◎キーウ郊外のブチャで報告されたジェノサイドを受け、EUも制裁を強化すべきという国際的な圧力が高まっている。
2015年6月16日/ロシアの炭鉱(Phelan M. Ebenhack/AP通信)

EU当局は5日、ロシア産石炭の輸入禁止を提案した。

フォン・デア・ライエン委員長は声明の中で、「ロシア軍が意図的にウクライナの市民を殺害した可能性があるという証拠と、首都キーウ近郊で行われた”凶悪犯罪”を受け、EUはロシアのプーチン大統領に対する圧力を強化する必要があると判断した」と述べた。

また委員長は石炭の輸入禁止はロシアから年間40億ユーロ(約5,400億円)を奪うことになり、EUはすでに石油の禁輸を含む追加制裁の準備に着手していると述べたが、天然ガスには言及しなかった。

ロシアの天然ガスに依存している一部のEU加盟国は禁輸に強く反対している。

EUはこれまで、ロシア産化石燃料の禁輸が欧州を不況に陥れるという懸念から、エネルギー制裁に消極的だった。天然ガスと石油の禁輸で加盟国の同意を得ることは難しいが、キーウ郊外のブチャで報告されたジェノサイドを受け、EUも制裁を強化すべきという国際的な圧力が高まっている。

一部のEU加盟国はロシアとの関係を断つ取り組みを進めている。

ポーランドは石炭と石油の禁輸に踏み切る方針で、リトアニアは天然ガスの輸入終了を発表した。

フォン・デア・ライエン委員長は、「明確な立場をとることが欧州だけでなく、世界にとっても重要だ」と述べた。「プーチンの戦争に反対する姿勢。民間人の虐殺に反対する姿勢。そして、世界秩序の基本原則の侵害に反対する明確な姿勢を示す必要があります」

ブリュッセルのシンクタンク、ブリューゲルのエネルギー政策専門家であるタグリアピエトラ氏によると、ロシアが欧州から得る収入は天然ガスと石油が1日あたり8億5000万ユーロ(約1,150億円)であるのに対し、石炭は現在の価格で1日あたり2,000万ユーロ(約27億円)に過ぎないという。

タグリアピエトラ氏はAP通信の取材に対し、「石炭禁止はタブーを破るという意味では重要だが、ゲームチェンジャーではない」と述べた。「プーチンを金持ちにし、戦争の資金を維持しているのは石炭ではありません」

この提案を含む新たな制裁を発動するために、加盟27カ国の全会一致が必要である。

EU執行部が提案した他の制裁には、より多くの個人と、ロシア第2位の銀行であるVTBを含むロシアの主要銀行4行に対する制裁が含まれている。

フォン・デル・ライアン委員長は、「我々が市場から完全に切り離す4行は、ロシアの銀行産業の市場シェアの23%を占めている」と説明した。「制裁はロシアの金融システムをさらに弱体化させるでしょう」

また、農産物、食品、人道支援、エネルギーなどの必需品を除き、ロシアが運営する船舶のEU加盟国への入港を禁止する予定である。

さらに、量子コンピューター、半導体、精密機械、輸送機器といった分野を対象に、100億ユーロ(約1.35兆円)に相当する輸出禁止措置も提案する。

しかし、焦点はエネルギーである。EUの貿易委員はソーシャルメディアに、「昨年のロシアの対EU輸出の62%が液化石油ガスだった」と投稿している。「もし本当にロシアの経済に影響を与えたいのであれば、そこに目を向ける必要があります。そして、それこそが、新たな制裁措置の導入で議論すべきことなのです」

EUは気候変動対策に基づき、石炭火力からの脱却を進めている。石炭の消費量は1990年から2020年の間に年12億トンから4億2700万トンに減少したが、輸入量は消費量の30%から60%に増加した。

石炭は船で輸送し、供給元は世界に複数あるため、天然ガスや石油よりはるかに代替しやすいと思われる。ドイツの石炭輸入業者協会は先月、ロシア産石炭は数カ月で代替できると述べていた。

しかし、欧州の輸入切り替えは石炭価格の高騰を後押しし、同じく石炭に依存している開発途上国や新興国に影響を与える可能性が高い。

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