫の経験を語った。
2025年12月29日/オーストラリア、シドニー近郊、銃撃事件が発生した現場近く(AP通信)

2025年12月にオーストラリア・シドニーのボンダイビーチで発生した銃撃事件をめぐり、反ユダヤ主義と社会的結束に関する「王立委員会」による公聴会が5月4日から始まり、ユダヤ系住民から事件前に憎悪が急増していた実態が明らかになった。

この委員会は15人が死亡した同事件の背景と国内の反ユダヤ主義の広がりを調査するために設置されたもので、初日の証言にはユダヤ系オーストラリア人が出席し、日常生活の中での差別や脅迫の経験を語った。証言者の中には安全への懸念から匿名で出廷する者もおり、コミュニティ全体に恐怖と不安が広がっている現状が浮き彫りとなった。

事件は2025年12月14日、シドニーのボンダイビーチで開かれていたユダヤ教の祭り「ハヌカ」の最中に発生し、武装した2人の男が銃を乱射して15人が死亡した。実行犯の親子は合法的に銃を所持し、当局は過激派組織「イスラム国(IS)」に触発された犯行とみている。この事件は銃規制が厳しいオーストラリアに大きな衝撃を与え、社会的分断や安全対策の不備が問われる契機となった。

王立委員会のバージニア・ベル(Virginia Bell)委員長は公聴会の中で、反ユダヤ主義の急増は中東情勢、とりわけ2023年10月に始まったガザ紛争と明確に関連しているとの見解を示した。また、その影響はオーストラリア国内にも波及し、ユダヤ人であるという理由だけで敵意を向けられる事例が急増したと指摘した。

実際、証言では事件以前から嫌がらせや暴言、脅迫、施設への破壊行為が増えていたことが明らかにされた。ある被害者の家族は、事件の1年前にショッピングセンターで幼い子どもを抱えていた際、身につけていたダビデの星のネックレスを理由に見知らぬ人物から暴言を浴びせられたと語った。また、学校や宗教施設では警備が強化され、日常的に緊張状態が続いているとの指摘もあった。

さらに、ユダヤ系住民の間では社会からの疎外感が強まり、国外への移住を検討する動きも出ている。子どもたちが通う学校では武装警備員が配置され、通常の教育環境が損なわれているとの証言もあり、生活のあらゆる場面で安全確保が最優先となっている現状が示された。

今回の公聴会は単に事件の経緯を検証するだけでなく、こうした差別や憎悪の拡大がどのようにして社会に根付いたのかを解明することを目的としている。委員会は法執行機関の対応、情報共有の不足、オンライン上での過激化など、複合的な要因を分析し、再発防止策を提言する方針である。

すでに公表された中間報告では、銃規制の強化や対テロ対策の見直し、ユダヤ人関連施設の警備強化などが提言されている。特に、犯行に使用された銃が合法的に取得されていた点は制度上の課題として重視され、全国的な規制の統一や監視体制の強化が求められている。

公聴会は今後も続き、最終報告は事件から1年となる2026年12月までにまとめられる予定である。証言を通じて明らかになりつつあるのは、単発のテロ事件ではなく、その背後にある長期的な社会の緊張と分断である。オーストラリア社会が多文化共生を掲げてきた中で、反ユダヤ主義の拡大にどう向き合うかが大きな課題となっている。

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