「赤ワインを冷やして飲む」常識にとらわれないZ世代
専門家は、ワインには絶対的な飲み方のルールはなく、季節や料理、個人の好みに応じて自由に楽しむことが本来の魅力だと指摘する。
.jpg)
「赤ワインは常温で飲むもの」という長年の常識が、欧州を中心に大きく変わりつつある。特に記録的な猛暑が続く今夏には、冷やした赤ワインを楽しむスタイルが急速に広がり、その流行をけん引しているのがZ世代をはじめとする若年層だ。ワイン業界では、伝統的なルールよりも「おいしく飲めるかどうか」を重視する価値観への転換が起きており、専門家も「軽めの赤ワインなら冷やして飲むことは十分理にかなっている」と評価している。
イギリスでは近年、夏の高温化が続く中で「赤ワインは冷やして飲んでもよい」という考え方が急速に浸透した。オンラインスーパーのオカド(Ocado)が実施した調査では、Z世代とミレニアル世代の56%が夏に冷やした赤ワインや氷を入れた赤ワインを飲んだ経験があると回答した。一方、全世代では約3分の1にとどまり、若い世代ほど既存の飲酒ルールに縛られない傾向が鮮明となった。また、「チルド・レッド(冷やした赤ワイン)」の検索件数は前年から10倍以上に増加し、関連商品の売り上げも大幅に伸びているという。
背景には、猛暑への対応だけではなく、ワインに対する価値観の変化がある。従来のワイン文化では、「赤ワインは室温」「白ワインは冷やす」という提供方法が半ば常識として受け入れられてきた。しかしイギリスでいう「室温」は、もともと石造りの建物が多く室内温度も16~18度程度だった時代の基準であり、夏場に室温が25度を超える現代の住宅環境では、赤ワインをそのまま提供するとアルコール感が強くなり、風味のバランスが崩れやすいとされる。気温の上昇を受け、ワイン評論家やソムリエの間でも「現在の室温は本来の適温ではない」との認識が広がっている。
専門家によると、冷やして飲くのに適しているのは、タンニンが穏やかで果実味の豊かな軽めの赤ワインである。ボジョレーやガメイ種、ピノ・ノワール、ランブルスコ、グルナッシュ主体のワインなどは冷蔵庫で20~30分ほど冷やすことで酸味や果実の香りが際立ち、暑い季節でも爽やかに楽しめる。一方、重厚なボルドーや樽熟成の強いフルボディタイプは冷やし過ぎると香りが閉じてしまうため、従来通り比較的高めの温度で提供する方が望ましいという。
こうした変化は、単なる飲み方の流行にとどまらない。Z世代はワインそのものに対しても、格式や知識を競う対象ではなく、日常的に楽しむ飲み物として捉える傾向が強い。産地や格付け、専門用語よりも、自分の好みや飲みやすさを重視し、「ルールより体験」を優先する消費行動が特徴だ。ワイン業界では、従来の堅苦しいイメージが若い消費者を遠ざけてきたとの反省もあり、近年は気軽さや親しみやすさを前面に打ち出した商品開発や販売方法が増えている。冷やした赤ワインの人気も、こうした流れの延長線上にあると分析されている。
実際、スペインやポルトガルなど南ヨーロッパでは、以前から赤ワインを少し冷やして飲む習慣が根付いており、イギリスで「新しい」とされるスタイルも、地中海地域ではごく一般的な楽しみ方だった。近年はSNSを通じて各国の食文化が共有されるようになり、若い世代を中心に海外のライフスタイルを柔軟に取り入れる動きが加速している。ワインの世界でも、「こう飲まなければならない」という固定観念より、「自分がおいしいと感じる飲み方」が尊重される時代になりつつある。
専門家は、ワインには絶対的な飲み方のルールはなく、季節や料理、個人の好みに応じて自由に楽しむことが本来の魅力だと指摘する。冷やした赤ワインの流行は、猛暑への実用的な対応であると同時に、伝統を尊重しながらも新しい価値観を受け入れるZ世代のライフスタイルを象徴する現象として、世界のワイン市場にも少なからぬ影響を与え始めている。
