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加熱式たばこ値上げの背景と構造的要因、喫煙者の行動変わる?逆風に直面するたばこ業界の今後

2026年の加熱式たばこ値上げは、単なる小売価格の上昇ではない。その背景には、加熱式たばこの普及によって従来の課税方式と製品実態の間に生じたずれを修正し、紙巻きたばことの税負担の公平性を高めようとする制度変更がある。
加熱式タバコのイメージ(Getty Images)
現状(2026年9月時点)

2026年の日本のたばこ市場では、加熱式たばこを中心に価格上昇が進んでいる。背景にあるのは単純な企業側の値上げではなく、加熱式たばこに対する課税方式の見直しであり、2026年4月と10月の2段階で税負担が引き上げられる仕組みが導入されたことが大きい。

2026年9月時点では、4月の第1段階がすでに実施され、10月1日には第2段階が予定されている。例えばフィリップ・モリス・ジャパンでは、4月に「テリア」が580円から620円、「センティア」が530円から570円となり、10月にはさらに「テリア」が640円、「センティア」が590円となる予定で、3月以前と比較するとそれぞれ60円の上昇となる。

JTでも同様の動きが確認できる。10月1日から「エボ」は580円から620円、「メビウス」は550円から590円、「キャメル」は530円から570円へ引き上げられる予定であり、特にメビウスは2026年3月以前の価格からみれば合計70円の上昇となる。

この価格改定は、加熱式たばこがもはや「紙巻きたばこより安い代替商品」というだけでは説明できない段階に入ったことを示している。従来は価格差が加熱式たばこへの移行を促す要因の1つとなっていたが、課税方式の変更によってその価格優位性が縮小し、喫煙者が製品そのものを再評価する局面に入ったと考えられる。

一方、価格上昇だけを理由として喫煙者が一斉に禁煙へ移行するとみるのも適切ではない。ニコチン依存の強さ、喫煙習慣、所得水準、製品への嗜好、紙巻きたばこと加熱式たばこの使い分けなどによって反応は異なり、今後は「継続する層」と「消費を減らす層」の差が拡大する可能性がある。

さらに重要なのは、加熱式たばこをめぐる政策環境が税制だけで構成されているわけではない点である。厚生労働省の2026年の専門委員会では、加熱式たばこについて有害物質の発生や受動曝露に関する知見が整理されている一方、人体への影響については現時点で十分な科学的知見が蓄積されているとはいえないとの整理も示されている。

つまり、2026年9月の加熱式たばこ市場は、増税による価格上昇、健康政策上の議論、消費者の価格意識、製品間競争が同時に作用する転換期にある。10月の追加値上げは単なる半年後の価格改定ではなく、加熱式たばこの市場ポジションそのものを変える契機となる可能性がある。

加熱式たばこ値上げの背景と構造的要因

今回の値上げを理解するには、まず加熱式たばこの課税方法そのものを見る必要がある。紙巻きたばこでは1本単位の重量や税率を基準に課税されるのに対し、加熱式たばこは製品構造が異なるため、従来は紙巻きたばこに換算する独自の仕組みが採用されてきた。

政府はこの換算方法について見直しを行い、2026年4月と10月の2段階で新しい方式への移行を進めている。2026年4月からは旧方式と新方式を組み合わせた経過措置が入り、10月からは新方式が全面的に適用されることになる。

この変更の背景には、紙巻きたばこと加熱式たばこの間で生じていた税負担の差を縮小するという考え方がある。加熱式たばこの普及によってたばこ市場の商品構成が変化するなか、同じニコチンを含むたばこ製品でありながら、製品形態によって税負担が大きく異なる状態をそのまま維持することには制度上の問題が生じるためである。

ここで重要なのは、今回の値上げが企業の自由な価格設定だけによって生じているわけではないという点である。課税方式の変更によって企業側の税負担が変わり、その影響を小売価格へ反映する形で各社が価格改定を申請し、財務省の認可を経て実施するという構造になっている。財務省は2026年にも製造たばこの小売定価について複数の認可を公表している。

もっとも、税負担が増えた分だけ価格が上昇するとは限らない。企業は税負担、製造・物流コスト、販売促進費、ブランド価値、競合製品との価格差などを総合的に判断して小売価格を決定するため、同じ税制変更でも銘柄ごとの値上げ幅には違いが生じる。

実際、2026年4月にはJTやフィリップ・モリス・ジャパンが加熱式たばこの主要銘柄を値上げした一方、BATジャパンの一部製品では価格を据え置く対応もみられた。これは、増税という共通条件の下でも、企業が市場シェアやブランド間の価格差を考慮しながら異なる価格戦略を採用していることを示している。

したがって、今回の値上げは「税金が上がったから価格が上がった」という一段階の話ではない。税制変更→企業のコスト増加→価格改定→消費者の購買行動→企業の再度の価格・商品戦略という循環が形成されつつあり、2026年はその最初の大きな転換点と位置づけられる。

また、2026年の特徴は値上げが1回で終わらないことである。4月と10月という半年間隔で段階的に価格が引き上げられるため、消費者にとっては一度価格に適応した直後に再び価格を意識することになる。この連続的な価格変化が、喫煙本数、銘柄選択、紙巻きたばこへの回帰、禁煙・節煙などの行動にどの程度影響するかが、今後の市場を左右する重要な論点となる。

課税方式の見直し(税負担の公平化)

加熱式たばこの値上げを考えるうえで中心となるのが、2026年に実施された課税方式の見直しである。従来の加熱式たばこは、紙巻きたばこと製品の構造が異なるため、重量などを基準に紙巻きたばこへ換算して課税する方式が採用されていたが、政府はこの仕組みを見直し、2026年4月と10月に段階的な移行を進めている。今回の制度変更は、製品形態の違いによって生じていた税負担の差を縮小し、たばこ製品間の課税の公平性を高めることが大きな目的となっている。

この問題の本質は、加熱式たばこの普及によって「何をたばことして課税するのか」という従来の制度設計そのものが難しくなった点にある。紙巻きたばこを前提に構築された課税体系では、たばこ葉を加熱して蒸気を発生させる加熱式製品との間で、単純な重量比較だけでは実際の製品価値や使用実態を十分に反映できないという問題が生じるためである。

政府が課税方式を変更したことで、加熱式たばこは「紙巻きたばこと比べて税負担が相対的に軽い製品」という位置づけから、より紙巻きたばこに近い税負担を求められる製品へと移行している。これは加熱式たばこを普及させてきたメーカーの価格戦略にも直接影響し、結果として消費者が店頭で支払う価格にも反映されることになる。

もっとも、税負担の公平化と消費者にとっての価格負担は同じ問題ではない。税制上は製品間の負担を近づけることが目的であっても、実際の小売価格は企業の価格設定やコスト構造によって決まるため、増税額と値上げ額が完全に一致するとは限らない。

「600円の壁」の突破とコスト高

2026年の値上げを象徴するのが「600円の壁」である。4月の改定ではフィリップ・モリス・ジャパンの「テリア」が580円から620円となり、主要銘柄の一部が600円台へ移行したうえ、10月には640円となる予定である。

「600円の壁」は法律上の基準でも経済学上の明確な境界でもないが、消費者心理を考えるうえでは一定の意味を持つ。例えば580円と620円では差額は40円にすぎないものの、「500円台」と「600円台」では商品価格を認識する際の心理的なカテゴリーが変わる可能性がある。

さらに問題となるのは、1箱単位の値上げを年間の支出に置き換えた場合である。仮に1日1箱を購入する人が1箱当たり60円高い製品を1年間購入すれば、単純計算で年間約2.2万円の負担増となるため、値上げ幅そのものよりも継続的な支出増加が消費者の判断に影響する可能性がある。

一方、価格上昇がそのまま禁煙につながるとは限らない。ニコチンを含む製品では依存性があるため、一般の商品と比べて価格上昇に対する需要の反応が小さくなる可能性があり、価格が上がっても一定の購入を続ける消費者が存在する。

この点から見ると、値上げによる市場縮小は単純な「価格上昇率」だけでは測れない。むしろ重要なのは、消費者が値上げ分をそのまま負担するのか、安価な銘柄へ移るのか、購入本数を減らすのか、紙巻きたばこなど別の製品へ移るのか、あるいは禁煙を試みるのかという行動の分岐である。

また、各社の値上げ幅が一律ではないことも注目される。10月の改定では「テリア」が620円から640円、「センティア」が570円から590円となる一方、JTの「メビウス」は550円から590円となるなど、同じ加熱式たばこでもブランドによって価格上昇幅が異なる。

この価格差は、今後の競争構造を変える可能性がある。例えば高価格帯の商品を継続する消費者と、同じ加熱式たばこの中で低価格銘柄へ移行する消費者が分かれれば、単純な市場全体の縮小だけでは説明できない「銘柄間の移動」が発生するからである。

喫煙者の行動変容:どう動いているか?

値上げによって最初に起こり得る行動は、禁煙そのものではなく「購買行動の調整」である。具体的には、購入する銘柄を安いものへ変更する、1日に使用する本数を減らす、まとめ買いの頻度を変える、紙巻きたばこと加熱式たばこを使い分けるといった対応が考えられる。

このなかでも重要なのが、同じ加熱式たばこのカテゴリー内での乗り換えである。例えば10月以降、640円となる「テリア」から590円の「センティア」へ移れば、同じブランド系列内でも1箱当たり50円の差が生じるため、価格に敏感な消費者にとっては現実的な選択肢になる。これはメーカーにとって、単純な値上げだけでなく、価格帯別の商品構成をどう設計するかという問題につながる。

さらに、値上げが複数回続くことで、消費者が「今回だけの負担増」と認識しにくくなる可能性もある。2026年は4月と10月に制度変更が実施されるため、1回の値上げによる心理的ショックだけでなく、年間を通じた累積負担が意識されやすい環境になっている。

ただし、ここでも「値上げ=喫煙者減少」と短絡することはできない。喫煙行動には価格以外にもニコチン依存、習慣性、職場環境、ストレス、周囲の喫煙状況、製品への嗜好など複数の要因が関係するため、同じ値上げでも消費者ごとに反応は異なるからである。

したがって、2026年以降の市場を分析する際には、喫煙者を単一の集団として捉えるのではなく、値上げ後も購入を続ける層、購入量を減らす層、安価な製品へ移る層、禁煙を試みる層、ニコチンを含まない代替製品へ向かう層に分けて考える必要がある。

「コア層」の残留と「離脱・本数減」の二極化

値上げによる影響は、喫煙者全体に均等に及ぶとは考えにくい。特に長期間の喫煙習慣を持ち、ニコチン摂取を日常生活の一部としている層では、価格が上昇しても購入を継続する可能性がある一方、価格負担を強く感じる層では本数削減や禁煙への動きが生じやすい。

このため、加熱式たばこ市場では今後、「高くなっても購入するコア層」と「価格上昇を契機に消費を減らす層」の二極化が進む可能性がある。市場規模が縮小したとしても、残った需要が必ずしも同じ割合で減少するわけではなく、購入者1人当たりの支出やブランド構成が変化することも重要である。

メーカー側から見れば、ここに大きなジレンマがある。値上げによって1箱当たりの売上高を確保できても、価格上昇をきっかけに購入本数が減れば、長期的には販売数量の減少につながるためである。

一方、低価格帯の商品を維持すれば価格に敏感な消費者をつなぎ止められる可能性があるものの、高価格帯商品の販売から得られる収益とのバランスが問題になる。このため、今後のたばこ市場では「全商品を一律に値上げする」という戦略よりも、消費者の価格感応度に応じて商品群を細かく分ける戦略が重要になってくる。

ここまでを整理すると、2026年の値上げは単に喫煙者の財布を直撃するだけの問題ではない。課税方式の変更を起点として、価格帯の再編、銘柄間の乗り換え、本数削減、禁煙、代替製品への移行が同時に進む可能性があり、これがたばこ市場そのものの構造変化につながる。

残留・継続派

値上げが進んでも、すべての喫煙者が同じように消費を減らすとは限らない。特にニコチン摂取を日常的な習慣としている層では、価格上昇を受け入れて購入を続ける行動が一定程度残ると考えられ、加熱式たばこの市場は「利用者数が一斉に減る市場」ではなく、「利用者の構成が変化する市場」として捉える必要がある。

厚生労働省が2026年にまとめた加熱式たばこに関する知見では、国内外の使用率だけでなく、多製品併用者の傾向や離脱・禁煙への移行動向も分析対象となっている。これは、現在の喫煙者が単一の製品だけを使うとは限らず、紙巻きたばこ、加熱式たばこなどを状況に応じて使い分ける実態を考慮する必要があることを示している。

残留・継続派にとって価格は重要な要素ではあるが、それだけで購買行動が決まるわけではない。製品の味、吸い心地、使用場所の制約、においへの意識、専用機器への慣れなどが複合的に作用するため、値上げ後も「多少高くなっても現在の商品を使い続ける」という選択が生じる。

特に加熱式たばこへの移行をすでに完了している利用者にとって、紙巻きたばこへ戻ることには別の負担がある。製品そのものへの適応だけでなく、周囲へのにおい、喫煙場所、使用方法などを含めた生活習慣全体が変化しているため、価格差だけを理由に以前の製品へ戻るとは限らない。

このため、メーカー側にとって最も重要な顧客層の1つは、値上げ後もブランドを維持する利用者である。販売数量が減少しても一定の利用者が残れば、メーカーはその層に対して新製品や高付加価値製品を投入し、数量減少を単価上昇で補う方向へ動く可能性がある。

ただし、ここには限界もある。価格上昇が累積すれば、継続派の一部でも購入本数を減らしたり、より安い銘柄へ移ったりするため、「コア層が残る」ことと「従来と同じ売上数量が維持される」ことは同義ではない。

禁煙・節煙派

一方、値上げをきっかけに消費量を減らす層も存在すると考えられる。特に、もともと禁煙を考えていた人や、たばこへの支出を負担に感じていた人にとっては、価格上昇が行動を変える具体的なきっかけになり得る。

ここで重要なのが「禁煙」と「節煙」を分けて考えることである。価格上昇によって1日20本だった使用量を15本、10本へ減らすことは、経済的な対応としては明確な変化だが、それだけで禁煙に移行したことにはならない。

むしろ現実には、完全にやめる前に段階的な本数削減が発生する可能性がある。価格を意識することで喫煙する時間や場所を選ぶようになり、「食後だけ」「仕事の休憩時間だけ」など使用機会そのものを減らす方向へ行動が変化することも考えられる。

ただし、加熱式たばこの値上げだけを理由として禁煙者が大幅に増えると断定することはできない。禁煙には価格だけでなく、ニコチン依存の程度、健康意識、年齢、生活環境、周囲の喫煙状況、過去の禁煙経験など複数の要因が関係するためである。

また、禁煙政策の観点では、加熱式たばこをめぐる評価も一枚岩ではない。厚生労働省の2026年の専門委員会では、加熱式たばこから有害物質が発生することは確認されている一方、人体への影響については現時点で科学的知見が十分に蓄積されているとはいえないとの整理が示されている。

この点は市場分析でも重要である。加熱式たばこを紙巻きたばこの単純な代替品として扱うのではなく、健康面、価格面、使用環境、依存性を含めた複数の要素から利用者が選択していると考える必要がある。

さらに、喫煙環境そのものも変化している。厚生労働省の令和6年度調査では、一般施設や事業所などにおける加熱式たばこの屋内全面禁煙割合は73.6%となっており、加熱式たばこについても使用できる場所が無制限に広がっているわけではない。

したがって、値上げによる経済的圧力と、使用場所の制約、健康意識の高まりが重なれば、節煙を経由して禁煙へ向かう人が増える可能性はある。ただし、現時点で2026年の値上げだけによってその動きがどの程度拡大したかを示す十分な実証データは慎重に扱う必要がある。

代替手段(ニコチンレス・電子タバコ)へのシフト

もう1つ注目されるのが、ニコチンを含まない製品や電子たばこへの移行である。価格上昇によって「喫煙そのものをやめる」のではなく、「たばこへの支出を抑えながら吸う行為を残す」という消費者行動が発生すれば、ニコチンレス製品などがその受け皿になる可能性がある。

ここでは「電子たばこ」という言葉を加熱式たばこと混同しないことが重要である。加熱式たばこはたばこ葉を加熱して使用するたばこ製品であるのに対し、一般的な電子たばこは液体を加熱して発生させた蒸気を吸引する製品であり、日本ではニコチンを含む液体の販売に法的な制約があるため、海外市場とは製品環境が異なる。

そのため、日本市場でニコチンレス製品が加熱式たばこの代替になる場合、その役割は必ずしもニコチン摂取の代替ではない。むしろ「口寂しさ」「吸う動作」「休憩時間の習慣」といった喫煙行動の一部を置き換える商品として機能する可能性がある。

この違いは、値上げ後の消費者行動を分析するうえで重要である。ニコチンを必要としている利用者にとってニコチンレス製品だけで完全な代替が成立するとは限らない一方、喫煙習慣そのものを減らしたい利用者にとっては、支出を抑えながら使用頻度を落とす手段となる可能性がある。

また、加熱式たばこから別の製品へ移行する場合も、完全な乗り換えになるとは限らない。平日は加熱式たばこ、休日はニコチンレス製品、あるいは特定の場面だけ別製品を使うなど、複数製品を組み合わせる行動が発生すれば、市場は従来以上に細分化する。

実際、厚生労働省の2026年の研究整理でも「多製品併用者の傾向」が独立した分析項目となっている。今後の市場を理解するうえでは、「喫煙者か非喫煙者か」という二分法ではなく、複数の製品をどの程度の頻度で使うかという利用実態を見ることが重要になる。

ただし、ニコチンレス製品や電子たばこが加熱式たばこの需要を大規模に奪うと現時点で断定することはできない。製品の価格、味、入手性、ブランド力、利用者のニコチン依存度などによって代替可能性が大きく異なるためである。

むしろ注目すべきなのは、価格上昇によって「同じ製品を買い続ける」という選択肢が相対的に魅力を失ったとき、消費者が複数の選択肢を比較するようになることである。600円台の加熱式たばこ、500円台の低価格銘柄、ニコチンレス製品、禁煙という選択肢が並べば、従来は固定されていた消費行動にも比較が入り込む。

この構造変化は、たばこメーカーにとって重要な意味を持つ。競争相手が従来型のたばこメーカーだけではなくなり、消費者の「喫煙関連支出」そのものを取り合う構造へ変化するからである。

「値上げ」がもたらす市場の分岐

以上を踏まえると、2026年の値上げによって生じる可能性がある変化は、大きく4つに分けられる。第1は価格上昇を受け入れて従来製品を継続する動き、第2は安価な銘柄への乗り換え、第3は本数削減や禁煙、第4はニコチンレス製品などへの移行である。

重要なのは、これらが互いに排他的ではないことである。例えば最初は安価な加熱式たばこへ移行し、その後さらに価格負担が増せば本数を減らすというように、消費者が段階的に行動を変える可能性もある。

その意味で、2026年の値上げは市場を一度に縮小させるというより、消費者を複数の方向へ分岐させる作用を持つと考える方が実態に近い。メーカー側から見れば、今後の課題は単純な販売数量の維持ではなく、それぞれ異なる価格感応度を持つ利用者をどのように自社製品群の中へつなぎ止めるかという問題になる。

さらに、紙巻きたばこ、加熱式たばこ、ニコチンレス製品などの境界が消費者側で曖昧になれば、「たばこ市場」という従来の枠組み自体も変化する可能性がある。

逆風に直面するタバコ業界の今後と戦略

2026年の値上げは、たばこメーカーにとって単純な価格改定ではなく、成熟市場で収益を維持しながら消費者の製品選択を再構築する問題になっている。日本では加熱式たばこがすでにたばこ市場の大きな部分を占めており、BATジャパンは2024年末時点で加熱式たばこの市場占有率が40%以上に達したとしている。

この状況では、紙巻きたばこの販売数量が減少する一方で加熱式たばこへ需要を移すという従来型の成長モデルだけでは十分ではない。加熱式たばこ自体にも課税強化と価格上昇が及ぶことで、メーカーは「紙巻きから加熱式へ移す」という市場構造だけでなく、「加熱式利用者をどう維持するか」という次の段階に入っている。

各社が重視しているのが、製品単体ではなく複数のカテゴリーを組み合わせた商品構成である。JTは2025年の統合報告書で、加熱式製品を含むリスク低減製品への投資を強化しながら、従来型たばこについては価格設定と収益性の改善を進める方針を示しており、たばこ事業そのものを「複数カテゴリーの集合」として運営する方向を明確にしている。

これは、販売数量の減少を単純に止める戦略とは異なる。消費者の価格感応度や使用目的が細分化するなかで、メーカー側も高価格帯、中価格帯、低価格帯、加熱式、その他のニコチン関連製品などへ商品群を細かく分け、異なる需要を取り込む必要が生じている。

リスク低減製品(RRP)へのシフトの加速

この戦略の中心にあるのが、いわゆるリスク低減製品である。JTはリスク低減製品について、加熱式製品、注入型たばこ、電子蒸気製品、現代型口腔製品、伝統的口腔製品などを含むカテゴリーとして整理しており、燃焼を伴わない製品群を今後の成長領域として位置づけている。

ただし、ここでは「リスク低減」という企業側のカテゴリー名称と、健康上の安全性を同一視してはならない。JT自身も、このカテゴリーを「喫煙に伴うリスクを低減する可能性を持つ製品」と位置づけており、加熱式たばこを含めた各製品について健康影響を継続的に研究している段階にある。

市場面では、この分野への移行が一時的な流行ではなく、国際的なたばこ産業の長期戦略になっている。JTの2025年統合報告書によると、世界のリスク低減製品市場は2024年に約12兆円規模と推計され、従来型の燃焼式製品より小さいものの、近年は継続的に成長しているとされる。

さらにJTは、2028年までに主要市場で加熱式製品の市場占有率を10%台半ばまで引き上げ、リスク低減製品カテゴリー全体で損益分岐点を達成する目標を掲げている。これは、加熱式たばこを単なる紙巻きたばこの代替商品ではなく、将来の利益成長を担う事業領域として位置づけていることを示す。

もっとも、日本市場では今回の課税方式変更によって加熱式たばこの価格優位性が縮小する。このため、メーカーが今後も加熱式製品への投資を拡大する場合、単純に「価格が安いから移行する」という従来の訴求から、製品の使い勝手、味、機器性能、ブランド、使用環境などを含めた総合的な価値競争へ移行する必要がある。

非・タバコ事業へのポートフォリオ転換

もう1つの長期的な論点が、たばこ以外の事業への資本配分である。たばこ産業は規制、増税、喫煙率低下という構造的な制約を抱えるため、企業が長期的な成長を確保するには、たばこ事業だけに依存しない収益構造を構築することが選択肢になる。

JTは典型的な例であり、たばこ事業に加えて加工食品事業を展開している一方、2025年には医薬事業の移管を完了するなど、事業ポートフォリオの整理も進めている。JTの報告資料では、2022年以降、国内と海外のたばこ事業を統合し、たばこ事業をグループの中核的な収益源として運営する一方、加工食品事業などを含めた全体の事業構成を管理していることが確認できる。

ここから読み取れるのは、非・たばこ事業への転換が「たばこ事業から撤退する」という単純な意味ではないことである。むしろ、たばこ事業から得られるキャッシュを維持しながら、成長余地のあるリスク低減製品や別カテゴリーへ投資し、グループ全体の収益源を分散するという考え方が中心になる。

この構造は、2026年の値上げによってさらに重要になる。たばこ税負担が上昇して販売数量が減少すれば、従来型製品から得られる売上高だけで長期的な成長を維持することは難しくなるため、企業は「1箱をいくらで売るか」だけでなく、「どの事業から利益を生み出すか」を考える必要がある。

価格戦略とポートフォリオの細分化

値上げ局面で最も直接的な企業戦略となるのが価格設定である。すべての商品を同じ幅で値上げすれば、価格に敏感な消費者が一斉に安価な銘柄へ移行したり、市場そのものから離脱したりする可能性があるためである。

そこで重要になるのが価格帯の細分化である。例えば600円を超える高価格帯商品と500円台の商品を併存させれば、価格を重視する利用者とブランドや製品性能を重視する利用者の双方を一定程度取り込める。

2026年の価格改定でも、実際に銘柄ごとの価格差が残っている。フィリップ・モリス・ジャパンでは10月にテリアが640円、センティアが590円となる予定であり、同じ加熱式たばこ市場のなかに50円の価格差が存在することになる。

この価格差はメーカー側にとって単なる値段の違いではない。消費者の価格感応度に応じて異なる商品を用意し、値上げによって顧客が他社へ流出する前に、自社の別ブランドや別価格帯へ移行させる仕組みとして機能する可能性がある。

ただし、低価格帯を拡充しすぎれば高価格帯商品の販売を自社製品同士で奪う問題も生じる。逆に高価格帯へ偏れば、価格負担に耐えられない消費者が他社製品や禁煙、ニコチンレス製品へ流れる可能性が高まるため、価格帯の設計は市場全体の需要を見ながら調整する必要がある。

この意味で、2026年の値上げはたばこメーカーにとって「値上げできるかどうか」だけを問う局面ではない。どの製品をどの価格で残し、どの消費者をどの商品へ誘導し、どのカテゴリーへ投資するかという、商品ポートフォリオ全体の再設計が問われている。

さらに、JTが2025年に示した戦略では、加熱式製品への投資を優先しながら、従来型の燃焼式製品では価格設定による売上高の成長と収益性の改善を目指すという方向性が明示されている。つまり、従来型製品をすぐに放棄するのではなく、成熟市場から収益を確保しながら成長領域へ資源を移す「二層構造」の経営が想定されている。

業界にとっての本当の逆風

こうして見ると、たばこ業界が直面する逆風は、2026年10月の値上げだけではない。増税、価格上昇、喫煙者の減少、健康政策、使用場所の制約、代替製品との競争という複数の要因が重なり、従来型たばこの市場環境そのものが変化している。

その一方で、企業側には一定の対応余地が残されている。価格改定による単価上昇、低価格帯商品の維持、加熱式製品の改良、複数カテゴリーへの展開、非・たばこ事業への資本配分などを組み合わせれば、販売数量が減少する環境でも収益構造を変化させることは可能である。

したがって、今後のたばこ業界は「市場が縮小するか」という単純な問題ではなく、縮小する市場の中で、どの製品と事業を成長させるかという段階へ移行すると考えられる。加熱式たばこの値上げは、その変化を消費者側から可視化する出来事の1つにすぎず、企業側ではすでにより長期的なポートフォリオ転換が進められている。

今後の展望

2026年9月時点で見ると、加熱式たばこ市場は「値上げによって一気に崩れる市場」でも「従来通り安定する市場」でもなく、利用者と製品の双方が細分化する段階に入ったと考えられる。厚生労働省の資料によれば、2025年時点で加熱式たばこは国内のたばこ販売数量の約45%を占めており、すでに日本のたばこ市場を考えるうえで無視できない規模になっている。

その市場に対して、2026年の課税方式変更は構造的な圧力を加えている。財務省は、加熱式たばこが紙巻きたばこと同程度の価格帯で販売され、代替性も高いにもかかわらず税負担が低い状況や、製品の軽量化などによって税負担の差が生じていたことを課税方式見直しの背景として説明している。

このため、今後は「加熱式たばこなら紙巻きたばこより安い」という価格面の優位性だけで利用者を獲得することは難しくなる。メーカーは、価格以外の製品価値を高める一方、価格に敏感な利用者に対応する低価格帯も残すという、より複雑な商品設計を迫られることになる。

消費者側でも、値上げによる反応は一方向には進まないと考えられる。一定の利用者は価格上昇を受け入れて継続する一方、別の利用者は購入本数を減らし、安価な銘柄へ移り、禁煙を試み、あるいはニコチンレス製品など別のカテゴリーへ移行する可能性がある。

したがって、今後の市場規模を判断する場合には、単純な販売数量だけでなく、1人当たりの購入数量、平均販売価格、ブランド間の移動、複数製品の併用率などを同時に見る必要がある。特に値上げによって販売数量が減少しても、平均単価の上昇によって売上高や利益への影響が一定程度吸収される可能性があるため、「数量減少=企業業績の同率減少」と考えることはできない。

一方、健康政策の面では、加熱式たばこを取り巻く環境も引き続き変化している。2026年に厚生労働省がまとめた知見では、加熱式たばこの主流煙や副流煙に有害物質や発がん性が指摘される成分が含まれることが確認され、ニコチン依存や心血管系への影響などが検討されている一方、長期的な健康影響についてはなお不確実性が残されている。

この点は、企業がリスク低減製品を成長分野として位置づける場合にも重要である。製品を燃焼式たばこから非燃焼式製品へ移行させることと、その製品が健康上のリスクを完全になくすことは別問題であり、今後は科学的根拠に基づく情報提供が企業にも求められる。

リスク低減製品へのシフトと今後の競争

たばこメーカー各社が注目しているのが、燃焼を伴わない製品を含むリスク低減製品の領域である。JTはリスク低減製品を、加熱式製品、電子蒸気製品、現代型口腔製品など複数のカテゴリーに分けており、2024年の世界市場規模を約12兆円と推計している。

JTは2028年までに主要市場で加熱式製品の市場占有率を10%台半ばまで引き上げ、リスク低減製品カテゴリー全体で損益分岐点を達成する目標を示している。つまり、加熱式たばこへの投資は一時的な価格競争への対応ではなく、中長期的な利益成長を担う事業戦略の一部として位置づけられている。

ただし、日本では2026年の課税方式変更によって加熱式たばこの価格が上昇するため、メーカーにとっては難しい局面になる。紙巻きたばこから加熱式たばこへの移行を促しても、その加熱式たばこの価格が上昇すれば、利用者が別の製品へ移る可能性も生じるからである。

そのため、今後の競争は「紙巻きたばこ対加熱式たばこ」という単純な構図から、「どの製品カテゴリーが消費者の可処分所得を獲得するか」という競争へ変わっていく可能性がある。加熱式たばこ、紙巻きたばこ、ニコチンレス製品などが同じ消費者の支出を奪い合う構造になれば、製品価格とブランド力の双方が重要になる。

JTも2026年の統合報告書で、加熱式製品を含むリスク低減製品への資源配分を進める一方、燃焼式たばこでは投資効率と収益性を重視する方針を示している。これは市場が縮小するカテゴリーをただ放棄するのではなく、成熟カテゴリーから収益を確保し、その資金を成長カテゴリーへ振り向ける構造である。

非・たばこ事業へのポートフォリオ転換

長期的には、たばこ企業がたばこ関連製品だけに依存しない事業構造をどこまで構築できるかも重要になる。喫煙人口の減少、増税、規制強化が続けば、燃焼式たばこだけで長期的な数量成長を実現することは難しいためである。

もっとも、現時点の主要企業の戦略を見る限り、たばこ事業から直ちに撤退する方向ではない。むしろ、たばこ事業を依然として主要な利益源としながら、加熱式製品などへ資源を移し、さらに食品など他事業を組み合わせることで、企業全体の収益構造を安定させる方向が確認できる。JTも2026年の統合報告書を公表し、たばこ事業を中心としたグループ戦略を引き続き展開している。

この構造は、今後のたばこ産業を「縮小産業」とだけ捉えることの難しさを示している。市場全体の数量が減少しても、価格上昇、製品構成の変化、新カテゴリーへの移行、海外市場、非・たばこ事業などを組み合わせることで、企業レベルでは異なる成長経路を構築できるからである。

価格戦略とポートフォリオの細分化

今後もっとも現実的な企業戦略の1つは、価格帯を細かく分けることである。高価格帯の商品を維持しながら、中価格帯や比較的安価な商品を残すことで、価格を重視する消費者とブランドや製品性能を重視する消費者を同時に取り込むことができる。

2026年の値上げでも、すでにこうした価格差が形成されている。主要銘柄のなかには600円を超える製品が存在する一方、500円台にとどまる製品もあり、今後はこの価格差が消費者の銘柄選択に影響する可能性がある。

ただし、価格帯を増やせば解決するわけではない。低価格商品への移行が進みすぎれば企業自身の高価格商品の販売を侵食する可能性があり、高価格化を進めすぎれば価格に敏感な消費者が他社製品や禁煙へ流れる可能性がある。

したがって、企業に求められるのは単純な値上げではなく、消費者の価格感応度に応じた商品構成の最適化である。2026年以降の競争では、1箱当たりの利益率、販売数量、ブランド間の移動、顧客維持率を組み合わせて価格戦略を設計する必要がある。

まとめ

2026年の加熱式たばこ値上げは、単なる小売価格の上昇ではない。その背景には、加熱式たばこの普及によって従来の課税方式と製品実態の間に生じたずれを修正し、紙巻きたばことの税負担の公平性を高めようとする制度変更がある。

その結果、加熱式たばこは「紙巻きたばこより安い」という価格面の優位性を失いつつある。600円台の商品が増えることで、消費者にとっては価格負担が明確になり、残留・継続、低価格銘柄への移行、本数削減、禁煙、代替製品への移行という複数の行動が生じる可能性がある。

特に重要なのは、喫煙者の行動が二極化する可能性である。価格上昇後もニコチン摂取や製品への習慣性を優先して購入を続ける層がいる一方、価格をきっかけに消費量を減らしたり、禁煙を試みたりする層も存在すると考えられる。

一方、たばこメーカーにとっては、こうした消費者の分岐そのものが新たな競争環境を形成する。加熱式たばこだけでなく、リスク低減製品、ニコチンレス製品、その他のニコチン関連製品を含めたポートフォリオを構築し、価格帯を細分化することが重要になる。

さらに長期的には、非・たばこ事業への資本配分も企業の収益構造を左右する。たばこ市場そのものが縮小しても、加熱式製品などの成長分野と成熟製品から得られる収益、そして他事業を組み合わせれば、企業は市場縮小とは異なる経営戦略を取ることができる。

したがって、2026年の値上げを「たばこが高くなった」という現象だけで捉えるのは不十分である。今回の税制変更は、消費者に対しては購買行動の再検討を促し、メーカーに対しては価格戦略と商品構成の再設計を迫り、行政に対しては課税と健康政策の整合性を改めて問う出来事となっている。

今後の焦点は、10月の追加的な価格上昇を境として、実際にどの程度の本数減少や銘柄移動が起こるのかに移る。特に、2026年下半期から2027年にかけての販売数量、加熱式たばこの市場占有率、複数製品の併用状況、禁煙・節煙行動を追跡することで、今回の値上げが一時的な価格変化だったのか、それとも市場構造を変える転換点だったのかをより具体的に検証できる。


参考・引用リスト

  • 財務省「令和7年度税制改正の解説――租税特別措置法等(間接税等関係)の改正」。加熱式たばこの課税方式変更の背景、重量基準への変更、最低課税などについて参照。
  • 厚生労働省「第6回受動喫煙対策専門委員会」「加熱式たばこに関するこれまでの知見の整理」。加熱式たばこの使用実態、有害物質、能動喫煙・受動喫煙、健康影響などについて参照。
  • 厚生労働省「第8回受動喫煙対策専門委員会・議事録」。2025年時点の国内たばこ販売数量に占める加熱式たばこの割合、健康影響に関する現時点の整理について参照。
  • 厚生労働省「上野大臣記者会見概要(2026年7月14日)」。加熱式たばこの健康影響について、現時点で科学的知見に不確実性が残るとの政府見解を確認。
  • JT「統合報告書2025」。世界のリスク低減製品市場、加熱式製品への投資方針、2028年に向けた事業目標などについて参照。
  • JT「統合報告書2026」。2026年時点におけるたばこ事業およびリスク低減製品を含む事業戦略について参照。
  • JT「リスク低減製品」。リスク低減製品の定義、製品カテゴリー、科学的評価に関する企業側の説明を参照。
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