SHARE:

米最高裁、人種に基づく区割りで法の適用制限、投票権法

今回の判決は2010年代以降続く最高裁による投票権保護の後退の流れの一環とも位置付けられる。
2026年4月7日/米ワシントンDC、最高裁判所(AP通信)

連邦最高裁は4月29日、1960年代の公民権運動の中核法である投票権法の重要な規定を大きく弱める判断を示した。ルイジアナ州の黒人多数選挙区を無効とする今回の判決は、少数派有権者の政治的代表を拡大してきた長年の法的枠組みに転機をもたらし、今後の選挙区再編や連邦議会の勢力図に広範な影響を与える可能性がある。

問題となったのは、ルイジアナ州で設定された黒人多数の下院選挙区である。下級審は同州の人口構成を踏まえれば黒人有権者の影響力を適切に反映するため追加の多数黒人区が必要だとして区割り変更を命じていた。しかし、最高裁は6対3の保守派多数でこれを覆し、この区割りは人種に過度に依拠した「違憲の人種的ゲリマンダリング」に当たると判断した。

多数意見を執筆した判事は、選挙区設計において人種を主要な要素とすることに強い制約を課すべきだとし、投票権法に基づく措置であっても無制限には正当化されないと述べた。この判断は、これまで少数派の票の希釈を防ぐために用いられてきた同法第2条の解釈を実質的に変更するものである。

1965年制定の投票権法は、公民権運動の象徴的成果として、黒人を中心とする少数派の選挙参加を保障し、差別的な選挙制度を是正する役割を果たしてきた。特に第2条は、選挙区の線引きが少数派の政治的影響力を不当に弱めていないかを問うための主要な法的手段であり、全米の数十の選挙区に影響を与えてきた。

しかし、今回の判決はこの第2条の適用範囲を狭めるものと受け止められている。今後は原告側が人種差別の「意図」を証明する必要性が強まる可能性があり、単に結果として少数派の影響力が弱まっているだけでは違法と認められにくくなるとの見方が広がる。

これに対し、リベラル派判事らは強く反発した。ケイガン(Elena Kagan)判事は反対意見で、この判断は投票権法を事実上「解体」するものだと批判し、議会が意図した少数派保護の仕組みを損なうと警告した。市民権団体や民主党関係者からも、今回の判決は民主主義と少数派の代表性に対する後退だとの声が上がっている。

一方、保守派や共和党関係者はこれを支持し、人種に依存しない「中立的な」区割り原則を守る判断だと評価している。彼らは、従来の解釈が特定の人種や政党に有利に働いていたと主張し、今回の決定が憲法の平等原則に沿うものだと位置付けている。

政治的影響も大きい。今回の判断により、共和党が主導する州で選挙区再編が進み、黒人やヒスパニック系が多数を占める選挙区が減少する可能性が指摘されている。その結果、民主党に有利とされてきた議席が減り、連邦下院の支配権争いに影響を及ぼすとの見方がある。

もっとも、直近の選挙への影響は限定的との指摘もある。多くの州で選挙準備が進んでおり、制度変更の影響が本格的に現れるのは次期以降、2028年選挙になる可能性が高いという。

今回の判決は2010年代以降続く最高裁による投票権保護の後退の流れの一環とも位置付けられる。過去の判例で既に連邦の監督権限や選挙区規制の枠組みが縮小されてきた中で、今回の判断は残された重要な規定にも大きな制約を加えた形となった。

この結果、今後は各州の裁量が一層広がり、選挙区の線引きを巡る争いが激化するとみられる。少数派の代表性をどのように確保するかという問題は、法廷闘争だけでなく政治的対立の焦点としても、引き続き米国社会に大きな影響を及ぼすことになりそうだ。

この記事が気に入ったら
フォローしよう
最新情報をお届けします