先週、デンマーク政府はコロナウイルスに感染したミンクから突然変異したウイルスが発見されたため、国内の養殖場で飼育されている約1,700万匹を殺処分すると発表した。
その後、メッテ・フレデリクセン首相は殺処分計画に法的根拠がないことを認め、ミンク淘汰の衝撃は抗議運動に変わった。
デンマーク当局は、変異型のコロナウイルスがさらなるパンデミックを引き起こし、ワクチン開発に深刻な影響を与えると懸念している。
ミンク養殖農家
ミンク養殖農家のマーティン・フロム氏はBBCニュースの取材に対し、「私たちは65,000匹を飼育している。しかし、来週、彼らは淘汰される」と語った。
フロム氏は財産が淘汰されることについて、「不当に思える。これでミンク養殖事業は終わりだ」と怒りをあらわにした。
フロム氏は毛皮農家の三代目。同じような境遇の養殖農家が涙を流し、訴えている。
デンマークのミンク殺処分は数週間前から始まり、これまでに少なくとも285万匹が処理された。
ミンクのコロナウイルス感染はユトランド半島の237の養殖場で確認され、さらに33の養殖場が感染を疑われている。
デンマーク獣医食品局によると、116の養殖場で処理が完了し、作業は現在も継続中だという。
変異型ウイルスとクラスター5
デンマークはミンクのコロナウイルス感染を最初に報告した国ではない。
ミンクの感染が確認された国はスペイン、スウェーデン、イタリア、アメリカなど。オランダ政府は、来年春までミンクの養殖を禁止している。
変異型のコロナウイルスを検出したのは、コペンハーゲンのスタテンズ血清研究所(SSI)の科学者たち。彼らは警告を発し、その後、殺処分と北西部地域のロックダウンが決まった。
野生動物由来のコロナウイルスは人間に感染し、養殖場のミンクに到達したと考えらえている。
ミンクから抽出された変異型のウイルスは「クラスター5」と呼ばれる新たなパンデミックを引き起こすと懸念されており、当局は12人が変異型ウイルスに感染したと報告した。
SSIの研究責任者、アンダース・フォムガード教授は、「ワクチンの心配はあくま想定」と強調した。
一方、「政府の対応は過剰反応」「感染地域外の殺処分はやりすぎ」という意見も噴出している。
首相「急いでいた」
10日、政府は全国に殺処分命令を出すための法的根拠がなく、一部地域内のミンクを処理する管轄権しか持っていなかったと認めた。
フレデリクセン首相は議会に謝罪し、「全国に対する性急な殺処分命令は間違いだった」と述べた。
メッテ・フレデリクセン首相:
「新しい法律が必要なことは明らかだった。しかし、急いでいた。申し訳ありません」
政府は緊急立法で問題解決を図る構えだが、野党の支持を得られる可能性は低く、議会通過までにはかなりの時間を要すと思われる。
自由党のヤコブ・エレマン・ジェンセン議長は謝罪を「衝撃」と呼び、「養殖農家への補償を最初に行うべきだった」と厳しく非難した。
モーゲンス・イェンセン食品・農業・水産大臣は議会で、「間違いがあった。しかし、変異型ウイルスは目の前に迫っており、ミンクが感染源になることは明らかだった」と述べた。
毛皮ビジネス
デンマークには1,000以上のミンク養殖場があり、業界団体、コペンハーゲン・ファーのテージ・ペダーセン氏は殺処分を「災害」と呼んでいる。
テージ・ペダーセン氏:
「今回の措置は毛皮産業の恒久的な閉鎖と清算を意味する。約6,000人の労働者が影響を受けるだろう」
デンマークの毛皮産業の2018-2019年売上高は約10億ドル(1,050億円)。毛皮の取引相手は衣料産業が大半を占め、一部、つけまつげ製品などにも使用されている。
コロナウイルスはデンマ―クとオランダの養殖ミンクを打ちのめした。
なお、イギリスとオーストリアは数年前に毛皮の生産を停止し、ドイツ、ベルギー、フランス、ノルウェーも段階的に廃止する予定である。
業界団体、ファー・ヨーロッパは、天然毛皮の需要はまだまだ高いと述べた。
一方、デンマークの動物権利団体は、他のヨーロッパ諸国の例に従い、毛皮貿易を段階的に停止する時が来たと主張している。